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第23話 エルフとランチタイム
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莉子は、車が停められた場所で、すぐにわかっていた。
───ここは、何もかもが高額の領域だ……!
この地域は、星付きのレストランから、和食屋に、バーはもちろん、高級ブティックビルが軒並みならび、質屋ですら高級なものしか置いていないという、ブルジョワにブルジョワを重ねた高所得の方々しか来られない場所である。
「わ、ワタシ、ココから、オリマセン……」
「どうしたんだ、リコ? 変な片言だが……さ、お寿司を食べに行こう」
イウォールが必死に引っ張り出そうとするが、莉子は子泣き爺のように身を固める。
「いやです! お寿司の作法も知らない私がお寿司なんて食べたら、みなさんが恥ずかしくなっちゃうし、怒られちゃう!」
半泣きの莉子をイウォールがポンポンと叩く。
「大丈夫ですよ、リコさん。そこの大将、エルフなんで」
「……ん?」
「そうそう! 美味しく食べてくれたらいいって奴だから行こう?」
子犬のようにはしゃぐ2人に引っ張り出され、莉子は歩き出す。
「エルフさんが握るお寿司……」
莉子はひとりつぶやき、妄想する……。
……………………いい!
背の高い美麗なエルフが板前風の服を着て、するする握る姿はともて美しい……!
「リコ、顔がにやけているが……」
「い、イウォールさん、なんでもないです。……です!」
「リコ、腕を組んでもいいかな」
拒否する前に腕を組まれてしまった。
「ちょ、ちょ……!」
さすがに街中で足払いをするわけにはいかず、睨むしかできないのだが、ケルヴがそっと耳打ちしてくる。
「彼女のフリでいいからしとけ。ここの街の女に殺されるぞ?」
視線をまわすと、突き刺さるような鋭い目線の女子の目が。
誰もスタイルがよく、身綺麗に整え、頭の先から指の先まで女性らしい。
莉子はというと、手はガサガサ。髪の毛は髪留めでとめただけだし、もちろん化粧もしていない。大泣きしてしまったから、目も腫れぼったい……。
「……やっぱり、私、車に……!」
「残念だな、リコ。店についてしまった」
出迎えてくれたのは、笑顔が優しいエルフと、人間のかわいらしい女将だった。
「ひさしぶりじゃないか、トゥーマ」
そう声をかけたのは大将だ。
「そんなことないだろ。1ヶ月もあいてないとおもうけど? あ、彼女はリコ。エルフ語わかるから、エルフ語でいいよ」
女将さんに席へと案内されるが、この店はカウンターが8つのみだ。
「ここは基本、エルフが使う寿司屋になる。女将はフランス人。アンは、エルフ語が使えるから話できるだろ?」
イウォールが莉子の椅子をひき、座らせながらいうが、女将はころころと笑う。
「私のエルフ語、たまに通じなくって。まだまだなの」
小柄の女性だが、笑い方や仕草が大胆だ。
それが妙に安心できる仕草で、莉子はにっこりと微笑んだ。
「いやー、あたしびっくりしちゃった。イウォールさん、てっきり女嫌いなんだって思ってた!」
「違うぞ、アン。リコ以外の女は嫌いだ」
「あらあら、お熱いこと」
シンプルな湯飲みとおしぼりが差しだされる。
それでぎゅっぎゅと手をふいていくが、なぜかケレヴとイウォールの間に座った莉子なので、目の前に大将が来ると、林の中にいる気分だ。
「リコさん?」
いきなり大将に呼ばれ、莉子は背筋を正した。
「かしこまらないでくださいよ。うちは私が握ってますし、とにかく美味しく食べてくれたら嬉しいんで。で、お任せとは言われてるんだけど、苦手なものとかあったり?」
「え、いや、ないです!」
「わかりました。じゃ、早速握っていきますねぇ」
そう言いながらも最初に出てきたのは先付け3種だ。
酢の物と和え物が並んでいるが、野菜の切り方は丁寧だし、なによりひとつひとつの食材の扱いがすばらしい。
莉子は一口食べて感動していると、その顔をイウォールが笑って見ている。
「な、なんですか?」
「リコ、おいしそうでよかった」
「はい。人が作ってくれたお料理なんて、何年振りでしょう……すごく、美味しいし、素材の味がしっかりするし、もうこれだけで満足です」
「リコさん、まだ握り出してないんで、それいわれちゃぁ……」
「ご、ごめんなさい!」
大将と楽しく会話をしながらも、特に親しげにしているのはケレヴのようだ。
巻物を頬張りながら、莉子はケレヴに尋ねた。
「大将と昔からの知り合いなんですか?」
「ああ、こいつ、元は俺の部下」
「会社の?」
「いいや。俺、あっちじゃ、軍人」
「え、イウォールさん、ケレヴさん、軍人なんですか?!」
「なんでそんなに驚くんだ、リコ?」
優しく頬に触れるイウォールの手を虫のように払いながら、莉子は目を見開いている。
「どうみても女ったらしの営業マンです!」
午前中、仕事をしていた兼ね合いで、ジャケットはきていないものの、パンツに、シャツ、さらにベストを重ねている。シャツの首もとは大きくあき、胸板をちらりちらりと見せている。
確かに引き締まった腕、胸板、太めの首、長い耳の先に切り傷の後も見えるが、もう、現代になじみすぎていて、莉子は彼らの過去は詮索しないことを決めた。
「営業マンに見えるってよ、シャンス」
「でも、女ったらしは治ってないんですねぇ」
しなやかな手つきで次の料理の準備をしているのを見惚れる莉子に、ケレヴごしにアキラが声をかけてくる。
「リコさん、おいしいでしょ?」
「はい、とっても。トゥーマさん、ありがとうございます」
「いいって! オレたちエルフだからさ、結構入店拒否多くてさ。ここは気軽に食べれるから、よく来てんだぁ」
「入店拒否」
莉子が繰り返すと、イウォールがつけたした。
「エルフ語がわからないのもありますし、外国人ともまた扱いが違うようで、入れない店は未だに多い。だからリコ、君が言葉もわからないのにエルフを迎え入れてくれて、私たちは嬉しいんだよ。それにとても料理もおいしいしね」
どんどんわかっていく、現代とエルフの距離感───
莉子は、仮に今月で閉店することになっても、エルフの人たちに少しでも提供できる店を改めて作りたいと思うのだった。
───ここは、何もかもが高額の領域だ……!
この地域は、星付きのレストランから、和食屋に、バーはもちろん、高級ブティックビルが軒並みならび、質屋ですら高級なものしか置いていないという、ブルジョワにブルジョワを重ねた高所得の方々しか来られない場所である。
「わ、ワタシ、ココから、オリマセン……」
「どうしたんだ、リコ? 変な片言だが……さ、お寿司を食べに行こう」
イウォールが必死に引っ張り出そうとするが、莉子は子泣き爺のように身を固める。
「いやです! お寿司の作法も知らない私がお寿司なんて食べたら、みなさんが恥ずかしくなっちゃうし、怒られちゃう!」
半泣きの莉子をイウォールがポンポンと叩く。
「大丈夫ですよ、リコさん。そこの大将、エルフなんで」
「……ん?」
「そうそう! 美味しく食べてくれたらいいって奴だから行こう?」
子犬のようにはしゃぐ2人に引っ張り出され、莉子は歩き出す。
「エルフさんが握るお寿司……」
莉子はひとりつぶやき、妄想する……。
……………………いい!
背の高い美麗なエルフが板前風の服を着て、するする握る姿はともて美しい……!
「リコ、顔がにやけているが……」
「い、イウォールさん、なんでもないです。……です!」
「リコ、腕を組んでもいいかな」
拒否する前に腕を組まれてしまった。
「ちょ、ちょ……!」
さすがに街中で足払いをするわけにはいかず、睨むしかできないのだが、ケルヴがそっと耳打ちしてくる。
「彼女のフリでいいからしとけ。ここの街の女に殺されるぞ?」
視線をまわすと、突き刺さるような鋭い目線の女子の目が。
誰もスタイルがよく、身綺麗に整え、頭の先から指の先まで女性らしい。
莉子はというと、手はガサガサ。髪の毛は髪留めでとめただけだし、もちろん化粧もしていない。大泣きしてしまったから、目も腫れぼったい……。
「……やっぱり、私、車に……!」
「残念だな、リコ。店についてしまった」
出迎えてくれたのは、笑顔が優しいエルフと、人間のかわいらしい女将だった。
「ひさしぶりじゃないか、トゥーマ」
そう声をかけたのは大将だ。
「そんなことないだろ。1ヶ月もあいてないとおもうけど? あ、彼女はリコ。エルフ語わかるから、エルフ語でいいよ」
女将さんに席へと案内されるが、この店はカウンターが8つのみだ。
「ここは基本、エルフが使う寿司屋になる。女将はフランス人。アンは、エルフ語が使えるから話できるだろ?」
イウォールが莉子の椅子をひき、座らせながらいうが、女将はころころと笑う。
「私のエルフ語、たまに通じなくって。まだまだなの」
小柄の女性だが、笑い方や仕草が大胆だ。
それが妙に安心できる仕草で、莉子はにっこりと微笑んだ。
「いやー、あたしびっくりしちゃった。イウォールさん、てっきり女嫌いなんだって思ってた!」
「違うぞ、アン。リコ以外の女は嫌いだ」
「あらあら、お熱いこと」
シンプルな湯飲みとおしぼりが差しだされる。
それでぎゅっぎゅと手をふいていくが、なぜかケレヴとイウォールの間に座った莉子なので、目の前に大将が来ると、林の中にいる気分だ。
「リコさん?」
いきなり大将に呼ばれ、莉子は背筋を正した。
「かしこまらないでくださいよ。うちは私が握ってますし、とにかく美味しく食べてくれたら嬉しいんで。で、お任せとは言われてるんだけど、苦手なものとかあったり?」
「え、いや、ないです!」
「わかりました。じゃ、早速握っていきますねぇ」
そう言いながらも最初に出てきたのは先付け3種だ。
酢の物と和え物が並んでいるが、野菜の切り方は丁寧だし、なによりひとつひとつの食材の扱いがすばらしい。
莉子は一口食べて感動していると、その顔をイウォールが笑って見ている。
「な、なんですか?」
「リコ、おいしそうでよかった」
「はい。人が作ってくれたお料理なんて、何年振りでしょう……すごく、美味しいし、素材の味がしっかりするし、もうこれだけで満足です」
「リコさん、まだ握り出してないんで、それいわれちゃぁ……」
「ご、ごめんなさい!」
大将と楽しく会話をしながらも、特に親しげにしているのはケレヴのようだ。
巻物を頬張りながら、莉子はケレヴに尋ねた。
「大将と昔からの知り合いなんですか?」
「ああ、こいつ、元は俺の部下」
「会社の?」
「いいや。俺、あっちじゃ、軍人」
「え、イウォールさん、ケレヴさん、軍人なんですか?!」
「なんでそんなに驚くんだ、リコ?」
優しく頬に触れるイウォールの手を虫のように払いながら、莉子は目を見開いている。
「どうみても女ったらしの営業マンです!」
午前中、仕事をしていた兼ね合いで、ジャケットはきていないものの、パンツに、シャツ、さらにベストを重ねている。シャツの首もとは大きくあき、胸板をちらりちらりと見せている。
確かに引き締まった腕、胸板、太めの首、長い耳の先に切り傷の後も見えるが、もう、現代になじみすぎていて、莉子は彼らの過去は詮索しないことを決めた。
「営業マンに見えるってよ、シャンス」
「でも、女ったらしは治ってないんですねぇ」
しなやかな手つきで次の料理の準備をしているのを見惚れる莉子に、ケレヴごしにアキラが声をかけてくる。
「リコさん、おいしいでしょ?」
「はい、とっても。トゥーマさん、ありがとうございます」
「いいって! オレたちエルフだからさ、結構入店拒否多くてさ。ここは気軽に食べれるから、よく来てんだぁ」
「入店拒否」
莉子が繰り返すと、イウォールがつけたした。
「エルフ語がわからないのもありますし、外国人ともまた扱いが違うようで、入れない店は未だに多い。だからリコ、君が言葉もわからないのにエルフを迎え入れてくれて、私たちは嬉しいんだよ。それにとても料理もおいしいしね」
どんどんわかっていく、現代とエルフの距離感───
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