48 / 61
第四十八話 金曜日 黄昏の刻・参 〜ぼくらの戦い
しおりを挟む
ぼくは目を離さない。
鎌の切っ先がぼくにかかろうとも、目を開けたまま、待つ。
なぜなら────
甲高くも、短い音がなる。
それは鎌を刀で弾いた音だ。
「見事な印であったぞ、凌よ」
冴鬼は刀を一度、ふりさげた。
その背には自信があふれ、気迫もある。
空に透ける髪が氷の糸のようにきらめいて、それを引き立たせるように、白い着物に身を包んだ冴鬼の額には、黒いツノが。
同じくして、ぶんと音をたて、鎌は黒鎌鼬の元へと戻っていく。
太い腕が返された鎌をつかむが、すぐ下の地面に、別の刺さった音がする。
「……ただの棒で戦えるか、呪いよ?」
太い手が持つのは、鎌の柄だ。
冴鬼の声に、黒鎌鼬からは口といえない場所から奇声が放たれる。
それでも冴鬼は身じろぐことはしない。
真っ直ぐに見つめて、刀を構え直す。
「……あれ、冴鬼くん、どこ?」
橘の声に、改めてぼくは冴鬼が鬼化できたのだとわかる。
「冴鬼は鬼化できたよ。黒鎌鼬と向き合ってる」
「凌くんには見えるんだ……もしかして、あそこらへん?」
指をさした場所はまさしく冴鬼の場所だ。
「え? 橘、見えてるの?」
「でも、なんか、そのあたりが青く光ってる感じがする」
たしかに冴鬼のオーラは青だ。
冷たくも、心が温かくなる、不思議な光。
「すぐに決着をつけようぞっ」
冴鬼は黒鎌鼬に声をなげた。
ぼくへの執着はまるで失せたのか、素早く走る冴鬼に狙いをおいたままだ。
冴鬼は着物を舞わしながら、刀をさばく。
左右に振りおろされる度に、炎がおこり、その火は青い。冴鬼の髪の毛よりも深い。
だが黒鎌鼬もされるがままでいるわけがない。
白い腕を伸ばし、冴鬼をとらえようとする。さらに黒い髪を地面にしのばせると、手で隙をつくり、冴鬼の足をとらえた。
「冴鬼!」
思わずぼくは叫ぶけど、冴鬼はぼくににこりとするだけ。
黒鎌鼬は喜びの奇声をあげながら、冴鬼へとさらに腕をふやし絡みつく。
だが、それは冴鬼の作戦だったようだ。
「ようやく、距離が縮まった」
冴鬼がつぶやいた瞬間、青い炎が呪いに吹きつけられた。
それは刀から発せられた炎で、黒鎌鼬全身を見る間に覆っていく。
そして、じりじりと灰に。
ただ焦された場所から生き物の焼ける独特の臭いがただよってくる。
あまりの匂いに、ぼくと橘は一度目をあわせた。
でも、それが黒鎌鼬の消滅へのカウントダウンなんだと思うと、我慢できる!
黒鎌鼬から悲鳴があがった。
表面だけを焼いていた炎が、内部にまで届いたようだ。
地面にゴロゴロ転がる姿は、人間がもがいているようにもみえる。だけれど、白い手が炎を払う動きは、どこか獣じみた動きだ。
歪な存在に、ただただ目が離せない。
「もう、終いにしよう」
冴鬼が刀をかまえなおしたとき、また黒鎌鼬が声をあげた。
それは怒りだ。
ぼくにはわかる。
これは、怒りの声。
犬が吠えている声にも、人間の怒声にも聞こえる。
冴鬼と黒鎌鼬はすばやく距離をとった。
残りの火を無理やり消した黒鎌鼬は地面にむけて咆えたとき、それに呼応するように、地面がゆれはじめた。
それはぼくらの足元も、だ。
「なにこれ!」
「地震っ?」
橘がぼくの腕をつかむ。ぼくも橘の手をにぎる。
お互いを支えるようにして足をふんばったとき、それは起こった。
地面から無数の黒い手が生えだした。
大きな地割れをおこしながら、それは冴鬼にむかって伸びていく。
だけど、ただの黒い手ではなない。
左右にしなったそれは、簡単に太い竹を切りおとしてしまう。
もう、あの黒い手自体が鎌のようだ。
「橘、もう少し距離をとろうっ」
お互いに足をふみだすけど、ぼくの膝に力がはいってくれない。
おもわず地面についた膝を強引に立たせるけど、うまく歩けない。
「……た、橘、先にいって!」
「だめだよ、凌くんっ! ここ危ないっ」
見えない橘でも、危険を感じるほどのやばい場所になっているのは間違いない。
うねうねと揺れる黒い手は、無差別にあたりを切り刻んでいく。
冴鬼もあまりの手の数に翻弄されている。刀で斬っていても、減るどころか、増えているようにさえ見える。
冴鬼が刀で払った黒い手が、波をうちながらぼくらへ向かってくる。
「橘、逃げて!」
「だめ! あたしたち、運命共同体でしょっ!」
橘はぼくに叫ぶと、ぼくにしがみついた。
ぼくを守るようにではなく、ぼくによりそうように。
ぼくらは身構える。
鋭い手がぼくらへと、ぐんといっそう伸びてくる───!!!
鎌の切っ先がぼくにかかろうとも、目を開けたまま、待つ。
なぜなら────
甲高くも、短い音がなる。
それは鎌を刀で弾いた音だ。
「見事な印であったぞ、凌よ」
冴鬼は刀を一度、ふりさげた。
その背には自信があふれ、気迫もある。
空に透ける髪が氷の糸のようにきらめいて、それを引き立たせるように、白い着物に身を包んだ冴鬼の額には、黒いツノが。
同じくして、ぶんと音をたて、鎌は黒鎌鼬の元へと戻っていく。
太い腕が返された鎌をつかむが、すぐ下の地面に、別の刺さった音がする。
「……ただの棒で戦えるか、呪いよ?」
太い手が持つのは、鎌の柄だ。
冴鬼の声に、黒鎌鼬からは口といえない場所から奇声が放たれる。
それでも冴鬼は身じろぐことはしない。
真っ直ぐに見つめて、刀を構え直す。
「……あれ、冴鬼くん、どこ?」
橘の声に、改めてぼくは冴鬼が鬼化できたのだとわかる。
「冴鬼は鬼化できたよ。黒鎌鼬と向き合ってる」
「凌くんには見えるんだ……もしかして、あそこらへん?」
指をさした場所はまさしく冴鬼の場所だ。
「え? 橘、見えてるの?」
「でも、なんか、そのあたりが青く光ってる感じがする」
たしかに冴鬼のオーラは青だ。
冷たくも、心が温かくなる、不思議な光。
「すぐに決着をつけようぞっ」
冴鬼は黒鎌鼬に声をなげた。
ぼくへの執着はまるで失せたのか、素早く走る冴鬼に狙いをおいたままだ。
冴鬼は着物を舞わしながら、刀をさばく。
左右に振りおろされる度に、炎がおこり、その火は青い。冴鬼の髪の毛よりも深い。
だが黒鎌鼬もされるがままでいるわけがない。
白い腕を伸ばし、冴鬼をとらえようとする。さらに黒い髪を地面にしのばせると、手で隙をつくり、冴鬼の足をとらえた。
「冴鬼!」
思わずぼくは叫ぶけど、冴鬼はぼくににこりとするだけ。
黒鎌鼬は喜びの奇声をあげながら、冴鬼へとさらに腕をふやし絡みつく。
だが、それは冴鬼の作戦だったようだ。
「ようやく、距離が縮まった」
冴鬼がつぶやいた瞬間、青い炎が呪いに吹きつけられた。
それは刀から発せられた炎で、黒鎌鼬全身を見る間に覆っていく。
そして、じりじりと灰に。
ただ焦された場所から生き物の焼ける独特の臭いがただよってくる。
あまりの匂いに、ぼくと橘は一度目をあわせた。
でも、それが黒鎌鼬の消滅へのカウントダウンなんだと思うと、我慢できる!
黒鎌鼬から悲鳴があがった。
表面だけを焼いていた炎が、内部にまで届いたようだ。
地面にゴロゴロ転がる姿は、人間がもがいているようにもみえる。だけれど、白い手が炎を払う動きは、どこか獣じみた動きだ。
歪な存在に、ただただ目が離せない。
「もう、終いにしよう」
冴鬼が刀をかまえなおしたとき、また黒鎌鼬が声をあげた。
それは怒りだ。
ぼくにはわかる。
これは、怒りの声。
犬が吠えている声にも、人間の怒声にも聞こえる。
冴鬼と黒鎌鼬はすばやく距離をとった。
残りの火を無理やり消した黒鎌鼬は地面にむけて咆えたとき、それに呼応するように、地面がゆれはじめた。
それはぼくらの足元も、だ。
「なにこれ!」
「地震っ?」
橘がぼくの腕をつかむ。ぼくも橘の手をにぎる。
お互いを支えるようにして足をふんばったとき、それは起こった。
地面から無数の黒い手が生えだした。
大きな地割れをおこしながら、それは冴鬼にむかって伸びていく。
だけど、ただの黒い手ではなない。
左右にしなったそれは、簡単に太い竹を切りおとしてしまう。
もう、あの黒い手自体が鎌のようだ。
「橘、もう少し距離をとろうっ」
お互いに足をふみだすけど、ぼくの膝に力がはいってくれない。
おもわず地面についた膝を強引に立たせるけど、うまく歩けない。
「……た、橘、先にいって!」
「だめだよ、凌くんっ! ここ危ないっ」
見えない橘でも、危険を感じるほどのやばい場所になっているのは間違いない。
うねうねと揺れる黒い手は、無差別にあたりを切り刻んでいく。
冴鬼もあまりの手の数に翻弄されている。刀で斬っていても、減るどころか、増えているようにさえ見える。
冴鬼が刀で払った黒い手が、波をうちながらぼくらへ向かってくる。
「橘、逃げて!」
「だめ! あたしたち、運命共同体でしょっ!」
橘はぼくに叫ぶと、ぼくにしがみついた。
ぼくを守るようにではなく、ぼくによりそうように。
ぼくらは身構える。
鋭い手がぼくらへと、ぐんといっそう伸びてくる───!!!
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
オオカミ少女と呼ばないで
柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。
空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように――
表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。
夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~
世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。
友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。
ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。
だが、彼らはまだ知らなかった。
ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。
敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。
果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか?
8月中、ほぼ毎日更新予定です。
(※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。
桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。
山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。
そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。
するとその人は優しい声で言いました。
「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」
その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。
(この作品はほぼ毎日更新です)
訳あり新聞部の部長が"陽"気すぎる
純鈍
児童書・童話
中学1年生の小森詩歩は夜の小学校(プール)で失踪した弟を探していた。弟の友人は彼が怪異に連れ去られたと言っているのだが、両親は信じてくれない。そのため自分で探すことにするのだが、頼れるのは変わった新聞部の部長、甲斐枝 宗だけだった。彼はいつも大きな顔の何かを憑れていて……。訳あり新聞部の残念なイケメン部長が笑えるくらい陽気すぎて怪異が散る。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる