144 / 153
第2章 カフェから巡る四季
第144話 活帆立をさばくときは軍手があるといいよね
しおりを挟む
生きた帆立ほど、力強い生き物はいないのでは……
2日は経っているというが、ガッチリとじた口は、一向に割れる気配はない。
頑固な奴め!
唐突に届いた活帆立は、巧の父の計らいによる。
「莉子さん、北海道に仕事があってね。これ、買ってきたんだよ」
小さな発砲に入れて渡されたものは間違いなく『生もの』とまで想像できた。
だが、まさかの生きている帆立とは思いもよらず……
それこそ牡蠣か、冷凍された毛ガニだろうと思っていたのに!
莉子は思う。
このまま焼いてしまおうかとも。
だが、せっかく生きているのなら、さばいてもみたい!
「……調べるか……」
1人、暗い厨房で莉子は動画を検索していく。
『ほたて さばく』
で、瞬く間に帆立動画がわんさか集まってくる。
今日は絶対に、いつものメンバーが来ないことを知っている。
なぜなら巧の父ははっきりと言い切った。
「莉子さん、だけ、で、食べてくれ。……お前たちに買ってきていないからな」
巧と瑞樹は「え!!!!」という顔だ。
絶対にあり得ない、そんな顔つきでもある。
三井と連藤はそうでしょうね、と声に聞こえてきそうな表情である。
付き合いが長い三井と連藤のほうが、理解度が高い、ということだろうか。
あり得ない、オレも食いたいと騒ぐ巧は、父親に連行されていった──
「……よし、刺身、いきますか」
莉子は冷蔵庫から取り出した。
秘蔵の日本酒だ。
青森県の熟成日本酒をこの野菜冷蔵庫に隠しておいたのだ!
いつものセラーやカウンター下の冷蔵庫においておくと、すぐに消滅してしまうからだ。
「隠しておくと忘れるので、すごい儲けた気持ちになるよね……いいわこれ……隠しとこ」
コソコソひとりごとをつぶやきながら、ニヤニヤしつつ、日本酒を錫に入れて飲み込んだ。
華やかな香りと余韻の長さはもちろん、米の旨味がすばらしい。
日本酒の熟成は、厚みがあって、お酒だけでとても味わいが深い。
「……で、活帆立くん……口すら開いてないよ」
生きている証拠、ではあるが、こんなにガッチリされるとナイフすら入らない。
「生きてる帆立……生きてる……生きてる……」
たまたま見た動画はすでに口がぱっかりと開いた帆立だったため、最初の開き方がわからない。
がっちり閉じた帆立を開ける動画を探していく。
すると軍手を履いてさばいていく動画がみつかった。
わかりやすい!
平らな方に刃をいれていくのだが、帆立にはつなぎ目近くに隙間がある。
そこに刃をさしこみ、切り離していく。
だがこの時の帆立の持ち方は、平らな面を手のひら側にしている。
見た通りにやってみる。
ぐんてを履き、平らな側を手のひらに当て、持つ。
そこに刃を入れ、貝柱を切り離していく。
ゆっくり殻と身を剥がすように、少しずつ切り込みをいれていくと、じょじょに帆立の口が開き始める。
「……できた!」
最後まで切れれば、カパンと開く。
丸い方にくっついた部分もゆっくりとナイフを滑らすようにして剥がし、切っていけば……
「できたー!」
紐付き貝柱の爆誕である。
残りの帆立、4つを処理すると、莉子はお刺身にしていく。
紐はバターソテーにするので、ぬめりを洗ってザルに開けておく。
黒い肝は捨てて、帆立の貝柱だけにする。
帆立の貝柱の切り方は2種類ある。
カルパッチョの切り方と言えるかもしれないが、だるま落としのように、丸く上から削ぎ切りにする方法。
そして、お刺身の切り方で見る、繊維にそって縦に切る方法だ。
ネットには食感がかなりちがうとあり、思えば食べ比べをしたことがなかったと思ったため、実践してみることに。
日本酒を一口含み、まずはカルパッチョの切り方の帆立を……
「……あま! めっちゃあま。ねっとりな感じ。おいしー」
しっかり味わいつつ、日本酒で流してお刺身の切り方へ。
「……ん……かたい。歯応えある。ん……味が、んー……少し、蛋白にも……歯切れはいいけど、帆立の甘さは感じない……?」
莉子はメモをとりつつ、帆立をほおばりつつ、酒を飲み込み、ひと息つく。
「ぜんぜん味違う……やばくない、帆立……」
莉子の1人帆立検証型晩酌はまだまだ続く───
2日は経っているというが、ガッチリとじた口は、一向に割れる気配はない。
頑固な奴め!
唐突に届いた活帆立は、巧の父の計らいによる。
「莉子さん、北海道に仕事があってね。これ、買ってきたんだよ」
小さな発砲に入れて渡されたものは間違いなく『生もの』とまで想像できた。
だが、まさかの生きている帆立とは思いもよらず……
それこそ牡蠣か、冷凍された毛ガニだろうと思っていたのに!
莉子は思う。
このまま焼いてしまおうかとも。
だが、せっかく生きているのなら、さばいてもみたい!
「……調べるか……」
1人、暗い厨房で莉子は動画を検索していく。
『ほたて さばく』
で、瞬く間に帆立動画がわんさか集まってくる。
今日は絶対に、いつものメンバーが来ないことを知っている。
なぜなら巧の父ははっきりと言い切った。
「莉子さん、だけ、で、食べてくれ。……お前たちに買ってきていないからな」
巧と瑞樹は「え!!!!」という顔だ。
絶対にあり得ない、そんな顔つきでもある。
三井と連藤はそうでしょうね、と声に聞こえてきそうな表情である。
付き合いが長い三井と連藤のほうが、理解度が高い、ということだろうか。
あり得ない、オレも食いたいと騒ぐ巧は、父親に連行されていった──
「……よし、刺身、いきますか」
莉子は冷蔵庫から取り出した。
秘蔵の日本酒だ。
青森県の熟成日本酒をこの野菜冷蔵庫に隠しておいたのだ!
いつものセラーやカウンター下の冷蔵庫においておくと、すぐに消滅してしまうからだ。
「隠しておくと忘れるので、すごい儲けた気持ちになるよね……いいわこれ……隠しとこ」
コソコソひとりごとをつぶやきながら、ニヤニヤしつつ、日本酒を錫に入れて飲み込んだ。
華やかな香りと余韻の長さはもちろん、米の旨味がすばらしい。
日本酒の熟成は、厚みがあって、お酒だけでとても味わいが深い。
「……で、活帆立くん……口すら開いてないよ」
生きている証拠、ではあるが、こんなにガッチリされるとナイフすら入らない。
「生きてる帆立……生きてる……生きてる……」
たまたま見た動画はすでに口がぱっかりと開いた帆立だったため、最初の開き方がわからない。
がっちり閉じた帆立を開ける動画を探していく。
すると軍手を履いてさばいていく動画がみつかった。
わかりやすい!
平らな方に刃をいれていくのだが、帆立にはつなぎ目近くに隙間がある。
そこに刃をさしこみ、切り離していく。
だがこの時の帆立の持ち方は、平らな面を手のひら側にしている。
見た通りにやってみる。
ぐんてを履き、平らな側を手のひらに当て、持つ。
そこに刃を入れ、貝柱を切り離していく。
ゆっくり殻と身を剥がすように、少しずつ切り込みをいれていくと、じょじょに帆立の口が開き始める。
「……できた!」
最後まで切れれば、カパンと開く。
丸い方にくっついた部分もゆっくりとナイフを滑らすようにして剥がし、切っていけば……
「できたー!」
紐付き貝柱の爆誕である。
残りの帆立、4つを処理すると、莉子はお刺身にしていく。
紐はバターソテーにするので、ぬめりを洗ってザルに開けておく。
黒い肝は捨てて、帆立の貝柱だけにする。
帆立の貝柱の切り方は2種類ある。
カルパッチョの切り方と言えるかもしれないが、だるま落としのように、丸く上から削ぎ切りにする方法。
そして、お刺身の切り方で見る、繊維にそって縦に切る方法だ。
ネットには食感がかなりちがうとあり、思えば食べ比べをしたことがなかったと思ったため、実践してみることに。
日本酒を一口含み、まずはカルパッチョの切り方の帆立を……
「……あま! めっちゃあま。ねっとりな感じ。おいしー」
しっかり味わいつつ、日本酒で流してお刺身の切り方へ。
「……ん……かたい。歯応えある。ん……味が、んー……少し、蛋白にも……歯切れはいいけど、帆立の甘さは感じない……?」
莉子はメモをとりつつ、帆立をほおばりつつ、酒を飲み込み、ひと息つく。
「ぜんぜん味違う……やばくない、帆立……」
莉子の1人帆立検証型晩酌はまだまだ続く───
0
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~
白い黒猫
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある希望が丘駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。
国会議員の重光幸太郎先生の膝元であるこの土地にある商店街は、パワフルで個性的な人が多く明るく元気な街。就職浪人になりJazzBarを経営する伯父の元で就職活動をしながら働く事になった東明(とうめい)透(ゆき)は、商店街のある仕事を担当する事になり……。
※ 鏡野ゆうさんの『政治家の嫁は秘書様』に出てくる商店街が物語を飛び出し、仲良し作家さんの活動スポットとなってしまいました。その為に同じ商店街に住む他の作家さんのキャラクターが数多く物語の中で登場して活躍しています。鏡野ゆうさん及び、登場する作家さんの許可を得て創作させて頂いております。
コラボ作品はコチラとなっています。
【政治家の嫁は秘書様】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981
【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339
【日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
【希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~】
https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
【希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
【Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283
Husband's secret (夫の秘密)
設樂理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる