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第3話 門出と任務
しおりを挟む オタカフェにて、わたしは自身の考えを述べました。
この場にはカレーラス子爵、ハシオさん、モーリッツさんがいます。
「クリスちゃんは、今の状況に不満があるわけ?」
子爵は、わたしに聞いてきました。
「そうではありません」
あのままいけば、順当に借金は返せるでしょう。実際、崖のトレーニング場もフードトラックも、大繁盛しています。
「ですが、なにか足りない気がするのです」
「たとえば、どんな感じっすか?」
「もっとモーリッツさんらしいメニュー、といえばいいですかねぇ」
「カップ麺のようなメニューっすか?」
わたしは、うなずきました。
「モーリッツさん独自のメニューを開発できれば、崖の訓練場以外でも収益が見込めます」
「ただ、俺はもう実業は」
なかなか、モーリッツさんは首を縦に振りません。
ですよね。同じ状況になったら、わたしでも無理でしょう。
「とにかく、リスクを取ったほうがいいって考えなんすよね?」
「そういえば、いいですかね」
ただ、破産したばかりのモーリッツさんに、賭けをしろというのは酷です。
「事業の代金は、女性に奪われたままですか?」
カップ麺の販売権利まで、女性に奪われたそうです。
「いや。それは冒険者ギルドに譲渡したんだ。あいつには、一銭も入っていない」
権利剥奪は、すぐに行われました。
たいそう、女性はゴネたそうです。
ところが、モーリッツさんがいなくても、ギルドは女性の悪評を把握していました。裏を取って、正式な取引でギルド側が勝利したとか。
おかげで、女性は要注意人物のリスト入りに。行方をくらましています。
しかし、それがモーリッツさんの最後の抵抗でした。
儲け話があれば、女性はまた顔を出すだろうと。
「整形やら書類の偽造やらで、手配書が出ても知らん顔だそうっす」
ここまでくると、もはやプロの騙し屋ですね。
「もう嫌だ。あいつと関わるのは」
モーリッツさんは、頭を抱えます。
「わかりました。新メニューの開発は、わたしが責任を取りましょう」
「クリスちゃんが?」
「ええ。わたしなら、たとえ利益が出ても教会へ寄付をします」
教会も、下手に収益を触れません。立場がありますからね。
「儲けが出ても、一文なしよ? その上、失敗したら」
「ですから、ご協力ください。お願いします」
このままでは、モーリッツさんは一生負け犬でしょう。
顔に泥を塗られたまま、「いい勉強になった」という顔で過ごさなければなりません。
それは、救いと言えるでしょうか?
冗談じゃありません。
「俺のために、ありがとうシスター」
「誤解なきよう、モーリッツさん。あなたのためでは、ありませんので」
やや詰まりがちに、わたしはモーリッツさんに告げます。
「え……」
「厳密に言うと、わたしは、あなたを助けたいわけじゃない」
モーリッツさんが、黙り込みます。
「どういうこと? クリスちゃん」
「以前、わたしは、モーリッツさんのご家族に会いました。都の外れで親子丼を出している定食屋です」
「あそこ、モーリッツちゃんの故郷だったのね?」
あの方たちは、問題を起こしたモーリッツさんを暖かく迎えていました。
「どちらかというと、わたしはあの方たちに報いたいのです。息子が苦しめられて、あの方たちはどれだけ辛い思いをなされたのでしょう?」
思わず、カップの持ち手にヒビを入れてしまいました。
ここまで、怒りに震えたことはありません。
産まれて初めて湧き上がった感情に、わたしは少し戸惑っています。
「最低ですよね。わたしはあなたに、もう一度立てと言っているんです。おばあさまのために。だから、気が乗らなければ忘れてください。わたし一人でも戦いますので……」
わたしが告げると、モーリッツさんが立ち上がりました。
「いや。おかげで目が醒めた。改めて、ありがとうシスター」
「はい。がんばりましょう、モーリッツさん」
この場にはカレーラス子爵、ハシオさん、モーリッツさんがいます。
「クリスちゃんは、今の状況に不満があるわけ?」
子爵は、わたしに聞いてきました。
「そうではありません」
あのままいけば、順当に借金は返せるでしょう。実際、崖のトレーニング場もフードトラックも、大繁盛しています。
「ですが、なにか足りない気がするのです」
「たとえば、どんな感じっすか?」
「もっとモーリッツさんらしいメニュー、といえばいいですかねぇ」
「カップ麺のようなメニューっすか?」
わたしは、うなずきました。
「モーリッツさん独自のメニューを開発できれば、崖の訓練場以外でも収益が見込めます」
「ただ、俺はもう実業は」
なかなか、モーリッツさんは首を縦に振りません。
ですよね。同じ状況になったら、わたしでも無理でしょう。
「とにかく、リスクを取ったほうがいいって考えなんすよね?」
「そういえば、いいですかね」
ただ、破産したばかりのモーリッツさんに、賭けをしろというのは酷です。
「事業の代金は、女性に奪われたままですか?」
カップ麺の販売権利まで、女性に奪われたそうです。
「いや。それは冒険者ギルドに譲渡したんだ。あいつには、一銭も入っていない」
権利剥奪は、すぐに行われました。
たいそう、女性はゴネたそうです。
ところが、モーリッツさんがいなくても、ギルドは女性の悪評を把握していました。裏を取って、正式な取引でギルド側が勝利したとか。
おかげで、女性は要注意人物のリスト入りに。行方をくらましています。
しかし、それがモーリッツさんの最後の抵抗でした。
儲け話があれば、女性はまた顔を出すだろうと。
「整形やら書類の偽造やらで、手配書が出ても知らん顔だそうっす」
ここまでくると、もはやプロの騙し屋ですね。
「もう嫌だ。あいつと関わるのは」
モーリッツさんは、頭を抱えます。
「わかりました。新メニューの開発は、わたしが責任を取りましょう」
「クリスちゃんが?」
「ええ。わたしなら、たとえ利益が出ても教会へ寄付をします」
教会も、下手に収益を触れません。立場がありますからね。
「儲けが出ても、一文なしよ? その上、失敗したら」
「ですから、ご協力ください。お願いします」
このままでは、モーリッツさんは一生負け犬でしょう。
顔に泥を塗られたまま、「いい勉強になった」という顔で過ごさなければなりません。
それは、救いと言えるでしょうか?
冗談じゃありません。
「俺のために、ありがとうシスター」
「誤解なきよう、モーリッツさん。あなたのためでは、ありませんので」
やや詰まりがちに、わたしはモーリッツさんに告げます。
「え……」
「厳密に言うと、わたしは、あなたを助けたいわけじゃない」
モーリッツさんが、黙り込みます。
「どういうこと? クリスちゃん」
「以前、わたしは、モーリッツさんのご家族に会いました。都の外れで親子丼を出している定食屋です」
「あそこ、モーリッツちゃんの故郷だったのね?」
あの方たちは、問題を起こしたモーリッツさんを暖かく迎えていました。
「どちらかというと、わたしはあの方たちに報いたいのです。息子が苦しめられて、あの方たちはどれだけ辛い思いをなされたのでしょう?」
思わず、カップの持ち手にヒビを入れてしまいました。
ここまで、怒りに震えたことはありません。
産まれて初めて湧き上がった感情に、わたしは少し戸惑っています。
「最低ですよね。わたしはあなたに、もう一度立てと言っているんです。おばあさまのために。だから、気が乗らなければ忘れてください。わたし一人でも戦いますので……」
わたしが告げると、モーリッツさんが立ち上がりました。
「いや。おかげで目が醒めた。改めて、ありがとうシスター」
「はい。がんばりましょう、モーリッツさん」
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