ヒト堕ちの天使 アレッタ

yolu

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激動7

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 か細い息を繰り返すアレッタ。
 その彼女の魂が揺れている。
 幼女のアレッタと、神の左手のアレッタが重なって見えるのだ。

 彼女を抱える仮面ごしのエイビスは、今どんな表情なのだろう。
 血溜まりを止めることもできず、姿が重なるアレッタをただ呆然と見下ろしている。

 フィアは素早く剣から精霊へと戻り、炎の壁を創りあげた。
 ドーム状に昇り上がった炎は、黒鎧の攻撃を吸収しながら耐えている。
 だが、雨のように降りつける棘は、いつ炎の壁を突き破ってもおかしくはない。ときおり撃ち込まれるジョヴァンナの黒い鞭が、炎を削いでいくからだ。

「……エイビスっ!」

 しかしエイビスは動かない。いや、動けないでいる。
 そのとき、刀が地面に落ちた。
 
「…わ…わたしの…ネージュ……」

 アレッタは落ちた刀に触れようと、腕を、指を、必死に伸ばす。

「……ネー…ジュ……」


 アレッタの声に、その想いに応えるように、刀から精霊へと形を変え始めた───


 ゆっくりと現れた青髪のネージュに、アレッタは微笑みかける。
 震えるネージュの手を掴むと、子猫のようにその手に頬をすり寄せ、唇が、ねーじゅ、と静かにつづる。


「……アリー……ごめんね……あたしの…アリー……」


 しぼりだしたネージュの声に、アレッタは首を横に振る。ただネージュの温もりとネージュの声に触れ、とても幸せそうだ。


「……わたしは……ネージュと… フォンダンショコラ…食べるんだ…」


 そう言ったアレッタは、満足そうに笑顔を浮かべている。
 ネージュはアレッタの手を握りなおすと、フィアに叫んだ。

「……フィア、なんとかしてっ! 早くっ」

「今壁を外すわけには……! それに、もう……」

「もう、何よっ!!」

「魂が……」

 フィアはそれ以上、言葉を濁した。

 だがネージュも気づいていた。

 アレッタの羽を壊したときに、もうアレッタの魂は崩れかけていたのだ。
 膨大な魔力を高めたことで今までの体に戻ったものの、それを維持するだけの器が保てなかった。
 羽が斬られた時点で、器にヒビが入り、その羽が壊れた時点で、器が欠けた。
 大きな魔力が器のなかで膨れるほど、器のヒビは大きくなり、欠けた部分から壊れていく。



 もう、アレッタは、悪霊にしか、なれない────



「ア……アリー、一緒に食べるの……フォンダンショコラ……食べるんでしょ……!」

 アレッタは小さく頷いた。
 そして、ゆっくりと息をはく。
 唇はほんのりと笑みをたたえ、瞼がそっと降りてゆく。
 同時に、ネージュが握る手も落ちた。

 ぐしゃりとネージュの顔が歪む。食いしばった唇が、赤くにじんでいく。

 フィアは頬に伝うのもかまわず、ただ炎の壁を保とうと魔力を手に込める。

 だがもう力の差が歴然だ。
 踏みしめる踵が地面に食い込んでいく。

「エイビスっ!!!!」

 フィアが怒鳴り呼んだとき、エイビスはアレッタに、


「ごめん」


 呟いてから、アレッタの血濡れた唇に口付けた。
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