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第2章 カフェから巡る四季
第150話 夏バテには、冷汁
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「莉子、やばい。オレ、もう死ぬわ……」
そうぼやくのは三井だ。
連藤もまたぐったりと肩を落としている。
「もう、何もいらない……水だけでいい……」
そうなるのも無理はない。
連日の殺人的な気温に体力が奪われているのは間違いない。
さらには、24時間冷房に当たり続けるのも体力を奪っているのだろう。
莉子は少しだけ早く上がってきた二人が少しでも食べられるものを、と考える。
確かに莉子自身も暑すぎで、厨房に立つのも一苦労な状況だ。
現在は食事はランチのみ、夜の営業はドリンクと火を使わない前菜系のみとなっている。
「……あれ、作ってみますか」
「「アレ?」」
連藤と三井の声が重なる。
「連藤、わかるか?」
「いや、皆目見当もつかない」
莉子は、ふふふと不敵に笑うと、
「待っててください。すぐできますので」
そういって厨房へと入っていく。
こういう日のために、莉子は考えてきたのだ。
暑い日にも食べられる食事を!
その中から、莉子は『冷汁』をチョイス。
最近は粉末状になったお出汁の元が売っている。
それを使っての簡単冷汁だ。
なるだけ冷たい水を小さめのボウルに準備し、そこへお出汁の元の粉末を投入。
レシピ本にあったお出汁の元ではないため、倍量いれておく。
それを冷蔵庫へしまい、次は豆腐だ。
木綿豆腐が食感と腹持ちがいいと、パックから取り出し、水切りしていく。
方法は簡単で、平たいお皿の上に木綿豆腐を置き、ラップを上に乗せる。
その上にまな板を乗せ、木綿豆腐と同じぐらいの重さを乗せておくだけだ。
これでまな板は汚れず、しっかり水切りもできる。
今日はまな板の上に適当にレシピ本を乗せておくことにした。
「……よし。あとは、お味噌」
大きめのボウルに白味噌と赤味噌を半々になるように準備しておく。
同じ割合にしたほうが味を整えやすいし、味を補う役割もこなせる。
そこへ、みりんと醤油、すりごまはたっぷりと投入し、味噌をとかしておく。
これで調味液の完成。
薬味用に大葉を千切りも忘れない。
最後に、大変重要な食材、きゅうりを準備だ。
きゅうりは多めの塩で、ゴシゴシこすりまくる。
手が緑色の塩水でまみれるほどにゴシゴシする。
こうすると、えぐみが取れるし、塩味がきゅうりについておいしいのである。
洗って水気を拭いたら、スライサーで薄く輪切りだが、莉子は手を切りやすいので手で輪切りだ。
リズミカルに切り終わっても聞こえない音に、莉子はソワソワしながら確認しにいく。
「ご飯、炊けない……? えー……」
見れば、炊飯器は残り6分の表記。
安堵するも、なら、完成させてしまおうと動き出す。
冷蔵庫に入れてあったよく冷えただし汁を調味液の中へ少しずつ入れ、のばしていく。
そこへ水切りをし終えた豆腐を手でちぎって入れる。
水切りした豆腐はぶりんとした弾力があり、ちぎりやすい。
今回は15分ぐらい水切りをしてみたが、もう少しするともっと水が抜けて、だし汁を吸ってくれる気がする。
次回への反省点として、サラリとメモを残すと、切っておいたきゅうりも入れ、再び冷蔵庫へ。
炊飯器のそばに立ち、メロディを待つ。
軽やかなメロディだが、そこから5分ほど蒸らした方が美味しいご飯になるので、しゃもじをもって待機だ。
厨房の時計を何度見ただろう。
しっかり進んだのを確認すると、小さな丼を用意し、ご飯をよそっていく。
そこにさっき作った冷汁をたっぷりとかけ、最後にごま油をひと垂らし。彩りに大葉を添えれば完成だ。
「お待たせしました、連藤さん、三井さん」
莉子は自分の分の丼も用意済みだ。
カウンター越しに丼を並べ、スプーンを手渡すと、
「「「いただきます」」」
三人の声がそろった。
熱々のご飯をひと口。
魚の出汁がしっかりでていて、鼻からカツオの香りが抜けていく。
更には、熱々だったご飯と、しっかり冷えただし汁のハーモニーがたまらない。
この温度差が食欲を妙にそそるのだ。
しっかり噛めば大葉の爽やかな香りはもちろん、歯ごたえのいいきゅうりには、ほどよく下味がついて、どこまでも美味しい。
「莉子さん、これはご飯がはかどるな……」
「そうでしょ。この冷汁、めっちゃ良くないです?」
話す二人の間を割くように、ぬっと三井が顔をだす。
「これ、オレにも作れるか?」
「ええ、火を使わないし、道具があればもっと簡単です」
「そっか……」
莉子は先読みした。
彼女の星川へ作りたいと思ったのだと。
手早くメモに材料を書いていると、連藤が「莉子さん、味変、したいんだが」と言い出した。
「そうですね……」
莉子はワサビ、ラー油を差し出してみる。
連藤はラー油を選ぶと、どんぶりの縁を確認し、3回、プッシュする。
意外と多めに出されたラー油だが、冷たい水に入れているため、激辛までいかないようだ。
「……うん。ラー油は食欲がでる。いいな……」
「お、オレもそれやるかな」
三井は手渡されたメモを見つつ、ラー油を垂らし、食べ始めた。
莉子はワサビで味変だ。
ツンとさっぱり美味しくいただける。
「これ、あと何回作ることになるかなぁ……」
ぼやくように言った莉子の声に、二人は返事をしない。
せっかく暑さを忘れていたのに、蒸し返された気になったからだ。
だが、間違いなく今日の1回ではないと思えるだけに、今年の夏も暑さが厳しいのは否めない。
どうか、早く秋になりますように──!
3人の願いは、神のみぞ知る。
そうぼやくのは三井だ。
連藤もまたぐったりと肩を落としている。
「もう、何もいらない……水だけでいい……」
そうなるのも無理はない。
連日の殺人的な気温に体力が奪われているのは間違いない。
さらには、24時間冷房に当たり続けるのも体力を奪っているのだろう。
莉子は少しだけ早く上がってきた二人が少しでも食べられるものを、と考える。
確かに莉子自身も暑すぎで、厨房に立つのも一苦労な状況だ。
現在は食事はランチのみ、夜の営業はドリンクと火を使わない前菜系のみとなっている。
「……あれ、作ってみますか」
「「アレ?」」
連藤と三井の声が重なる。
「連藤、わかるか?」
「いや、皆目見当もつかない」
莉子は、ふふふと不敵に笑うと、
「待っててください。すぐできますので」
そういって厨房へと入っていく。
こういう日のために、莉子は考えてきたのだ。
暑い日にも食べられる食事を!
その中から、莉子は『冷汁』をチョイス。
最近は粉末状になったお出汁の元が売っている。
それを使っての簡単冷汁だ。
なるだけ冷たい水を小さめのボウルに準備し、そこへお出汁の元の粉末を投入。
レシピ本にあったお出汁の元ではないため、倍量いれておく。
それを冷蔵庫へしまい、次は豆腐だ。
木綿豆腐が食感と腹持ちがいいと、パックから取り出し、水切りしていく。
方法は簡単で、平たいお皿の上に木綿豆腐を置き、ラップを上に乗せる。
その上にまな板を乗せ、木綿豆腐と同じぐらいの重さを乗せておくだけだ。
これでまな板は汚れず、しっかり水切りもできる。
今日はまな板の上に適当にレシピ本を乗せておくことにした。
「……よし。あとは、お味噌」
大きめのボウルに白味噌と赤味噌を半々になるように準備しておく。
同じ割合にしたほうが味を整えやすいし、味を補う役割もこなせる。
そこへ、みりんと醤油、すりごまはたっぷりと投入し、味噌をとかしておく。
これで調味液の完成。
薬味用に大葉を千切りも忘れない。
最後に、大変重要な食材、きゅうりを準備だ。
きゅうりは多めの塩で、ゴシゴシこすりまくる。
手が緑色の塩水でまみれるほどにゴシゴシする。
こうすると、えぐみが取れるし、塩味がきゅうりについておいしいのである。
洗って水気を拭いたら、スライサーで薄く輪切りだが、莉子は手を切りやすいので手で輪切りだ。
リズミカルに切り終わっても聞こえない音に、莉子はソワソワしながら確認しにいく。
「ご飯、炊けない……? えー……」
見れば、炊飯器は残り6分の表記。
安堵するも、なら、完成させてしまおうと動き出す。
冷蔵庫に入れてあったよく冷えただし汁を調味液の中へ少しずつ入れ、のばしていく。
そこへ水切りをし終えた豆腐を手でちぎって入れる。
水切りした豆腐はぶりんとした弾力があり、ちぎりやすい。
今回は15分ぐらい水切りをしてみたが、もう少しするともっと水が抜けて、だし汁を吸ってくれる気がする。
次回への反省点として、サラリとメモを残すと、切っておいたきゅうりも入れ、再び冷蔵庫へ。
炊飯器のそばに立ち、メロディを待つ。
軽やかなメロディだが、そこから5分ほど蒸らした方が美味しいご飯になるので、しゃもじをもって待機だ。
厨房の時計を何度見ただろう。
しっかり進んだのを確認すると、小さな丼を用意し、ご飯をよそっていく。
そこにさっき作った冷汁をたっぷりとかけ、最後にごま油をひと垂らし。彩りに大葉を添えれば完成だ。
「お待たせしました、連藤さん、三井さん」
莉子は自分の分の丼も用意済みだ。
カウンター越しに丼を並べ、スプーンを手渡すと、
「「「いただきます」」」
三人の声がそろった。
熱々のご飯をひと口。
魚の出汁がしっかりでていて、鼻からカツオの香りが抜けていく。
更には、熱々だったご飯と、しっかり冷えただし汁のハーモニーがたまらない。
この温度差が食欲を妙にそそるのだ。
しっかり噛めば大葉の爽やかな香りはもちろん、歯ごたえのいいきゅうりには、ほどよく下味がついて、どこまでも美味しい。
「莉子さん、これはご飯がはかどるな……」
「そうでしょ。この冷汁、めっちゃ良くないです?」
話す二人の間を割くように、ぬっと三井が顔をだす。
「これ、オレにも作れるか?」
「ええ、火を使わないし、道具があればもっと簡単です」
「そっか……」
莉子は先読みした。
彼女の星川へ作りたいと思ったのだと。
手早くメモに材料を書いていると、連藤が「莉子さん、味変、したいんだが」と言い出した。
「そうですね……」
莉子はワサビ、ラー油を差し出してみる。
連藤はラー油を選ぶと、どんぶりの縁を確認し、3回、プッシュする。
意外と多めに出されたラー油だが、冷たい水に入れているため、激辛までいかないようだ。
「……うん。ラー油は食欲がでる。いいな……」
「お、オレもそれやるかな」
三井は手渡されたメモを見つつ、ラー油を垂らし、食べ始めた。
莉子はワサビで味変だ。
ツンとさっぱり美味しくいただける。
「これ、あと何回作ることになるかなぁ……」
ぼやくように言った莉子の声に、二人は返事をしない。
せっかく暑さを忘れていたのに、蒸し返された気になったからだ。
だが、間違いなく今日の1回ではないと思えるだけに、今年の夏も暑さが厳しいのは否めない。
どうか、早く秋になりますように──!
3人の願いは、神のみぞ知る。
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