153 / 153
第2章 カフェから巡る四季
第153話 初めての高級シュトーレン
しおりを挟む
シュトーレン。
一度は食べてみたいお菓子のトップ10には入るのではないだろうか。
都会へ行けば、各店舗のシュトーレンの切り身市なるものがあるらしいが、あいにく、この辺りでは行う予定がない。
なにより、店の休みは週に1回だ。
「……休み、増やしちゃおうかな」
そうこぼした莉子に、
「困りますよぉ~」
泣きつくのは瑞樹だ。
「今月はマジ、頼むって! ここしか癒しがないんだってば」
焦ってしゃべるのは巧である。
現在、師走。
忘年会シーズンなのもあり、飲み会飲み会が続いているよう。
ここはビジネス街の一角でもあるため、莉子は胃に優しい、あたたかいメニューをランチに今月は採用している。
そのため少し手の込んだ料理が多いため、大人数の忘年会は店では受けないことにし、夜はドリンクメインで回しているのだが、それでも夕飯を食べにくるのが、二人である。
「ひさしぶりに莉子さんの夕飯なのに、なんで水、さすかなぁ」
少し怒りが込められた巧の声に、莉子は吹き出した。
「水、さしたつもりはないですけど、でもこれだけは言えます」
「「なに?」」
「いつまでも、あると思うな、ここの店」
「「だからー!」」
食べ終わったお椀を片付け始めるが、二人の表情は重い。
どうしたものか。冗談なのに。
そう茶化そうとカウンターへ戻ると、腕を組む二人がいる。
「確かに、そうだよね、巧」
「だよな」
「なにが、『だよな』なんです?」
自分用に入れたほうじ茶を二人にも差し出すと、ずずっと同時に二人はすする。
明日は朝から会議ということで、お酒はなしなのだが、この空気感は出すべきか……?
莉子が出せるものはあるかと視線を泳がしていると、ぐっと瑞樹の顔が上がった。
「莉子さん、ごめんなさい。莉子さんだって忙しいのに」
「でも、オレたち、マジで今月キツくて。言い訳なんだけど、ここだから、ゆっくりご飯食べれるのもあって」
「「だから!」」
声が揃った二人に、莉子は思わず身を引いた。
だがその距離を埋めるように二人が、ぐっと身を寄せる。
「莉子さん、おれたち、お礼しかできなくって」
「オレもお金しか出せなくって……。どうしたら、莉子さん、楽になるかな? バイト、こっちから派遣とかなら、すぐできるんだけど」
それは、あんたたち含め、夜の営業終了後に、こなきゃいいんだけど。
なんて、言えるはずもない。
とはいえ、いつもいろいろご協力いただいていることも多い。
それこそ会社協賛として、近隣イベントはもちろん、カフェに対しての食材の寄付やお土産、それこそ高級ワインの差し入れなど、数えきれないカフェの利用をしてもらっている。
それに、家族のような彼らだからこそ、食事を作ってあげたいと思ってしていることだ。
もうここまでが仕事なのだと思えるぐらいに、当たり前ではある。
だが、仕事と思えば、少し違う。
時間外、ではあるし、勤務状態をみても、あまりいいとは言えない。
特に、ワンオペで行っている以上、どこか綻びがでてもおかしくない。
それこそ、インフルエンザにでもかかれば、10日は店を閉めなければならない。
それは月のほぼ半分が営業できないことといっしょだ──
「まず、家族みたいなものなので、大丈夫。だけど」
「「……だけど?」」
「やっぱり、この店は一馬力なので、私がいなくては回りません。凄腕バイトさんが来ても、私の右腕になるまで、やっぱり数日は必要になると思います。なので」
「「なので?」」
乗り出してきた二人へ、莉子はスマホを見せる。
「ここのシュトーレン、買ってくれませんか? なんか、SNSで投稿されてて、とっても美味しそうだったんですよ。普通、3千円くらいなんですけど、ここの8千円もしてて。自分じゃちょっと買えないから」
「そんなんでいいの? 何本でも買うし!」
さすが、というべきか、もう少し父から経営学を学ぶべきではと思うべきか、巧の反応に苦笑いが浮かんでしまうが、瑞樹は素早く検索を始める。
「あ、小樽のホテルのシュトーレン……、はい、わかりました。1本でいいんですか?」
「うん。1本以上は絶対にダメ」
莉子のダメという語尾に驚きながら二人は頷く。
「お取り寄せしたら、持ってきてください。ここへ直接配達はなしで」
「なんでです?」
困り顔の瑞樹と巧に、莉子は笑う。
「みんなで食べるためですよ。先に届いたら、私、食べきっちゃうかもだし」
──こういうときの二人の行動は早い。
すぐに発注をかけると、取り寄せに成功!
ただし順次搬送のため、いつ届くかわからないという。
届いたときに莉子に会うのがいいかと、届くまで待つことにしたが、これは莉子の策ではないとか、瑞樹は気づく。
「ね、巧、これさ、莉子さん、少し来ないようにシュトーレンで足止めしたんじゃない?」
「オレも思ってた。策士だな、莉子さん」
「ほんと。さすが、代理の彼女って感じ」
そんな会話をしているとはつゆ知らず。
莉子はシュトーレンを心の底から待っていた。
それこそ、すぐ届くのではと思っていたのに、なかなか来ない二人にイライラしたぐらいだ。
イライラが無へと変換されたころ、莉子のスマホへ連絡が入る。
『今日、届いたので、持っていきます』
なんて、素敵な文字列なんだろう……!
莉子はランチタイムの最中、踊りたくなるのを我慢するが、常連は浮き足立つ莉子のつま先を読み取っていた──
夜になり。
やはり、閉店後の時刻に、二人はいそいそとやってきた。
「いらっしゃい!」
満面の笑みで出迎えてくれた莉子に、二人はすぐ、シュトーレンの箱を差し出した。
「例のブツだぜ、莉子さん」
巧から手渡され、莉子は崇めるように掲げあげた。
「ありがとうございます……! おいしいっていうシュトーレン、食べてみたかったんだー!」
カウンターへと通され、いつもの位置に座ると、すでに夕食が用意されている。
「昨日も関連会社の懇親会とかあったって、連藤さんから聞きました。まあ、ランチのあまりですが、鯖の味噌煮と五目ご飯とお味噌汁、あとはお浸しときんぴらです。和んでください」
「やった! めっちゃ和風だぁ!」
驚く瑞樹をよそに、すでに箸を手に持ち、巧は両手を合わせた。
「いっただきまーすっ」
「巧、ずるいって!」
ガツガツと食べはじめた二人をおいて、莉子は厨房へ入っていく。
もう、シュトーレンを切りたくて仕方がないのである。
シュトーレンの切り方はマスターしてる。
ど真ん中を切る!
これが大切なのだとか。
それこそ、端から切って食べるのではなく、真ん中から切って、切り口をくっつけて保存するのが、シュトーレンの食べ方なのである。
1センチ程度の厚みを3切用意すると、莉子は自分用のカウンターチェアを用意し、二人の向かいに腰を下ろした。
そのトレイには、3人分のシュトーレンがある。
食べるのが早い二人のことだから、すぐに食べれるのではと準備したのだが、案の定、二人の鯖味噌は骨だけとなり、ご飯茶碗も空だ。
「ご飯、おかわりします?」
莉子がきくと、二人は首を横に振る。
「なら、コーヒーでもいれましょうか」
頷いた無言の二人をみて、ハムスターみたいだな。と莉子は思いながら、ハンドドリップしていく。
すぐにコーヒーのいい香りが漂ってくる。
浅煎りなのもあり、少しの酸味も香りに混じって爽やかだ。
コーヒーとシュトーレンを二人に差し出すと、二人もじっと眺めている。
「こんなにドライフルーツ入ってるって知らなかった」
「オレも。ね、莉子さん、この真ん中のなに?」
「あ、これですか。マジパンですね」
「「マジ、パン?」」
莉子は二人の顔を見て、
「マジで、パンとか思ってる?」
「「ちがうの!?」」
焦りながら言う二人に莉子は吹き出した。
「マジパンってものがあるんです。アーモンドパウダーに砂糖や卵白をまぜて、ペースト状にしたものです。入ってないのもあるそうですけど、入ってる方が、私はなんかシュトーレンな感じがして、好きですね、見た目的に」
莉子はすばやくフォークを持ち上げた。
「じゃ、いただきまーす」
莉子の声に続いて、二人もフォークを差し込んだ。
しっとりとした生地に表面には真っ白な粉砂糖がまぶされている。
さまざまなドライフルーツはもちろん、ナッツもまぜられ、一口ふくむだけで、味と食感が複雑なのがわかる。
そしてなにより──
「「「ぜんぜん、甘くない」」」
声が揃うほど、甘くないのだ。
これが高級店の味なのか。
莉子は納得してしまう。
大昔に食べたシュトーレンは、小麦粉っぽい砂糖の塊だったのだ。
だがこれは、たった1センチでも重厚感があり、甘味はもちろん、風味もすばらしい。スパイスが程よく鼻を抜けていく。
ドライフルーツの甘味はもちろん、このスパイスの香りがあるおかげで、甘さがしつこく感じない。
また、バターに漬け込み、長期保存ができるようにしてあるというが、脂っこくなく、むしろバターがこの生地のコクになっている。
「やっばい。これ、いくらでも食べれそう」
コーヒーを一口、シュトーレンを一口としているうちに、どんどん消えていってしまう。
もう一切れ! と振り返ろうとした莉子を、瑞樹が引き止める。
「莉子さん、これの作り方、知ってるんですよね?」
「うん。もう一切れ、食べない?」
「時計、見てください」
指をさした壁掛け時計は、23時だ。
「カロリーでいうと、たぶん、その薄さで、ご飯1膳ぐらいはあるんじゃないかと……もう一枚食べたら、おれたち……」
莉子は眉間をもむ。
どうするべきか。
確かに明日も食べられる素敵なお菓子だ。
だが、今、食べたい気持ちもある。
……莉子は、明日の朝を想像する。
「……明日、食べるかな」
2枚目を食べて起きた朝は、胸焼けの未来しか視えなかったのだ。
3人は、おいしいものも、ほどほどに。
その言葉を胸に刻み、お開きとなった。
一度は食べてみたいお菓子のトップ10には入るのではないだろうか。
都会へ行けば、各店舗のシュトーレンの切り身市なるものがあるらしいが、あいにく、この辺りでは行う予定がない。
なにより、店の休みは週に1回だ。
「……休み、増やしちゃおうかな」
そうこぼした莉子に、
「困りますよぉ~」
泣きつくのは瑞樹だ。
「今月はマジ、頼むって! ここしか癒しがないんだってば」
焦ってしゃべるのは巧である。
現在、師走。
忘年会シーズンなのもあり、飲み会飲み会が続いているよう。
ここはビジネス街の一角でもあるため、莉子は胃に優しい、あたたかいメニューをランチに今月は採用している。
そのため少し手の込んだ料理が多いため、大人数の忘年会は店では受けないことにし、夜はドリンクメインで回しているのだが、それでも夕飯を食べにくるのが、二人である。
「ひさしぶりに莉子さんの夕飯なのに、なんで水、さすかなぁ」
少し怒りが込められた巧の声に、莉子は吹き出した。
「水、さしたつもりはないですけど、でもこれだけは言えます」
「「なに?」」
「いつまでも、あると思うな、ここの店」
「「だからー!」」
食べ終わったお椀を片付け始めるが、二人の表情は重い。
どうしたものか。冗談なのに。
そう茶化そうとカウンターへ戻ると、腕を組む二人がいる。
「確かに、そうだよね、巧」
「だよな」
「なにが、『だよな』なんです?」
自分用に入れたほうじ茶を二人にも差し出すと、ずずっと同時に二人はすする。
明日は朝から会議ということで、お酒はなしなのだが、この空気感は出すべきか……?
莉子が出せるものはあるかと視線を泳がしていると、ぐっと瑞樹の顔が上がった。
「莉子さん、ごめんなさい。莉子さんだって忙しいのに」
「でも、オレたち、マジで今月キツくて。言い訳なんだけど、ここだから、ゆっくりご飯食べれるのもあって」
「「だから!」」
声が揃った二人に、莉子は思わず身を引いた。
だがその距離を埋めるように二人が、ぐっと身を寄せる。
「莉子さん、おれたち、お礼しかできなくって」
「オレもお金しか出せなくって……。どうしたら、莉子さん、楽になるかな? バイト、こっちから派遣とかなら、すぐできるんだけど」
それは、あんたたち含め、夜の営業終了後に、こなきゃいいんだけど。
なんて、言えるはずもない。
とはいえ、いつもいろいろご協力いただいていることも多い。
それこそ会社協賛として、近隣イベントはもちろん、カフェに対しての食材の寄付やお土産、それこそ高級ワインの差し入れなど、数えきれないカフェの利用をしてもらっている。
それに、家族のような彼らだからこそ、食事を作ってあげたいと思ってしていることだ。
もうここまでが仕事なのだと思えるぐらいに、当たり前ではある。
だが、仕事と思えば、少し違う。
時間外、ではあるし、勤務状態をみても、あまりいいとは言えない。
特に、ワンオペで行っている以上、どこか綻びがでてもおかしくない。
それこそ、インフルエンザにでもかかれば、10日は店を閉めなければならない。
それは月のほぼ半分が営業できないことといっしょだ──
「まず、家族みたいなものなので、大丈夫。だけど」
「「……だけど?」」
「やっぱり、この店は一馬力なので、私がいなくては回りません。凄腕バイトさんが来ても、私の右腕になるまで、やっぱり数日は必要になると思います。なので」
「「なので?」」
乗り出してきた二人へ、莉子はスマホを見せる。
「ここのシュトーレン、買ってくれませんか? なんか、SNSで投稿されてて、とっても美味しそうだったんですよ。普通、3千円くらいなんですけど、ここの8千円もしてて。自分じゃちょっと買えないから」
「そんなんでいいの? 何本でも買うし!」
さすが、というべきか、もう少し父から経営学を学ぶべきではと思うべきか、巧の反応に苦笑いが浮かんでしまうが、瑞樹は素早く検索を始める。
「あ、小樽のホテルのシュトーレン……、はい、わかりました。1本でいいんですか?」
「うん。1本以上は絶対にダメ」
莉子のダメという語尾に驚きながら二人は頷く。
「お取り寄せしたら、持ってきてください。ここへ直接配達はなしで」
「なんでです?」
困り顔の瑞樹と巧に、莉子は笑う。
「みんなで食べるためですよ。先に届いたら、私、食べきっちゃうかもだし」
──こういうときの二人の行動は早い。
すぐに発注をかけると、取り寄せに成功!
ただし順次搬送のため、いつ届くかわからないという。
届いたときに莉子に会うのがいいかと、届くまで待つことにしたが、これは莉子の策ではないとか、瑞樹は気づく。
「ね、巧、これさ、莉子さん、少し来ないようにシュトーレンで足止めしたんじゃない?」
「オレも思ってた。策士だな、莉子さん」
「ほんと。さすが、代理の彼女って感じ」
そんな会話をしているとはつゆ知らず。
莉子はシュトーレンを心の底から待っていた。
それこそ、すぐ届くのではと思っていたのに、なかなか来ない二人にイライラしたぐらいだ。
イライラが無へと変換されたころ、莉子のスマホへ連絡が入る。
『今日、届いたので、持っていきます』
なんて、素敵な文字列なんだろう……!
莉子はランチタイムの最中、踊りたくなるのを我慢するが、常連は浮き足立つ莉子のつま先を読み取っていた──
夜になり。
やはり、閉店後の時刻に、二人はいそいそとやってきた。
「いらっしゃい!」
満面の笑みで出迎えてくれた莉子に、二人はすぐ、シュトーレンの箱を差し出した。
「例のブツだぜ、莉子さん」
巧から手渡され、莉子は崇めるように掲げあげた。
「ありがとうございます……! おいしいっていうシュトーレン、食べてみたかったんだー!」
カウンターへと通され、いつもの位置に座ると、すでに夕食が用意されている。
「昨日も関連会社の懇親会とかあったって、連藤さんから聞きました。まあ、ランチのあまりですが、鯖の味噌煮と五目ご飯とお味噌汁、あとはお浸しときんぴらです。和んでください」
「やった! めっちゃ和風だぁ!」
驚く瑞樹をよそに、すでに箸を手に持ち、巧は両手を合わせた。
「いっただきまーすっ」
「巧、ずるいって!」
ガツガツと食べはじめた二人をおいて、莉子は厨房へ入っていく。
もう、シュトーレンを切りたくて仕方がないのである。
シュトーレンの切り方はマスターしてる。
ど真ん中を切る!
これが大切なのだとか。
それこそ、端から切って食べるのではなく、真ん中から切って、切り口をくっつけて保存するのが、シュトーレンの食べ方なのである。
1センチ程度の厚みを3切用意すると、莉子は自分用のカウンターチェアを用意し、二人の向かいに腰を下ろした。
そのトレイには、3人分のシュトーレンがある。
食べるのが早い二人のことだから、すぐに食べれるのではと準備したのだが、案の定、二人の鯖味噌は骨だけとなり、ご飯茶碗も空だ。
「ご飯、おかわりします?」
莉子がきくと、二人は首を横に振る。
「なら、コーヒーでもいれましょうか」
頷いた無言の二人をみて、ハムスターみたいだな。と莉子は思いながら、ハンドドリップしていく。
すぐにコーヒーのいい香りが漂ってくる。
浅煎りなのもあり、少しの酸味も香りに混じって爽やかだ。
コーヒーとシュトーレンを二人に差し出すと、二人もじっと眺めている。
「こんなにドライフルーツ入ってるって知らなかった」
「オレも。ね、莉子さん、この真ん中のなに?」
「あ、これですか。マジパンですね」
「「マジ、パン?」」
莉子は二人の顔を見て、
「マジで、パンとか思ってる?」
「「ちがうの!?」」
焦りながら言う二人に莉子は吹き出した。
「マジパンってものがあるんです。アーモンドパウダーに砂糖や卵白をまぜて、ペースト状にしたものです。入ってないのもあるそうですけど、入ってる方が、私はなんかシュトーレンな感じがして、好きですね、見た目的に」
莉子はすばやくフォークを持ち上げた。
「じゃ、いただきまーす」
莉子の声に続いて、二人もフォークを差し込んだ。
しっとりとした生地に表面には真っ白な粉砂糖がまぶされている。
さまざまなドライフルーツはもちろん、ナッツもまぜられ、一口ふくむだけで、味と食感が複雑なのがわかる。
そしてなにより──
「「「ぜんぜん、甘くない」」」
声が揃うほど、甘くないのだ。
これが高級店の味なのか。
莉子は納得してしまう。
大昔に食べたシュトーレンは、小麦粉っぽい砂糖の塊だったのだ。
だがこれは、たった1センチでも重厚感があり、甘味はもちろん、風味もすばらしい。スパイスが程よく鼻を抜けていく。
ドライフルーツの甘味はもちろん、このスパイスの香りがあるおかげで、甘さがしつこく感じない。
また、バターに漬け込み、長期保存ができるようにしてあるというが、脂っこくなく、むしろバターがこの生地のコクになっている。
「やっばい。これ、いくらでも食べれそう」
コーヒーを一口、シュトーレンを一口としているうちに、どんどん消えていってしまう。
もう一切れ! と振り返ろうとした莉子を、瑞樹が引き止める。
「莉子さん、これの作り方、知ってるんですよね?」
「うん。もう一切れ、食べない?」
「時計、見てください」
指をさした壁掛け時計は、23時だ。
「カロリーでいうと、たぶん、その薄さで、ご飯1膳ぐらいはあるんじゃないかと……もう一枚食べたら、おれたち……」
莉子は眉間をもむ。
どうするべきか。
確かに明日も食べられる素敵なお菓子だ。
だが、今、食べたい気持ちもある。
……莉子は、明日の朝を想像する。
「……明日、食べるかな」
2枚目を食べて起きた朝は、胸焼けの未来しか視えなかったのだ。
3人は、おいしいものも、ほどほどに。
その言葉を胸に刻み、お開きとなった。
23
お気に入りに追加
140
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(18件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~
白い黒猫
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある希望が丘駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。
国会議員の重光幸太郎先生の膝元であるこの土地にある商店街は、パワフルで個性的な人が多く明るく元気な街。就職浪人になりJazzBarを経営する伯父の元で就職活動をしながら働く事になった東明(とうめい)透(ゆき)は、商店街のある仕事を担当する事になり……。
※ 鏡野ゆうさんの『政治家の嫁は秘書様』に出てくる商店街が物語を飛び出し、仲良し作家さんの活動スポットとなってしまいました。その為に同じ商店街に住む他の作家さんのキャラクターが数多く物語の中で登場して活躍しています。鏡野ゆうさん及び、登場する作家さんの許可を得て創作させて頂いております。
コラボ作品はコチラとなっています。
【政治家の嫁は秘書様】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981
【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339
【日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
【希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~】
https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
【希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
【Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283
Husband's secret (夫の秘密)
設樂理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
定期的にのぞきにきてます、次の更新楽しみに待ってます
久しぶりにお外へお出掛けとかどうでしょう?
もちろん双方のおうちでまったりも歓迎です
あさん、お久しぶりです
いつも見守ってくださり、本当にありがとうございます😊
もう少ししたら、リアルが落ち着くので、いの一番に更新したいと思います!
ありがとうございますっ
もう少しだけ、お時間ください
いつも更新楽しみにしています( ^ω^ )
莉子さんの料理が美味しそうなので、私も真似して作ったりしています。
cafe R、近所にあったら常連になりたい!
いつもお付き合いいただき、ありがとうございます
不定期更新ですみません( ´;ω;` )ありがとうございます!
真似していただけるなんて、光栄です!
ありがとうございますっ
タイトルがメニューのものは、間違いなく私が作ったことがある料理なので、少しでも昼食・夕飯のキッカケになっていたら嬉しいです
本当に嬉しい感想、ありがとうございます
更新、がんばりますっ!
あさん、ありがとうございます(゚´Д`゚)゚。
なかなか更新がままならず、いつも追いかけていただき、感謝しかありません!
何かしらのカタチになるのも夢ですが、楽しく読んでいただけることを目標に、楽しく続けていきたいと思います(ˊᗜˋ)ありがとうございますっ