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4話 給食係にしてください! 2
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「あの、ナイフとか、鍋とか借りれる?」
「おー、そうだよな」
ルースは大きな布製のリュックから鍋を取り出した。
木べらに小ぶりのまな板、小さいながらも包丁もある。
「これだけあれば、料理できるよ」
切り株にまな板を置くと、野菜をみじんぎりにすることから始めていく。
玉ねぎを持ち上げると、ぶるりと動いた。
「うわっ」
思わず地面に落とすが、玉ねぎはもう動かない。
包丁で突いてみると、一瞬、ぴくりと跳ねる。
「……なにこれ」
「あぁ、もうほとんど死んでるから大丈夫よ」
笑顔でエレナに言われたけれど、意味がわからない。
微妙に動く、玉ねぎ、にんじんを皮をむいてひと口大に切っておく。
セロリは少し小さめに切っておく。
「さっきの食べかけのお肉、くれる?」
エレナから受け取ると、僕は歯型のついたお肉は切り捨て、他の部位を丁寧にほぐしていく。
それをみて、エレナの腰が浮いた。
「私も手伝うね」
女の子と一緒の作業なんて、授業以来だ。
緊張する自分がちょっと悲しい。
でも、横顔も想像どおりの輪郭で、つい見惚れてしまう。
そのエレナの手が、ひゅっと動いた。
骨を適当に捨てたようだ。
「あ、あの、エレナ、」
「なに?」
「骨はかじってなかったら、まな板の上にお願いしてもいい?」
「骨は食べれないひゃない。どーひて?」
エレナは少し大ぶりの骨についた肉をしゃぶりながらこちらを見た。
あなたも食べる? というように、少し肉のついた骨をさしだされるが、僕は首を横に振る。
「骨はね、ダシがでるって、料理する人がいってたんだ」
「ダシ?」
「ダシってわからない? なんだろ、隠し味、みたいな、味の土台っていうか……」
「へぇ……。タクトは本当に料理に詳しいのね」
「いや、ただ好きで……」
「好きってことが、大事」
エレナの言葉が、なぜか胸に響く。
まるで自分に言い聞かせるような言葉に、僕はついエレナの顔を見たけれど、彼女は小骨から肉を必死にはがしていた。
「うさぎって小骨が多くてイヤね」
「そ、そうだね……」
僕が太ももらしい部位の肉をはがしていると、後ろからイビキが聞こえる。
振り返ると、ルースが仰向けで大口を開けて寝ている。
「……はぁ」
エレナはため息を大きくついて、息を吸った。
「ルース、起きて! お鍋とか出してよぉ」
エレナの声に、耳がピンと立つと「ふごっ」と鼻が鳴った。
「……え? もう、鍋とかいるのか……」
のっそりと起き上がったルースのシッポは、ぺったりと地面を引きずっている。
フカフカのシッポに枯葉がまとわりついているが、構わず歩き、鞄をさぐりだす。
「少し大きめでいいか」
鞄よりも大きい寸胴鍋が出てきて驚いてしまうが、僕は気を取り直し、受け取った。
「厚手で使いやすそう。ありがと。あと、よかったら、深めのフライパンとかあるといいんだけど」
「ん」
半分閉じた目で、中華鍋のような深いボウル状のフライパンが出てくる。
「ありがと。これで、どうにかできるかも」
「じゃあ、火は2ついるわね」
大きめの石を並び直し、その中にエレナはルビーのような小石を投げ入れた。
エレナが指を鳴らすと、ぶわりと炎が上がる。
「これで大鍋がかけられると思う。あと、1つと……」
また手際良く石を並べ、小袋からまたあの石を取り出そうとしている。
僕は声より先に手を伸ばした。
「え、あ、どうしたの、タクト?」
「あ、その、その赤い石、見てみたくって……」
「あー。異世界では珍しい?」
「うん。火は、マッチとかライターとかでつけるから」
「まっち……? よくわからないけど、はい。魔力を通すと火がつくの。だいたい1時間ぐらいは燃えてくれるかな。火の大きさは、魔力の量で変えられるから、言ってちょうだい」
「へぇ……。ありがと」
「いいえ、どういたしまして」
微笑まれたせいで、手が滑る。
持ち上げた寸胴を掴み直すと、目をこすり、ようやく体を起こしたルースに声をかけた。
「あの、ルース、お水ってもらえる?」
「んあ?」
かなり鋭い目つきだが、数回しばたたかせると、また鞄をさぐりだした。
「ほらよ」
差し出されたのは、皮の袋だ。
絵に描いた胃袋のような形で、口の先はコルクがはまり、ギュッと紐が結ばれている。
僕は慣れない手つきで寸胴鍋に水を注ぎ、骨を入れ、さらに野菜の皮をいれてやる。
具材にかぶるぐらいの水の量だ。
さっそくと、冷たい水に脂がうっすらと浮いているのが見える。
「いいダシ、とれそう」
僕はそれを火にかけると、ルースの顔がぬっと前に出てきた。
「今は昼寝をするって決めてんだが、もうすぐできるか?」
「……いや、すぐは無理。1時間ぐらいは時間ほしいかな」
「そうか。よし! なら、寝るからな! 起こすなよっ」
かき集めた枯葉の上にボスっと飛び込むと、ルースは丸くなった。
沸騰した鍋から灰汁をすくい、小さな火でコトコトと煮ている間に、僕はスープの具材を炒める準備に取り掛かる。
その横で、エレナが小さく飛び跳ねた。
「もう、美味しそうなんだけど……!」
エレナの期待が高すぎやしないか、僕の心はハラハラドキドキだ──!
「おー、そうだよな」
ルースは大きな布製のリュックから鍋を取り出した。
木べらに小ぶりのまな板、小さいながらも包丁もある。
「これだけあれば、料理できるよ」
切り株にまな板を置くと、野菜をみじんぎりにすることから始めていく。
玉ねぎを持ち上げると、ぶるりと動いた。
「うわっ」
思わず地面に落とすが、玉ねぎはもう動かない。
包丁で突いてみると、一瞬、ぴくりと跳ねる。
「……なにこれ」
「あぁ、もうほとんど死んでるから大丈夫よ」
笑顔でエレナに言われたけれど、意味がわからない。
微妙に動く、玉ねぎ、にんじんを皮をむいてひと口大に切っておく。
セロリは少し小さめに切っておく。
「さっきの食べかけのお肉、くれる?」
エレナから受け取ると、僕は歯型のついたお肉は切り捨て、他の部位を丁寧にほぐしていく。
それをみて、エレナの腰が浮いた。
「私も手伝うね」
女の子と一緒の作業なんて、授業以来だ。
緊張する自分がちょっと悲しい。
でも、横顔も想像どおりの輪郭で、つい見惚れてしまう。
そのエレナの手が、ひゅっと動いた。
骨を適当に捨てたようだ。
「あ、あの、エレナ、」
「なに?」
「骨はかじってなかったら、まな板の上にお願いしてもいい?」
「骨は食べれないひゃない。どーひて?」
エレナは少し大ぶりの骨についた肉をしゃぶりながらこちらを見た。
あなたも食べる? というように、少し肉のついた骨をさしだされるが、僕は首を横に振る。
「骨はね、ダシがでるって、料理する人がいってたんだ」
「ダシ?」
「ダシってわからない? なんだろ、隠し味、みたいな、味の土台っていうか……」
「へぇ……。タクトは本当に料理に詳しいのね」
「いや、ただ好きで……」
「好きってことが、大事」
エレナの言葉が、なぜか胸に響く。
まるで自分に言い聞かせるような言葉に、僕はついエレナの顔を見たけれど、彼女は小骨から肉を必死にはがしていた。
「うさぎって小骨が多くてイヤね」
「そ、そうだね……」
僕が太ももらしい部位の肉をはがしていると、後ろからイビキが聞こえる。
振り返ると、ルースが仰向けで大口を開けて寝ている。
「……はぁ」
エレナはため息を大きくついて、息を吸った。
「ルース、起きて! お鍋とか出してよぉ」
エレナの声に、耳がピンと立つと「ふごっ」と鼻が鳴った。
「……え? もう、鍋とかいるのか……」
のっそりと起き上がったルースのシッポは、ぺったりと地面を引きずっている。
フカフカのシッポに枯葉がまとわりついているが、構わず歩き、鞄をさぐりだす。
「少し大きめでいいか」
鞄よりも大きい寸胴鍋が出てきて驚いてしまうが、僕は気を取り直し、受け取った。
「厚手で使いやすそう。ありがと。あと、よかったら、深めのフライパンとかあるといいんだけど」
「ん」
半分閉じた目で、中華鍋のような深いボウル状のフライパンが出てくる。
「ありがと。これで、どうにかできるかも」
「じゃあ、火は2ついるわね」
大きめの石を並び直し、その中にエレナはルビーのような小石を投げ入れた。
エレナが指を鳴らすと、ぶわりと炎が上がる。
「これで大鍋がかけられると思う。あと、1つと……」
また手際良く石を並べ、小袋からまたあの石を取り出そうとしている。
僕は声より先に手を伸ばした。
「え、あ、どうしたの、タクト?」
「あ、その、その赤い石、見てみたくって……」
「あー。異世界では珍しい?」
「うん。火は、マッチとかライターとかでつけるから」
「まっち……? よくわからないけど、はい。魔力を通すと火がつくの。だいたい1時間ぐらいは燃えてくれるかな。火の大きさは、魔力の量で変えられるから、言ってちょうだい」
「へぇ……。ありがと」
「いいえ、どういたしまして」
微笑まれたせいで、手が滑る。
持ち上げた寸胴を掴み直すと、目をこすり、ようやく体を起こしたルースに声をかけた。
「あの、ルース、お水ってもらえる?」
「んあ?」
かなり鋭い目つきだが、数回しばたたかせると、また鞄をさぐりだした。
「ほらよ」
差し出されたのは、皮の袋だ。
絵に描いた胃袋のような形で、口の先はコルクがはまり、ギュッと紐が結ばれている。
僕は慣れない手つきで寸胴鍋に水を注ぎ、骨を入れ、さらに野菜の皮をいれてやる。
具材にかぶるぐらいの水の量だ。
さっそくと、冷たい水に脂がうっすらと浮いているのが見える。
「いいダシ、とれそう」
僕はそれを火にかけると、ルースの顔がぬっと前に出てきた。
「今は昼寝をするって決めてんだが、もうすぐできるか?」
「……いや、すぐは無理。1時間ぐらいは時間ほしいかな」
「そうか。よし! なら、寝るからな! 起こすなよっ」
かき集めた枯葉の上にボスっと飛び込むと、ルースは丸くなった。
沸騰した鍋から灰汁をすくい、小さな火でコトコトと煮ている間に、僕はスープの具材を炒める準備に取り掛かる。
その横で、エレナが小さく飛び跳ねた。
「もう、美味しそうなんだけど……!」
エレナの期待が高すぎやしないか、僕の心はハラハラドキドキだ──!
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