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第2章 饗宴編
仮想現実
しおりを挟む「なんだか時間がかかってしまいそうなので、先に代表者から決めましょう。皆さん一度席に戻ってください」
頭を抱えていたら橘先生が一度時間を区切ってくれたようだ。これで話を有耶無耶にできればいいのだが。
「と言っても、順位付きの実技演習みたいなものなので、誰がやってもかまいません。まあ、なんだかんだで毎年本気になるんですけどね…………」
「あの…………」
芦屋がおずおずと手を挙げる。
「その対抗戦のルールはどうなっているんですか?」
「そういえば説明がまだですね。説明します」
そういって橘先生は黒板に小さな丸を四つ書いた。
「まず一クラスの代表者は4人。各クラスの中から代表者4人を出します」
小さな4つの丸のそばにAと書いて、それを囲めるくらいの丸をもう3つ書いた。その中にB、C、Dを書き加える。同じようなグループが4つあるということだろう。実際、一年のクラスはA~Dの四つだ。
「そして、代表者16人が一つのステージの中で戦って、残ったのが一クラスになった時点で終了、そのクラスが優勝という訳です」
「ま、待ってください!16人で戦うのは危険では!?」
「それもだけど、16人が総当たりで思う存分戦える場所なんてどこにあるのよ!?」
ユリアと鈴麗が反応する。
確かにそうだ。16人が同時に戦えるような場所なんてあるわけ無い。そして何より、それはあまりに危険すぎる。なぜならそれは、人に対して能力を放つと言うことだからだ。校舎に侵入してきたあの男達のように…………。
だが、俺たちのそんな不安を他所に、先生はいつものおっとりした笑顔のままだった。
「それについてはこれから説明します。ついてきてください」
「なんですかこれ?」
場所は変わって、一年校舎の能力講習棟。そこには見慣れない物が置かれていた。見た目はゴテゴテの酸素カプセル、と言ったところだろうか。人が入ると思われるところから配線のようなものが何本も伸びていて、それを辿った先は上に浮かぶ黒い立方体に繋がっていた。
「ユリアさん、ここに入ってみますか?」
「え!?あ、はい!」
先生が横のスイッチを押すとガラスで出来た透明な上半分が上に開いて、指名を受けたユリアが中に寝転ぶ。先生がスイッチを押すと上半分が静かに閉まった。
「これは中に入った人のコピーを別の仮想空間に創り出すものです。まずこの中で入った人の身体構造から生命力量、能力噴出点、身体機能まで全てを写し取ります。それをケーブルを通してあの立方体『キューブ』に移してその中に『縮小化したコピー』をつくって、それらがあの中で戦うのです。直にあの中の映像が映し出されると思います」
程なくしてキューブから キュゥーンと言う音と共に青く光り始めた。それはさながら体の中を血液が流れ始めたみたいだ。そこから、どこかの映像が映し出された。
それは───。
『わぁ、チョウチョもとんでますー』
「「「……………………………………」」」
無駄に順応性が高い。
無邪気に草原をスキップするユリアだった。
「…………えっと、聞こえますか?」
『わひゃッ!?せ、先生?どこですか?』
チョウチョを追いかけていたユリアが立ち止まってキョロキョロし始める。どうやら先生が持っているマイクで中の人と通信できるようだ。
「ええと、詳しい話は後ほど話しますが、そうですね…………ユリアさん、今銃を持っていますか?」
『え?はい、ここに』
ユリアはスカートのポケットから以前見せてくれた銃を出してみせる。
どうやら身体構造だけでなく手持ちの武器まで忠実に複製されているようだ。
「では、まずその銃でそこにいる怪物を撃ってください」
『か、怪物って…………!!?』
先生が手元のスイッチを押すと、画面内のユリアの前に巨大ゴリラ(?)が現れた!
『ヴオオオォォォォォォォォ!!』
『キャァァァァァァァァァァ!!』
ゴリラの咆哮を前にユリアは絶叫を挙げ、一心不乱に銃を乱射した。
いきなり目の前に自分の背丈ほどもある野生動物が現れて叫び始めたのだ。
射撃しながら目瞑ってしまっているあたりに、その時の恐怖を察してあげてほしい。
しばらく撃ちまくっていると、まるで観念したように苦悶の鳴き声を上げてゴリラが消えた。
『はぁ…………はぁ…………な、なんですか、今のは!?』
「今のは仮想の敵です。偽物の世界なのでそういうことも出来るのですよ。では次に…………」
次に現れたのは───
「それにヤられて下さい」
さっきの何倍も巨大なゴリラ(?)だった。
『や、ヤられるって、え!?』
「はい、そのまま無抵抗で攻撃されて下さい」
「大丈夫なんですか?」
「この仮想空間では先ほどコピーした身体機能などから算出した『致死ダメージ量』というものが設定されています。それに達するダメージが蓄積されたときにゲームオーバー、つまり仮想空間からの強制退室となります。まぁ見ていてください」
先生に促されて画面を見ると、ゴリラのパンチがユリアに直撃したところだった。
やがてその姿は透けるように画面から消え、そしてそれからわずかも経たないうちにカプセルの中から、ガツン!と何かがぶつかる音がした。先生がスイッチを押すと再びカプセルの上半分が開き、ガバァッ!と勢いをつけてユリアが起き上がる。
先ほどの音はカプセルの蓋に頭をぶつけた音なのだろう、ユリアのおでこは真っ赤になっていた。
「とまあ、こんな感じです」
「えちょ今のどどどういうことですか!?何です今のってそもそも一体私のおでこが痛いんですけど何ですかこれ!!??」
「こうして想定どおり面白い反応をしてくれたユリアさんには後で話すとして。とにかく、これで場所の面も安全の面も大丈夫という訳です」
そんな説明が終わったところで授業の終了を伝えるチャイムが鳴った。
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