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第2章 カフェから巡る四季
第152話 ビールと相性最高・大根のサイコロ唐揚げ!
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本日は、巧と瑞樹がご来店。
お盆も過ぎ、少し涼しい雰囲気が出てきたが、まだまだ日中は暑い。
閉店間際に滑り込むように入ってきた二人だが、暑さにやられたのか、しおれている。
巧はカウンターにつくなり、ネクタイを緩めてジャケットを脱ぐと、
「莉子さーん、ビール!」
なかなかの貫禄で注文してくる。
となりに腰をおろした瑞樹はカウンターにへばりつきながら、小さく手を挙げた。
「おれもー」
莉子は手早く二人に瓶ビールを2本ずつ手渡すと、閉店の仕上げにはいった。
すでに客はおらず、厨房へ皿を戻し、レジをチェック。正面玄関にはクローズの看板を置いておく。
カウンターに戻ると、すでに2本目も半分。
莉子が来たのをいいことに、二人はそれを飲み干し、「「もう一本」」と声を揃えた。
「はいはい」
莉子は笑いながら追加のビールを手渡すと、枝豆のペペロンチーノを作っていく。
たっぷりなオリーブオイルに、みじん切りのニンニク、唐辛子、塩を入れ、火にかける。
香りが移ってきたら冷凍の枝豆をいれ、ほくほくに温まれば完成だ。
食欲がなさそうな二人だったが、一つ食べ、また一つと、枝豆が消えていく。
ピリ辛とニンニクの香りは、少なからず食欲を増す効果がある。
「これ、おいしい、莉子さんっ」
「これなら枝豆どんぶりで食べれそうだよな」
「それはよかったです。もう一品、おつまみ作りますねー」
ばくばくと食べ始めた二人に追いつくように、莉子は2品目に取り掛かった。
大根を1センチの輪切りにし、皮をむき、それを1センチ角のサイコロ状にし、ナイロン袋へ入れておく。
その中へ片栗粉、粉チーズはたっぷり、塩と黒胡椒、乾燥バジルを入れ、袋をフリフリ。
まぶされた大根は数分置いておくのがポイントだ。
旨みたっぷりの厚めの衣に変化するのだ。
油を温めていると、指を舐めて、おしぼりで手を拭いた巧が神妙な顔をしている。
同じく瑞樹もだ。
「どうしたんです、二人とも?」
「実は奈々美から、『莉子さんに頼りすぎ』って注意されてて」
「おれも優ちゃんに……」
「それで?」
「オレ、今日は家で一人だし、帰ってもコンビニかウーバーになりそうで」
「おれも同じで。でも、あったかいもの食べたくて……」
あまりのしょげっぷりに莉子は吹き出した。
「なんでそんなに笑うんだよ!」
「おれたち、けっこう、悩んでるんだけど!」
「はいはい」
温まった油にサイコロ状の大根を落としていく。
じゅわりといい音をたてながら、大根が揚げられていく。
「そんな心配しなくても大丈夫ですよ。事前に連絡くれたじゃないですか」
「でも、ギリギリだったしな、瑞樹」
「うん。来る直前だったし」
「でももし、今日は無理って言ったら来てないでしょ」
コロコロと油に浮いた大根を転がしてやる。
だいぶシバ犬色に揚がってきた。
「そりゃ、来るわけないじゃん。な?」
「うん。迷惑なるもん」
「断ってないってことは、大丈夫ってことですよ。それに、もう、私が断りづらい仲でもないですよね?」
莉子はからりと揚がったサイコロ大根を二人の前に差し出した。
「さ、おつまみどうぞ」
二人は莉子の笑顔に押され、にっこり微笑んだ。
そして、揚げたてをひと口。
「……あっ……つ」
「……あ、あ!」
これは、大根だったはずだ。
大根だったはずなのに、チーズの旨みと衣のサクサク感、さらに大根からじゅわりと汁があふれてくる。
「「なにこれ、めっちゃいい!」」
声をそろえると、それをつまみにまた瓶ビールを飲み込んでいく。
「これ、手軽でおいしいんですよ。でも、揚げたてを食べないと大根から水がでちゃって、べちゃべちゃなるんで、こういうときにしか出せませんけど」
莉子はそう言いながら、どこからか出してきたオレンジワインをグラスに注ぎ、大根唐揚げを口に放り込んだ。
やはり、熱々はおいしい!
にんまりと笑いながらワインを飲みこむと、二人の視線がグラスに釘付けに。
「あーおれもワイン飲みたい、かも」
「俺も」
「しょーがないですねぇ。これは私の秘蔵ワインなんですよー?」
莉子は二人にオレンジワインを振る舞いつつ、冷蔵庫を眺めてみる。
「……あ、カボチャのハンパがある……天ぷらにしますね」
テキパキとおつまみを作ってくれているが、どう考えてもあまり物の処理だ。
それでも温かく、おいしい食事ができるのだから、カノジョたちのいう通り、感謝しなければ。
「〆は今日のランチ、ローストポークだったんで、それのチャーハンでいいです?」
「「お母さんみたーい」」
そろった声に莉子は「お姉さんといってください」腰に手を当て言い切るが、すぐにふきだした。
今日も明るい笑い声が店内に響く。
ゆっくりとカフェの夜は更けていく──
お盆も過ぎ、少し涼しい雰囲気が出てきたが、まだまだ日中は暑い。
閉店間際に滑り込むように入ってきた二人だが、暑さにやられたのか、しおれている。
巧はカウンターにつくなり、ネクタイを緩めてジャケットを脱ぐと、
「莉子さーん、ビール!」
なかなかの貫禄で注文してくる。
となりに腰をおろした瑞樹はカウンターにへばりつきながら、小さく手を挙げた。
「おれもー」
莉子は手早く二人に瓶ビールを2本ずつ手渡すと、閉店の仕上げにはいった。
すでに客はおらず、厨房へ皿を戻し、レジをチェック。正面玄関にはクローズの看板を置いておく。
カウンターに戻ると、すでに2本目も半分。
莉子が来たのをいいことに、二人はそれを飲み干し、「「もう一本」」と声を揃えた。
「はいはい」
莉子は笑いながら追加のビールを手渡すと、枝豆のペペロンチーノを作っていく。
たっぷりなオリーブオイルに、みじん切りのニンニク、唐辛子、塩を入れ、火にかける。
香りが移ってきたら冷凍の枝豆をいれ、ほくほくに温まれば完成だ。
食欲がなさそうな二人だったが、一つ食べ、また一つと、枝豆が消えていく。
ピリ辛とニンニクの香りは、少なからず食欲を増す効果がある。
「これ、おいしい、莉子さんっ」
「これなら枝豆どんぶりで食べれそうだよな」
「それはよかったです。もう一品、おつまみ作りますねー」
ばくばくと食べ始めた二人に追いつくように、莉子は2品目に取り掛かった。
大根を1センチの輪切りにし、皮をむき、それを1センチ角のサイコロ状にし、ナイロン袋へ入れておく。
その中へ片栗粉、粉チーズはたっぷり、塩と黒胡椒、乾燥バジルを入れ、袋をフリフリ。
まぶされた大根は数分置いておくのがポイントだ。
旨みたっぷりの厚めの衣に変化するのだ。
油を温めていると、指を舐めて、おしぼりで手を拭いた巧が神妙な顔をしている。
同じく瑞樹もだ。
「どうしたんです、二人とも?」
「実は奈々美から、『莉子さんに頼りすぎ』って注意されてて」
「おれも優ちゃんに……」
「それで?」
「オレ、今日は家で一人だし、帰ってもコンビニかウーバーになりそうで」
「おれも同じで。でも、あったかいもの食べたくて……」
あまりのしょげっぷりに莉子は吹き出した。
「なんでそんなに笑うんだよ!」
「おれたち、けっこう、悩んでるんだけど!」
「はいはい」
温まった油にサイコロ状の大根を落としていく。
じゅわりといい音をたてながら、大根が揚げられていく。
「そんな心配しなくても大丈夫ですよ。事前に連絡くれたじゃないですか」
「でも、ギリギリだったしな、瑞樹」
「うん。来る直前だったし」
「でももし、今日は無理って言ったら来てないでしょ」
コロコロと油に浮いた大根を転がしてやる。
だいぶシバ犬色に揚がってきた。
「そりゃ、来るわけないじゃん。な?」
「うん。迷惑なるもん」
「断ってないってことは、大丈夫ってことですよ。それに、もう、私が断りづらい仲でもないですよね?」
莉子はからりと揚がったサイコロ大根を二人の前に差し出した。
「さ、おつまみどうぞ」
二人は莉子の笑顔に押され、にっこり微笑んだ。
そして、揚げたてをひと口。
「……あっ……つ」
「……あ、あ!」
これは、大根だったはずだ。
大根だったはずなのに、チーズの旨みと衣のサクサク感、さらに大根からじゅわりと汁があふれてくる。
「「なにこれ、めっちゃいい!」」
声をそろえると、それをつまみにまた瓶ビールを飲み込んでいく。
「これ、手軽でおいしいんですよ。でも、揚げたてを食べないと大根から水がでちゃって、べちゃべちゃなるんで、こういうときにしか出せませんけど」
莉子はそう言いながら、どこからか出してきたオレンジワインをグラスに注ぎ、大根唐揚げを口に放り込んだ。
やはり、熱々はおいしい!
にんまりと笑いながらワインを飲みこむと、二人の視線がグラスに釘付けに。
「あーおれもワイン飲みたい、かも」
「俺も」
「しょーがないですねぇ。これは私の秘蔵ワインなんですよー?」
莉子は二人にオレンジワインを振る舞いつつ、冷蔵庫を眺めてみる。
「……あ、カボチャのハンパがある……天ぷらにしますね」
テキパキとおつまみを作ってくれているが、どう考えてもあまり物の処理だ。
それでも温かく、おいしい食事ができるのだから、カノジョたちのいう通り、感謝しなければ。
「〆は今日のランチ、ローストポークだったんで、それのチャーハンでいいです?」
「「お母さんみたーい」」
そろった声に莉子は「お姉さんといってください」腰に手を当て言い切るが、すぐにふきだした。
今日も明るい笑い声が店内に響く。
ゆっくりとカフェの夜は更けていく──
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・・・・・・・・・・
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