71 / 80
第4章 紫禁編
別れもあれば
しおりを挟む「という訳なんだ」
「あの鈴麗が、中国の王女、か…………」
「中国…………?でも、未だに信じられないです」
どうやらこの世界では中華民国を『中国』とは略さないらしい。ユリアは慣れない略称に違和感を抱くが、そんな事は言ってられない。
「それで、行方不明だった王女が無事発見された、って今ニュースになっている訳か」
それを頭に入れて改めて見てみると、そんな意味合いの漢字がテロップの中の所々に含まれていた。
「でも、そんな理由なら仕方ないですよね。中華民国の人達も心待ちにしてたでしょうし。でも、やっぱりお別れくらいは言いたかったです…………」
入学以来の一番の親友であるユリアは、涙目で俯いてしまっている。だが、それ以上に別れを悔やんでいる
「……………ごめん、やっぱり僕今日はホテルにいるよ」
一人の友人は気分が観光どころではないようで、ホテルの自室に戻ってしまった。洋斗は整理する時間も必要だろうと思い、声をかけることもせずに見送った。
内容の違いは有れど、大事な人を失う悲しみは知っているつもりだった。
「じゃあ俺達は行こうか」
「えっ……………………そうですね。せめて楽しいお土産話を持って帰りましょう!」
そして、一人の時間を作るのと、負い目を感じさせないのを理由に、二人は大人しく観光することにした。
~~~~~~~~~~~~~~~
~北京、紫禁城東南部、文華殿~
元の世界では文化遺産としてユネスコに管理されている紫禁城だが、こちらの世界ではまだ皇帝が存在するため現在も現役で宮殿としての機能を有している。
その内の一角、皇太子の居宮の役割を担う文華殿の内の一室に、皇女・宣 鈴麗はいた。
「………………………………………はぁ」
一人で使うには有り余る部屋に独り、繊細な刺繍入りの絨毯の上にある豪勢な椅子に深々と座って、力無くぐったりしている。
何故そこまで疲れているのか?
どこで情報を仕入れたのか、北京の空港のロビーに入るなり待ち構えていた取材陣にもみくちゃにされ、雨霰あめあられとも言うべき口撃に目を回したのだ。『皇女発見』のニュースが流れている中で堂々と一般空港を使って戻ってきたことを、鈴麗は椅子の上で目を瞑りながらあながち全力で後悔していた。
(いったい何なのよあれ……………あれほどの勢いがあれば下克上だって出来そうなくらいじゃない……………)
ふと、兵馬俑がこちらに向かって進軍してくる様を連想して身震いする。どうやらマスコミの進軍は鈴麗の胸にかなりのトラウマとして刻まれてしまったようだ。
そのトラウマから逃げるように、窓の外を見やる。昔懐かしい景色が、三年を経た今も変わらずそこにあった。
(あんなことがあっても、懐かしいものはやっぱり懐かしいのね…………………)
その景色を見ると、やはりここが生まれ育った故郷なんだという実感がわいてくる。それと同時に、
(アイツら、今ごろ修学旅行か……………。アフリカとかに行かされてないと良いけど)
思い出が少しずつ遠くなっていくのも鈴麗は実感していた。芦屋に『さよなら』と言い放ってしまった以上、もう『黄 鈴麗』としてあの学校に帰ることは出来ないのだ。帰ってしまうと、自分が芦屋に嘘を言った事になってしまう。これは最後まで友達でいてくれた彼に対する彼女なりの『けじめ』だった。
そのとき、コンコンと二回、扉をノックする音が部屋に響いた。
「どうぞ」
「失礼します」
城門のように重苦しい扉を開けたのは、生まれた頃からずっと自分の世話をしてくれていた趙 飛龍だった。
「フェイ…………………より一層老けたわね」
「リン様は、暫く見ない内に御美しく成られて。時代の流れを痛感致します」
二人はお互いのことをリン、フェイと愛称で呼ぶほどの仲だった。
「溥儀様が太和殿にてお待ちです」
「!!分かった、着替えてから行くわ」
太和殿は歴代皇帝の即位式や結婚、それに元旦や冬至などを祝う時と重要な朝会、そして皇帝の葬儀───といった宮廷の重大な式典を行う時に使われるところだ。何か大事な話があるのだろう。そう鈴麗が判断するには十分の舞台だった。
目的は挨拶と伝言だけだったのだろう。フェイがすぐに出て行ってしまってガチャン、と扉を閉めたのを確認して、鈴麗は上着のボタンを外し始めた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる