café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第151話 ケンカした日はパン作り

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 今日は定休日だ。
 本当なら莉子は連藤の家にお泊まりに行くのだが、現在、厨房にいる。
 昨夜、些細なことでケンカをした。
 今まで、これほど大きなケンカはなかったと思う。
 それは連藤が大人だったから、避けられていたのかもしれない。
 莉子自身も、それは薄々感じていた。
 だからこそ、甘えていたのかもしれない。
 好きなように言葉を紡いで、お互いに傷つけ合ってしまった昨夜、連藤は無言で出社し、莉子は今部屋のリビングで一人、コーヒーをすすっている。

「……でも、私悪くないと思うんだよね」

 これはお互いに思っているフレーズだろう。
 ムカムカする気持ちのまま、莉子は立ち上がった。

「……パン、こねよ」

『イライラする日は、パンをこねたらいい』
 これはパンを作っているYouTuberが言っていたことだ。
 無言で黙々とする作業なのはもちろん、力を込めてこねることで、ストレスも和らぎやすいという。

 莉子はさっそくと大きなボウルに強力粉250gをはかり、ドライイースト小さじ2、砂糖小さじ3、塩は小さじ半分ぐらい。あとバター25gを常温に戻しつつ、ぬるい水を160cc準備。

「これで、よし」

 強力粉のなかに粉の材料を追加、ぬるい水をいれてこねていく。
 バターはあとで、だ。

 水のついた粉は急に粘り気を出し始めるが、徐々にまとまっていく。
 指についた生地を取りながら、

「あんなに、感情的にいうこともなかったのにさー」

 自分を棚にあげて、連藤を責めてみる。
 もう少しボウルのなかで混ぜていくと、ひと塊になったので、重いまな板の上へ。
 ここでなんとなく常温に戻ったバターを加え、ひたすらに捏ねていく。

「れん、どう、さん、の! ばか!」

 叩きつけて伸ばし、それを捏ねてやると、なんとなくいい感じになる気がするので、莉子は実践しているのだが、莉子の独り言よりも大きな音が鳴り響く。

「よいっ! しょ! おいしく! なーれ!」

 20分程度は捏ねなければならないので、ひたすらに根気しかない。
 時計を見て、まだ5分しか捏ねてない……まだ8分……とやっていると、莉子の手が止まる。

「……私、なんで怒ってたんだっけ……?」

 ハッと我に返るも、ケンカをしたことしか覚えておらず、ほかの詳細に関しては、ほとんど記憶がないことに気づく。
 イライラしていた事だけはハッキリしていたのに、だ。

「情けな……」

 大きくため息をついて生地を優しく摘んで広げてみると、いい感じに広がった。
 捏ねあがったようだ。

 キレイなボウルに生地をおき、濡れ布巾をかけて30分ほど放置。倍の大きさになれば一次発酵完了。
 その間にペリペリはがしパンにしようと準備していく。

 たっぷりのバターを常温にし、さらに砂糖とシナモンを好きな分量で混ぜておく。
 パウンドケーキ型にはバターを塗っておくことを忘れない。
 たぶん、二つは焼ける量だったはずだ。

 ──ピピ!

 タイマーの音につられて見にいけば、しっかり膨らんでいる。
 ガスを拳で叩き抜くと、8等分にし、なんとなくパウンドケーキの型に合わせて長方形に整えていく。
 ここで二次発酵させる方もいるようだが、面倒なのでそのまま成形へ。

 成形している間、成形前の生地が乾かないように濡れ布巾をかけながら作業だ。
 さっそく長方形の生地にまずはバターをたっぷりと塗り、そこにシナモンシュガーをたっぷりとかける。
 また乗せて、バターを塗って、シナモンシュガーをかけてを繰り返したあと、これを切るのだ。

 厚みの出た生地を型の高さくらいの正方形にしていく。
 乗せていたときは、シュガーゾーンが横だが、正方形の生地にし、シュガーゾーンを縦にして型に詰めてれば、シュガーゾーンが蛇腹になり、ペリペリはがしパンにより近づく計算だ。

 パウンドケーキの型にムリムリ詰めて、やはり二つ完成。
 濡れ布巾をかけて20分ほどおいて、生地がしっかり膨らむもを待つ間、オーブンを200℃で温めておく。

「ちゃんと焼けますよーに!」

 柏手を打って拝んでから、温まったオーブンへ。
 15分もあれば焼けるだろう。

 莉子は、オレンジに光るオーブンをかがみこんで見つめる時間にした。
 砂糖がじゅわりと溶けながら、生地がぷくぷく成長していくのは、とても見応えがある。

「──莉子さん、いるかな?」

 唐突な声に莉子は大袈裟に飛び退いた。

 連藤だ。
 連藤が、部屋に、いる!

「……うわぁ!?」

 言葉にならない声を上げると、だいたいの方向へ連藤の体が向くが、なにかモジモジと落ち着かない。
 だが、一度、ヒュっと息を吸い、飲み込んで、口を開いた。


「あ、いや、その、……仲直り、したくて……」


 あまりに小さな声がする。
 莉子は驚きながらも立ち上がり、

「……え、あ、私も、謝ります。ごめんなさい。言い過ぎました」
「いや、俺も、少し気が立っていた……申し訳ない」

 お互いが歩み寄ったとき、メロディが鳴る。

「あ、ペリペリパン、焼けたみたいです」
「ペリペリ、パン……?」
「はい、ペリペリパン。いっしょに食べませんか?」
「あ、ああ。それなら、申し訳ないが、このコーヒーも一緒にどうだろう」

 莉子に献上するように両手で差し出したのは、並ばないと買えない焙煎士のコーヒー豆である。

「……え!? なんで、これ……」
「たまたま通りかかって、買えたんだ、たまたま!」

 絶対並んだな。莉子は思うが、それは口に出さないでおく。

「浅煎りですね。あー悩む。少し濃いめにしちゃおうかな」
「うん。俺もちょうど濃いめが飲みたかった」

 お湯を沸かしながら、パンを取りだし、粗熱を取っていくが、

 やっぱり連藤さんには勝てないなぁ……

 莉子は思ってしまう。
 でも、この勝負は勝たなくてもいいものなのだ。
 そう思うと、肩の荷が楽になり、またケンカもいいかもな。と思ってしまう莉子だった。
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