図書室はアヤカシ討伐司令室! 〜黒鎌鼬の呪唄〜

yolu

文字の大きさ
上 下
2 / 61

第二話 ぼくのこと

しおりを挟む
 ぼくは昔から霊感がある。
 しかも、かなり強い。

 それを知ったのは4歳のときだ。
 まだ、こんなに怖がりじゃなかった頃になる。



 ──幼稚園の夏休み、父方の祖父母に預けられていたぼくは、家庭菜園に群がる蝶をとろうと励んでいた。
 兄は近くの木を揺らして、カブトムシが落ちないかがんばっていたように思う。
 そんなぼくらを祖父は作物の手入れをしながら、眺めていた。

 ぼくがモンシロチョウを網ですくおうと飛び跳ねたとき、目の前に人が立っていることに気づいた。
 にっこり笑ったおじさんに、ぼくは教えられた通りにあいさつをする。

「かずなりおじちゃん、こんにちは!」

 ぼくは祖父に用があるのだと気づき、かずなりおじちゃんを指さし、叫んだ。

「じいちゃーん、かずなりおじちゃん、きてるよー」

 ぼくの声に、祖父が驚きと困った顔で駆け寄ってきた。

「凌、和成が、見えるのか……」

 うなずいたぼくだけど、兄が言う。

「りょう、そこに、だれもいないし! うそつくなよっ」
「いるもん! ここにかずなりおじちゃん、いるもん!」

 ケンカをはじめたぼくらの手を取り、祖父は家へと戻りだした。
 手を振るかずなりおじちゃんにぼくは手を振りかえすのを祖父はすこし悲しげな目で見下ろしていたのを覚えている。

 家に戻り、ぼくらは縁側に腰をおろす。
 兄は座ってからも「いなかった」とゆずらない。
 これはぼくだってゆずれなかった。
 だって、いた・・もん!

 祖父はいそいそと家に上がり、夕食の用意をしていた祖母の元へ走っていく。
 ぼくらは再び「いた」「いない」のケンカをはじめだしたとき、麦茶とスイカを持った祖母が現れた。

「凌はばあちゃんに、似ちゃったんだねぇ」

 ぼくと兄の間に座った祖母は、ぼくらに麦茶を手渡し、飲みなさいといった。
 汗のかいたコップの麦茶が飲み終わっても祖母の話はおわらなかったけど、わかったことは、祖母はオバケが見える人だってことだった。

 最初、意味がわからなかった。
 なんでそんな話をするんだろうって。
 そこに新聞が出てくる。

「おくやみ、って書いてあるのわかる?」

 ぼくと兄はいっしょに覗きこんで、うんと頷いた。

「お悔やみっていうのは、死んだ人の名前が載るの。ここにね、ほら、和成さんの名前があるの」

 日付を見ると、ちょうど1週間前の新聞だ。

 おじちゃんは、死んでいた……?

 困惑に目を丸くするぼくに、しわくちゃの手でぼくの顔を祖母はやさしくなでる。

「子どもを産んでからぱったりと見なくなったんだけど、まさか凌がねぇ……」

 兄はしきりに、なんで自分には見えないのかと祖母を問い詰めたが、それには祖父が答えてくれた。

「わしは見えんが、将棋が得意だ。新は運動が得意じゃろ?」
「得意だけど」
「そういうことだ。みんな得意なことがあって、できることがある。逆もまたあって、苦手なことがあって、できないことがある」
「でも、オレもりょうとおなじのみてみたい!」

 祖父はガハハと笑う。

「わしだって、新みたいに走ってみたいが、できると思うか?」

 祖父の声に、兄は口を尖らせ、足を振る。

「諦めなきゃならんもんもある」

 兄はふてくされながら、スイカにかじりつく。
 ぼくもスイカを頬張ったけど、兄にできないことができることが、ちょっと嬉しかった。

 ……でも、それは一瞬で消えた。

 視えることのデメリットが大きすぎたんだ。
 大半の人は『オバケを見ることができない』という。
 それは逆に、見えても信じてくれない、ということでもある。

「だから、見えてもすぐに見えたと言わないほうがいい。嘘つきだと思われちゃうから」

 嘘つき。
 これが一番怖かった。
 嘘をよくつくみさきちゃんは、みんなから嫌われているのを知っている。

 ぼくはみさきちゃんみたいになりたくない!

 祖母にどうしたらならないのか、四六時中聞いて回ったと思う。
 だってとても心配で心配でたまらなかったから。

 2週間後に帰る頃には、ぼくの質問に心底うんざりした祖母がいたけど、そこでぼくは生きている人と死んでいる人の見分ける方法や、危険な霊がいること、逆に協力したり守ってくれる霊がいること、人の霊の他にもアヤカシという大昔からいる妖怪の類がいることを聞いて学んだ。

 だからか、ぼくはその頃から猫背だ。
 ぼくは人の足を見ると、生きている人と死んでいる人の区別がつきやすい。
 それに彼ら・・を見つめすぎるてはよくない。
 最初、まだ慣れなくて、見分けもつかないから、じっと見てしまって。
 そのせいで話しかけられたり、あとをつけられたり、部屋に入られたり、もちろん寝てる間に上に乗られたり、人のカタチじゃない人もいたり……!
 一時期、怖くて怖くて外に出られなくなったし。


 ちなみに、ぼくの霊感のことは、祖父・祖母・兄とぼくの4人での秘密。両親はこのことを知らない。
 特に母が怖がりだというのもあって、大事になることを避けることに決めた。
 こう考えると、ぼくは母似、なのかも。

 それを決めたのは祖母だ。
 あのときの祖母の目は優しかったけど、すごく悲しそうな目だった。



 ──そんな祖父母は2年前、2人一緒に亡くなってしまった。
 だから、今、ぼくの秘密を知っているのは兄だけだ。

 来週の日曜日は2人の命日。


【兄ちゃんと絶対墓参りに行く! 今度はぼくが兄ちゃんを助ける!!】


 ぼくは日記に殴り書いた。

 今度はぼくがヒーローになるんだっ!
 ピンチを救うヒーローになるんだ……!

 小さい声でぼくは繰りかえす。


 ぼくは、ヒーローなんだ……っ!


 つぶやいていないと、つぶされそうだ。

 となりの兄の部屋から感じる黒い空気。
 それはじっとりと足元からはいあがってくる。

 空気が冷たい。
 背筋が震える。
 胃が痛い。

 ぼくはベッドにもぐり、まくらで耳をふさいだ。
 うっすらと女の唄声が聞こえてくる。
 怨みが練りこまれた、冷たい唄だ。

 兄の呪いに気づいているのは、ぼくだけ、だ。

 絶対に、助けるんだ……!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

占い探偵 ユーコちゃん!

サツキユキオ
児童書・童話
ヒナゲシ学園中等部にはとある噂がある。生徒会室横の第2資料室に探偵がいるというのだ。その噂を頼りにやって来た中等部2年B組のリョウ、彼女が部屋で見たものとは──。

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

訳あり新聞部の部長が"陽"気すぎる

純鈍
児童書・童話
中学1年生の小森詩歩は夜の小学校(プール)で失踪した弟を探していた。弟の友人は彼が怪異に連れ去られたと言っているのだが、両親は信じてくれない。そのため自分で探すことにするのだが、頼れるのは変わった新聞部の部長、甲斐枝 宗だけだった。彼はいつも大きな顔の何かを憑れていて……。訳あり新聞部の残念なイケメン部長が笑えるくらい陽気すぎて怪異が散る。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。 山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。 そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。 するとその人は優しい声で言いました。 「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」 その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。 (この作品はほぼ毎日更新です)

フェアリー・コンプレックス! ~恋愛相談は恋のはじまり?~

草間一露
児童書・童話
妖精プリメールは人間と契約し恋を叶えるのが仕事。契約相手・愛那(あいな)ちゃんの恋を叶えるべく奮闘していたが、契約者にしか見えないはずのプリメールの存在が愛那の叔父・レンにばれてしまう。妖精を気味悪がるでもなく「協力して愛那の恋を叶えよう」と持ち掛けるレンにプリメールは困惑。次第に奇妙な絆が芽生えていくのだが……?

処理中です...