4 / 12
037. 未完成
しおりを挟む
夕方は不思議な出会いがある。
暑くも寒くもないこの時間帯が好きだ。暑ければ不感蒸泄が多くなり気がつかないうちに体力を奪われている。寒ければ体温が下がって活動耐性が低下してしまう。暑くも寒くもないのはいいことだ。丁度いい気温で散歩をするのは心地が良い。幸い自分にはこの逢魔が時の怪異なんて目じゃないし。
特に当てもなく散歩をする。
ふと下を向いたのは偶然で、それがきらりと光ったのは何のめぐりあわせだろう。夕日が反射したからだろう、きらきらと輝く何かを見ようと俯き加減になった。何の変哲もないガラスのようなのに、心を掴む形をしていた。ちょうど、虹のような半円状の塊。拾い上げてかざしてみると向きの加減で七色に光る。
「きれいだな」
きっと、インテリタスが喜ぶに違いない。あれはきらきらして輝いたものが好きだ。本物の虹のように透き通って、姿かたちも虹に似ていて、きっと気に入るはずだ。
その輝きを見せてやろうとマナブは散歩のルートを変えた。
***
娘は今日、けんけんぱをして遊んでいた。いつ頃から遊びに興じているのだろう。既に空き地は娘が踏んだ分だけクレーターだらけになっていたが、インテリタス本人は楽しそうだった。
「すごい穴だな……」
インテリタスが一段下がった向こう側の穴からマナブを見つけて手を振った。
「けんけんぱ」
「あとで埋めておけよ」
空き地が凹凸だらけになっているのはいつものことで、しかし、今日中にそれらを埋めておかないと、明日の朝早くに土で埋め直してから遊ばないといけないことをマナブは知っている。
じゃないと明日一緒に遊べないだろ、と言うとなるほど、というようにインテリタスが頷いた。
「僕が埋めてる時もあるんだから、半分は手伝えよ」
「わかった」
そうそう、とマナブが握りしめていたきらきら輝くものをインテリタスに差し出す。
「いいもの見せてやるよ」
虹の形をした欠片。指で挟んで透かして見せる。それから、インテリタスの掌に乗せた。
「綺麗」
小さな指先でインテリタスが同じように空に透かしてみる。魅入られたようにじっと眺めているのをみて、気に入ったのが伝わった。
「くれるの?」
「いいよ、欲しいなら」
「ありがとう、探してたの」
「探してた?」
インテリタスがマナブの背後の空を指差した。振り返ると虹の形の亀裂。拾った欠片にぴったりとはまる。まるで誂えたかのような形だった。
インテリタスがじっとかざしている。すると、その亀裂に溶けるようにして虹色の欠片が消えた。
「消えちゃった」
せっかく持ってきてやったのにと言う気持ちと、なんで今消えたんだという疑問。探してた、という発言もわからないけれど、インテリタスが嬉しそう(に見える)なのでどうでもよくなった。
「ありがとうマナブ」
「綺麗なやつ拾ったら、またあげるよ」
暑くも寒くもないこの時間帯が好きだ。暑ければ不感蒸泄が多くなり気がつかないうちに体力を奪われている。寒ければ体温が下がって活動耐性が低下してしまう。暑くも寒くもないのはいいことだ。丁度いい気温で散歩をするのは心地が良い。幸い自分にはこの逢魔が時の怪異なんて目じゃないし。
特に当てもなく散歩をする。
ふと下を向いたのは偶然で、それがきらりと光ったのは何のめぐりあわせだろう。夕日が反射したからだろう、きらきらと輝く何かを見ようと俯き加減になった。何の変哲もないガラスのようなのに、心を掴む形をしていた。ちょうど、虹のような半円状の塊。拾い上げてかざしてみると向きの加減で七色に光る。
「きれいだな」
きっと、インテリタスが喜ぶに違いない。あれはきらきらして輝いたものが好きだ。本物の虹のように透き通って、姿かたちも虹に似ていて、きっと気に入るはずだ。
その輝きを見せてやろうとマナブは散歩のルートを変えた。
***
娘は今日、けんけんぱをして遊んでいた。いつ頃から遊びに興じているのだろう。既に空き地は娘が踏んだ分だけクレーターだらけになっていたが、インテリタス本人は楽しそうだった。
「すごい穴だな……」
インテリタスが一段下がった向こう側の穴からマナブを見つけて手を振った。
「けんけんぱ」
「あとで埋めておけよ」
空き地が凹凸だらけになっているのはいつものことで、しかし、今日中にそれらを埋めておかないと、明日の朝早くに土で埋め直してから遊ばないといけないことをマナブは知っている。
じゃないと明日一緒に遊べないだろ、と言うとなるほど、というようにインテリタスが頷いた。
「僕が埋めてる時もあるんだから、半分は手伝えよ」
「わかった」
そうそう、とマナブが握りしめていたきらきら輝くものをインテリタスに差し出す。
「いいもの見せてやるよ」
虹の形をした欠片。指で挟んで透かして見せる。それから、インテリタスの掌に乗せた。
「綺麗」
小さな指先でインテリタスが同じように空に透かしてみる。魅入られたようにじっと眺めているのをみて、気に入ったのが伝わった。
「くれるの?」
「いいよ、欲しいなら」
「ありがとう、探してたの」
「探してた?」
インテリタスがマナブの背後の空を指差した。振り返ると虹の形の亀裂。拾った欠片にぴったりとはまる。まるで誂えたかのような形だった。
インテリタスがじっとかざしている。すると、その亀裂に溶けるようにして虹色の欠片が消えた。
「消えちゃった」
せっかく持ってきてやったのにと言う気持ちと、なんで今消えたんだという疑問。探してた、という発言もわからないけれど、インテリタスが嬉しそう(に見える)なのでどうでもよくなった。
「ありがとうマナブ」
「綺麗なやつ拾ったら、またあげるよ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる