25 / 75
第2章 饗宴編
エンカウントⅠ
しおりを挟む~洋斗~
目を開けると、目の前に大きなジェットコースターが走っていた。
「………なんだここ?」
『おっと俺としたことが言い忘れてたぜ。まず、代表者はステージ内にランダムで転送されること、それと今回のステージが『遊園地』だって事だ!アイム総理ー!ハーブアナイスバァトォル!レディ………
スターーート!』
(………あぁ、今始まったのか)
開始の合図をうけ、とりあえず周囲を見回す。掲示板のようにマップが立ててあったので見てみると、目の前のジェットコースターの他に遠くにはメリーゴーラウンド、大きな観覧車もあるらしい。元の世界の遊園地と大した違いはないようだ。
「さて、どうしたものか」
周りをみた限りだと相手は見当たらない。相手を探しに行くのも手段だが、クラス総出で待ち伏せされていたら一巻の終わりだし、何より相手のフィールドで戦うことだけは避けたい。
「とりあえず誰か来るか待ってよう」
洋斗はそばにあったベンチに静かに腰掛ける。
───それから10分ほど座っていると、向かいの建物の陰から一人歩いてきた。
「ったく、心なしか強そうなやつと会っちまったぜ」
そいつはそう言いながら左手でガシガシと頭をかきむしっている。特に調査などは行っていないため、目の前にいるそいつが何者なのかはわからない。
やるしかないんだろうな………と、こちらも内心ぐったりしながらも両手を膝に置いてすっと立ち上がる。そして、まるで戦う意志を示すように雷を体にまとわせる。
洋斗は『能力を放出して戦う』という基本的なスタイルではなく、『能力を身体能力のアシストとして使う』という、元々持つ身体能力を基盤としたスタイルを選んでいる。能力にこういう使い方もあるという事は、以前に男達が学校に突入してきた時の一戦で分かっていた。
体全体が鈍く青白い光を発し、両手足が帯電して時折、バチ、バチ………と小さく音を立てる。
「なんだよ、やる気満々かよ。しょうがねー、さっさと終わらせるか」
相手の左右から土壁がせり上がり、表面の凹凸が大きくなっていく。そして、
「さっさとくたばっちまえ」
土壁の凹凸が弾丸となって乱射された。
視界が濁るほどの弾幕が高速で迫ってくる。
「……………………」
それに対して洋斗は、膝を曲げて静かに前傾体勢をとった後、
───既に
相手の目の前で拳を握っていた。
「は?」
あまりの速さに、目がついて行かなかった。
元々の運動神経に加えて能力による肉体強化が付与されたことによって、爆発的な運動能力を手に入れる。ただ、並の人がやったところであまりの速さに目が、あまりの負担に体がついていけないので、これは並外れた体力を持つ洋斗だからこそなせる技でもあるのだ。
相手は自身の左右に壁を作り、その壁から弾丸を乱射しているが砲身である二つの壁の間には隙間があるため、一点の敵をねらう以上相手の前には弾幕が存在しない空間が生まれる。洋斗はその空間に全速力で突っ込んだのだ。
「───悪いな」
「ッッッ!?」
相手は何か対策を講じようとしているのかもしれないが、もう遅い。
洋斗は拳をそのまま相手の顔面にぶつけて思いっきり振り抜いた。
相手は10m以上吹っ飛んで建物を突き破っていった。あれでまだ生きてるのか?とも思うものの、所詮は架空の出来事なので気にする必要もない。ここで起こったことで禍根を残さない、という慣習なのも橘先生から聞いている。
「………ふぅ」
久しぶりに全力で人を殴り飛ばした桐崎洋斗は、心なしか達成感と清々しさにあふれた表情。
最後に全力で人を殴ったのは親父にハードなつっこみを入れたときだったか………
ノイズのように消えていく相手の傍ら、そんなことを考えていた。
~ユリア~
私は今、観覧車の前にいます。私はこの銃を手に入れるためにも、この対抗戦で勝ち星をあげないといけないのですが、勝機が全く見えません。
(未だに練習が不十分な私が勝てるような相手なんて………)
そう考えながらゆっくり回る観覧車にふと目をやると───。
「…………………………zzz」
観覧車の個室のひとつの中で、一人の女の子が寝ていました。
「ふぇ!?」
はい、目を疑いました。二度見しましたとも。
女の子が寝ている個室がゆっくりと下りてきます。
(ど、どうしましょう。もしかしてこれってすごくチャンスなのでは!?………よし!)
私は個室が一番下に降りてきたところでガチャッとドアを開けて中に入ります。
「んゅぅ………」
………ですが女の子は未だにぐっすりです。起きる気配が全くありません。
よし、今しかない!!───と勢いよく銃口を向けたところで、ふと脳内に天使の声が響きます。
(あれ?もしこれで私が勝利したとして、これってすごく卑怯じゃないでしょうか?いくら勝つためといっても、熟睡中の女の子を銃で撃つなんてやってはいけないことなのでは………?)
と思っていると、今度はこれまた脳内の悪魔が囁いてきます。
(い、いやいや!いくら寝ているといっても相手は相手です!この一勝がもしかしたらDクラスの勝利の、そして私のためにもなる、はず!)
(いや、でもさすがに寝首を掻くようなことは………)
(いや!それでも………)
………………………………。
……………………。
……………。
───ユリアは優しい。
途轍もなく、虫すら慈悲で見逃すほどの優しさを持っている。
それ故にゆっくりと、かつ確実に思考の渦にはまっていく。観覧車の中で。ぐっすり眠っている女の子(Bクラスの寿 海衣だとわかるのは対抗戦が終わってから)のすぐ横で。
こうしてユリアの長い、果てしなく永い『葛藤』という名の戦いが始まった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
アルゴノートのおんがえし
朝食ダンゴ
ファンタジー
『完結済!』【続編製作中!】
『アルゴノート』
そう呼ばれる者達が台頭し始めたのは、半世紀以上前のことである。
元来アルゴノートとは、自然や古代遺跡、ダンジョンと呼ばれる迷宮で採集や狩猟を行う者達の総称である。
彼らを侵略戦争の尖兵として登用したロードルシアは、その勢力を急速に拡大。
二度に渡る大侵略を経て、ロードルシアは大陸に覇を唱える一大帝国となった。
かつて英雄として名を馳せたアルゴノート。その名が持つ価値は、いつしか劣化の一途辿ることになる。
時は、記念すべき帝国歴五十年の佳節。
アルゴノートは、今や荒くれ者の代名詞と成り下がっていた。
『アルゴノート』の少年セスは、ひょんなことから貴族令嬢シルキィの護衛任務を引き受けることに。
典型的な貴族の例に漏れず大のアルゴノート嫌いであるシルキィはセスを邪険に扱うが、そんな彼女をセスは命懸けで守る決意をする。
シルキィのメイド、ティアを伴い帝都を目指す一行は、その道中で国家を巻き込んだ陰謀に巻き込まれてしまう。
セスとシルキィに秘められた過去。
歴史の闇に葬られた亡国の怨恨。
容赦なく襲いかかる戦火。
ーー苦難に立ち向かえ。生きることは、戦いだ。
それぞれの運命が絡み合う本格派ファンタジー開幕。
苦難のなかには生きる人にこそ読んで頂きたい一作。
○表紙イラスト:119 様
※本作は他サイトにも投稿しております。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
異世界勇者~それぞれの物語~
野うさぎ
ファンタジー
この作品は、異世界勇者~左目に隠された不思議な力は~の番外編です。
※この小説はカクヨム、なろう、エブリスタ、野いちご、ベリーズカフェ、魔法のアイランドでも投稿しています。
ライブドアブログや、はてなブログにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる