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第1章 入門編

一方そのころ

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ー2012.06.15ー



 時は少しさかのぼり、洋斗が保健室で橘先生と話している頃───。



「僕と、付き合って下さい!」

「………ご、ごめんなさい!」



 とある学校の体育館裏で、一つの恋が終わりを告げた。告白を終えた男子は走って逃げ去っていく。

 それを静かに見送るのは、告白を断ち切った金髪の美少女・巳島由梨香だ。

 そう、ここは洋斗が元々いた世界の───本来ならば洋斗が入学するはずだった『京都府立倉華ソウカ高等学校』だ。





「また告白されちゃったよ。これで今月で6人目、先月の8人を越えそう。その気はないって言ってるのに、私の何がいいんだろ…………」



 由梨香は、教室の一角でご飯を食べながらグチっている。その向かい側でボーッと話を聞いているのは…………



「だからさ、って───



 聞いてるの、ヒロ?」





 誰がどう見ても、あの『桐崎洋斗』だった。



「…………聞いてるっての。それで、そいつがなんだって?」



『桐崎洋斗』は、露骨に気だるそうな感じで答える。



「そう!それでね、私がそんな事言う人はなおさら嫌い、って言ったら逆ギレし    」



 由梨香の口が不意の出来事に止まる。あの由梨香のマシンガントークが途切れた理由はただ一つ。





『桐崎洋斗』が突然『ブレた』からだ。





 まるでテレビ画面にノイズが走ったように、『桐崎洋斗』の部分だけ歪んだのだ。



(え…………?何今の…………)



 由梨香は思わず目をゴシゴシとこする。目を開けると、そこには「どうした?」と言いながらだるそうに頬杖をつく『桐崎洋斗』がいた。特に変わった様子はない。



(……………気のせい、だよね)

「ううん、何でもない!」

(今日は早めに寝よっかな)



 この世界の裏側で起こっていることを知るのは、もっとずっと先の話。







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