café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第144話 活帆立をさばくときは軍手があるといいよね

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 生きた帆立ほど、力強い生き物はいないのでは……

 2日は経っているというが、ガッチリとじた口は、一向に割れる気配はない。
 頑固な奴め!

 唐突に届いた活帆立は、巧の父の計らいによる。

「莉子さん、北海道に仕事があってね。これ、買ってきたんだよ」

 小さな発砲に入れて渡されたものは間違いなく『生もの』とまで想像できた。
 だが、まさかの生きている帆立とは思いもよらず……
 それこそ牡蠣か、冷凍された毛ガニだろうと思っていたのに!

 莉子は思う。
 このまま焼いてしまおうかとも。

 だが、せっかく生きているのなら、さばいてもみたい!

「……調べるか……」

 1人、暗い厨房で莉子は動画を検索していく。

『ほたて さばく』

 で、瞬く間に帆立動画がわんさか集まってくる。
 今日は絶対に、いつものメンバーが来ないことを知っている。
 なぜなら巧の父ははっきりと言い切った。

「莉子さん、だけ、で、食べてくれ。……お前たちに買ってきていないからな」

 巧と瑞樹は「え!!!!」という顔だ。
 絶対にあり得ない、そんな顔つきでもある。
 三井と連藤はそうでしょうね、と声に聞こえてきそうな表情である。
 付き合いが長い三井と連藤のほうが、理解度が高い、ということだろうか。

 あり得ない、オレも食いたいと騒ぐ巧は、父親に連行されていった──


「……よし、刺身、いきますか」

 莉子は冷蔵庫から取り出した。
 秘蔵の日本酒だ。
 青森県の熟成日本酒をこの野菜冷蔵庫に隠しておいたのだ!

 いつものセラーやカウンター下の冷蔵庫においておくと、すぐに消滅してしまうからだ。

「隠しておくと忘れるので、すごい儲けた気持ちになるよね……いいわこれ……隠しとこ」

 コソコソひとりごとをつぶやきながら、ニヤニヤしつつ、日本酒を錫に入れて飲み込んだ。
 華やかな香りと余韻の長さはもちろん、米の旨味がすばらしい。
 日本酒の熟成は、厚みがあって、お酒だけでとても味わいが深い。

「……で、活帆立くん……口すら開いてないよ」

 生きている証拠、ではあるが、こんなにガッチリされるとナイフすら入らない。

「生きてる帆立……生きてる……生きてる……」

 たまたま見た動画はすでに口がぱっかりと開いた帆立だったため、最初の開き方がわからない。
 がっちり閉じた帆立を開ける動画を探していく。

 すると軍手を履いてさばいていく動画がみつかった。
 わかりやすい!

 平らな方に刃をいれていくのだが、帆立にはつなぎ目近くに隙間がある。
 そこに刃をさしこみ、切り離していく。
 だがこの時の帆立の持ち方は、平らな面を手のひら側にしている。
 見た通りにやってみる。

 ぐんてを履き、平らな側を手のひらに当て、持つ。
 そこに刃を入れ、貝柱を切り離していく。
 ゆっくり殻と身を剥がすように、少しずつ切り込みをいれていくと、じょじょに帆立の口が開き始める。

「……できた!」

 最後まで切れれば、カパンと開く。

 丸い方にくっついた部分もゆっくりとナイフを滑らすようにして剥がし、切っていけば……

「できたー!」

 紐付き貝柱の爆誕である。

 残りの帆立、4つを処理すると、莉子はお刺身にしていく。
 紐はバターソテーにするので、ぬめりを洗ってザルに開けておく。
 黒い肝は捨てて、帆立の貝柱だけにする。

 帆立の貝柱の切り方は2種類ある。
 カルパッチョの切り方と言えるかもしれないが、だるま落としのように、丸く上から削ぎ切りにする方法。
 そして、お刺身の切り方で見る、繊維にそって縦に切る方法だ。

 ネットには食感がかなりちがうとあり、思えば食べ比べをしたことがなかったと思ったため、実践してみることに。

 日本酒を一口含み、まずはカルパッチョの切り方の帆立を……

「……あま! めっちゃあま。ねっとりな感じ。おいしー」

 しっかり味わいつつ、日本酒で流してお刺身の切り方へ。

「……ん……かたい。歯応えある。ん……味が、んー……少し、蛋白にも……歯切れはいいけど、帆立の甘さは感じない……?」

 莉子はメモをとりつつ、帆立をほおばりつつ、酒を飲み込み、ひと息つく。

「ぜんぜん味違う……やばくない、帆立……」

 莉子の1人帆立検証型晩酌はまだまだ続く───
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