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第32話 共同経営?
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否応なしに始まったイウォールとの一つ屋根の下の暮らし。そして、カフェの運営……。
そう簡単にうまくいくはずもなく───
「イウォールさん、だから、表は私、裏はお願いって!」
「だが、リコの姿がみたいんだ、私は……」
「しょんぼりしてもダメっ!」
『エルフに使いやすいカフェにする』
というのが第一の目的のため、接客は莉子がメインで行うように段取りを組んでいたのだが、イウォールが莉子の姿を見たいがために、ひょこひょこと出てきてしまう。日本語もわからないのに、だ。
そう、莉子が多少の魔力があり、髪留めで強化させたことで、言語の疎通が可能になっただけなのだ。
決して、イウォールの言葉が人間に通じるようになったわけではない。
現に……
「あのぅ、お兄さんて、エルフですよね? モデルとかしてないんですか?」
カウンターに座ったOLさんに話しかけられているが、彼の精一杯の愛想笑いでどうにかやり過ごそうとしている。
彼は精一杯頑張っているのだが、端から見る分には、全く笑えてはおらず、ただ流し目でセクシー度合いを上げているだけ。
「……やば、めっちゃクール系でかっこいい……!」
また1人、イウォールのファンができてしまった……。
この状況に頭を抱えるのは、莉子だけではない。
助っ人に入ったトゥーマとアキラもだ。
「マスター・イウォール、僕たちは、飽くまでサポートですよ!」
「なぜだ! リコの姿を見ていたっていいではないかっ」
「イウォールの目線、鋭すぎ。リコを監視してるエルフって感じ」
「何をいうトゥーマ! この熱視線がわからないとは……全く、まだまだ青さが抜けない……」
「「違うから!」」
2人からのツッコミですら鈍い反応のイウォールだが、料理の腕前は確かだった。
莉子が一度作って見せ、味見をさせれば、ほぼ同じ料理を作り上げることができる。
伊達に歳を重ねているエルフではない……!
とはいえ、お客様を勘違いさせるわけにもいかず、裏の仕事を放棄して表に出てこられるのも大問題だ。
本日、開始から5日目、月曜日の閉店時、ケレヴも夜のカウンター担当で入っていたため、莉子は緊急会議を開くことにした。
「議題は、イウォールさんの継続をどうするか、です」
莉子がきっぱりと言い切ると、イウォールは涙目だ。
「ひどいじゃないか、リコ! これほどリコの料理を完璧に再現できる者はいないと思う!」
「それとこれは別問題! 5日目ですが、現在、イウォールさん目当てのお客様が増えています。これは、このカフェの死活問題になりかねません。というか、トゥーマさんとアキラさんも、ここでバイトするみたいなこと、SNSに上げましたよね……?」
「オレはここの店の貢献に」
「僕は、何の気無しに……」
「……結果どうでした? 大盛況すぎて、お客様、返してますから! むしろ、エルフのお客様が増えず、人が増えてますから!!!」
仁王立ちで叫ぶ莉子を、まぁまぁとなだめるケレヴだが、莉子の目は鋭い。
「ケレヴさん、さっき、カウンターの女性、スマホ翻訳で口説いてましたよね? 今日の夜、街のお店で飲み直すって女の子、キャッキャしてましたけど?」
「お前の耳、地獄耳……!?」
莉子は大きく呼吸を繰り返す。
今の状況を少しでも冷静に見るためだ。
「自分たちの目的と、5日目の結果がどうリンクしているか、考えてください。私はあなたたちの提案にのったところではありますが、私はエルフと人、どちらにも、気持ちの良いカフェにしたいです。……このままだと、ただの客寄せカフェになります……明日は定休日です。1日、私も考えます」
…………これなら、普通に閉店した方がいいかもしれない…………
莉子のこぼした声は、エルフには聞こえる。
いくら小声で言おうとも、気持ちのこもった声は、魔力に乗って聞こえてしまうのだ。
莉子は静かに自室へともどっていく。
残された4人だが、言われていることはもっともだし、やりたいこともわかるものの、これ以上どうすればいいのか、ため息をつくしかできない。
───そのとき、閉店したはずのカフェの扉が叩かれた。
そう簡単にうまくいくはずもなく───
「イウォールさん、だから、表は私、裏はお願いって!」
「だが、リコの姿がみたいんだ、私は……」
「しょんぼりしてもダメっ!」
『エルフに使いやすいカフェにする』
というのが第一の目的のため、接客は莉子がメインで行うように段取りを組んでいたのだが、イウォールが莉子の姿を見たいがために、ひょこひょこと出てきてしまう。日本語もわからないのに、だ。
そう、莉子が多少の魔力があり、髪留めで強化させたことで、言語の疎通が可能になっただけなのだ。
決して、イウォールの言葉が人間に通じるようになったわけではない。
現に……
「あのぅ、お兄さんて、エルフですよね? モデルとかしてないんですか?」
カウンターに座ったOLさんに話しかけられているが、彼の精一杯の愛想笑いでどうにかやり過ごそうとしている。
彼は精一杯頑張っているのだが、端から見る分には、全く笑えてはおらず、ただ流し目でセクシー度合いを上げているだけ。
「……やば、めっちゃクール系でかっこいい……!」
また1人、イウォールのファンができてしまった……。
この状況に頭を抱えるのは、莉子だけではない。
助っ人に入ったトゥーマとアキラもだ。
「マスター・イウォール、僕たちは、飽くまでサポートですよ!」
「なぜだ! リコの姿を見ていたっていいではないかっ」
「イウォールの目線、鋭すぎ。リコを監視してるエルフって感じ」
「何をいうトゥーマ! この熱視線がわからないとは……全く、まだまだ青さが抜けない……」
「「違うから!」」
2人からのツッコミですら鈍い反応のイウォールだが、料理の腕前は確かだった。
莉子が一度作って見せ、味見をさせれば、ほぼ同じ料理を作り上げることができる。
伊達に歳を重ねているエルフではない……!
とはいえ、お客様を勘違いさせるわけにもいかず、裏の仕事を放棄して表に出てこられるのも大問題だ。
本日、開始から5日目、月曜日の閉店時、ケレヴも夜のカウンター担当で入っていたため、莉子は緊急会議を開くことにした。
「議題は、イウォールさんの継続をどうするか、です」
莉子がきっぱりと言い切ると、イウォールは涙目だ。
「ひどいじゃないか、リコ! これほどリコの料理を完璧に再現できる者はいないと思う!」
「それとこれは別問題! 5日目ですが、現在、イウォールさん目当てのお客様が増えています。これは、このカフェの死活問題になりかねません。というか、トゥーマさんとアキラさんも、ここでバイトするみたいなこと、SNSに上げましたよね……?」
「オレはここの店の貢献に」
「僕は、何の気無しに……」
「……結果どうでした? 大盛況すぎて、お客様、返してますから! むしろ、エルフのお客様が増えず、人が増えてますから!!!」
仁王立ちで叫ぶ莉子を、まぁまぁとなだめるケレヴだが、莉子の目は鋭い。
「ケレヴさん、さっき、カウンターの女性、スマホ翻訳で口説いてましたよね? 今日の夜、街のお店で飲み直すって女の子、キャッキャしてましたけど?」
「お前の耳、地獄耳……!?」
莉子は大きく呼吸を繰り返す。
今の状況を少しでも冷静に見るためだ。
「自分たちの目的と、5日目の結果がどうリンクしているか、考えてください。私はあなたたちの提案にのったところではありますが、私はエルフと人、どちらにも、気持ちの良いカフェにしたいです。……このままだと、ただの客寄せカフェになります……明日は定休日です。1日、私も考えます」
…………これなら、普通に閉店した方がいいかもしれない…………
莉子のこぼした声は、エルフには聞こえる。
いくら小声で言おうとも、気持ちのこもった声は、魔力に乗って聞こえてしまうのだ。
莉子は静かに自室へともどっていく。
残された4人だが、言われていることはもっともだし、やりたいこともわかるものの、これ以上どうすればいいのか、ため息をつくしかできない。
───そのとき、閉店したはずのカフェの扉が叩かれた。
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