図書室はアヤカシ討伐司令室! 〜黒鎌鼬の呪唄〜

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第九話 火曜日 昼の刻 ~冴鬼のこと

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 ぼくの後ろの席になった冴鬼だけど、先生の指示により、ぼくと隣同士になることに。

「よろしく頼むぞ。お主、名を教えよ」
「ぼくは、土方凌ひじかた りょう

 ぼくはノートの端に名前を書いて見せる。

「ほう、凌か……。いい名だな」

 ふんわりと笑う冴鬼の顔がとても優しげだ。
 だけどぼくより少し背が低いくせに、言い方が大人くさくて、やっぱり笑えてしまう。

「はい、では、授業をはじめますよー」

 先生の声に、ぼくは教科書を開いていく。

「教科書ある? 1時間目は国語なんだけど……」

 冴鬼はさっそくと、カバンから教科書とノートをとりだした。
 それを広げたところまではいっしょ。
 だけど、布に巻かれたものがでてくる。紐をするするとほどいていくと、ペンがさしこまれていた。

「……は?」

 つい声が出てしまい、思わず口を強く結び直す。


 ……まさかの筆ペンっ!!


 冴鬼は、先生が書きはじめた黒板を写していくけど、達筆すぎて、ぼくは読めない!!
 というか、ノートの細い幅にあわせてきれいに書いてある。読めないけど……。

「……凌よ、先生が書いたものを板書すればいいのだろ?」
「まちがってないけど、なんか、ちがう……」
「どこがだ?」

 2時間目は英語の授業だ。
 冴鬼は教科書を開いてみたものの、

「凌よ、なんだ、このにょろにょろの文字は」


 ………君はどこの国の出身……?


 社会は教科書を読んで、書いたものを写してって感じで順調だった。ノートは縦書きで使っていたけれど。
 だけど、算数は悲惨。
 英語なみにひどかった……。

「凌よ、なんだこのフンフンってしたやつは」

 指をさされたので見ると、Xの文字。

「エックスだけど?」
「なぜ、数字の前についているんだ。これは数字の一種か?」
「……は?」
「は? ではないぞ、凌」

 ぼくも混乱しちゃう。
 これはどこまで理解できているか、一度確かめないと。
 ぼくも授業についていけなくなる……!
 共倒れは、絶対さけたい!

 でも、それよりも……。
 改めて感じる冴鬼の雰囲気が、昨日と微妙にちがう。
 昨日はどっちかというと、幽霊に似た感じがした。
 だけど今日は人っぽい・・・・

 この感覚を人に伝えるのはすごく難しい。本当に『感覚』だから。
 微熱があがっているときの、肌がざわつく感じにも似てるかもしれない。

「……なあ、凌よ、勉強って一体なんなんだ……?」

 休み時間ごとに落ち込む冴鬼に、ぼくは頭を抱えなおした。
 人っぽいとか思っている前に、まずは冴鬼の私生活を整えなきゃいけないのかもしれない。



 ──給食の時間まで、なんとか生き延びた。
 だけど、これから冴鬼は勉強をしていけるんだろうか?

 今日の給食は、コッペパンにシチュー、牛乳と春雨サラダに冷凍ゼリーだ。
 冴鬼はガツガツとパンをかじりながら、牛乳をすする。

「凌よ、人の世界は簡単だと思っていたが全然違うな。しかし、給食はうまいなっ!」

 頭を抱えながらも、美味しいと食べ続ける冴鬼。
 クラスのみんなは、近ず離れず見守っている雰囲気がある。
 だってぼくのとなりにいるのは『青い髪と、金色の目の、人に近いなにかが、必死に給食をほおばっている』んだもん。

「ねぇ、冴鬼、いまさらだけど、髪の毛青いの大丈夫なの……?」

 冴鬼が胸ポケットから取り出したのは、昨日使ったぼくの手鏡。
 ぼくに見えるように冴鬼を映して、傾けてくる……


 そこにいたのは、金髪碧眼の美少年……!


「うわぁ……詐欺……いや、元からかっこいいけど」
「詐欺とはなんだ。人の色に合わせただけだぞ」
「でも、これがみんなに見えてるってことでしょ?」

 鏡に指をさすと、金髪碧眼の美少年が『うんうん』とうなずいている。

「そうだ。この髪色では悪目立ちするからな。フジの入れ知恵だ」
「むしろ、悪目立ちしてない、これ?」
「そうなのか? 髪の毛の色が明るいと、人が寄りづらいと聞いたぞ?」
「ね、もしかして、これって、なんかの術とか?」
「背に札が貼ってある。それで霊力の弱い者には鏡の姿に見えるってことよ。……しかし凌は霊力が高いな。人でこれほどとは珍しい奴よ」

 自信満々にいわれたのが鼻につくけど、すごい。
 これは、兄の呪いが解けるのも時間の問題かも!
 牛乳を音を立てて吸いこみおえた冴鬼は、思いついた顔をする。

「凌よ、給食のあとは休みなのだろ? トショシツというところにに行くぞ。案内しろよ」
「なんで、図書室に?」
「フジに会いにいく」
「さっきから、フジって……銀水先生のこと?」
「そうだが?」

 一体、銀水先生と冴鬼に、どんなつながりがあるんだろ?
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