142 / 153
第2章 カフェから巡る四季
第142話 本日は甲州の白ワインに、牡蠣(レンチン)です
しおりを挟む
大量の牡蠣が送られてきた莉子がまず最初にしたことは、連藤への連絡だ。
メールに書かれたのは、
『今年も牡蠣がきました
ふたりで山分けしませんか?』
これである。
去年はバレてしまい、みんなで食べたので3~4個食べられたら、という具合だ。
だが、2人ならこの倍は食べられる……!
莉子が緊張の面持ちで待つ返信だが、数分で戻ってきた。
『いい甲州がある
明日、休みだ
莉子さんの家にいくよ』
厨房のなかでガッツポーズをしたのは言うまでもない。
定休日に合わせ連藤が休みをとってくれたおかげで、莉子と連藤は少し早めの夕食にする。
そう、今日は牡蠣、だからだ。
「生牡蠣、毎年触らせてもらうが、やはり、北海道のものは形がちがう気がする」
「そうですかね」
莉子は北海道の厚岸や網走、釧路の道東の牡蠣しかしらないため、岩牡蠣はわからない。
届いているものは真牡蠣になるはずだ。冬が旬の牡蠣である。
今日はこれをシンプルにいただく!
「その前に……」
莉子が用意したものは、連藤がもってきてくれた甲州だ。
限定5400本とラベルには書かれてあり、貴重な甲州のよう。
コルクを抜くと、華やかなマスカットの香りがする。
「……あれ? 甲州ってこんな味だったっけ……?」
「どれどれ」
グラスに入れて連藤に渡すと、連藤も、ん? と表情が止まる。
「……うまい」
「ほんとうに?」
莉子もグラスに注ぎ、そっと口につける。
酸味が強いが、すっきりした味わいだ。
余韻はほどよく、それこそ、牡蠣に似合う味だ。
「これ、牡蠣に合いますね」
「俺もそう思った。アタリだな」
「ですね」
現在16時を回ったぐらいのため、変に酔ってはつまらないと、莉子は混ぜご飯のおにぎりを作っておいた。
ひじきと枝豆、千切りにんじん、油揚げが入っている。甘辛く煮てすりおろした生姜をアクセントに、具としてまぜたおにぎりだ。味噌汁は豆腐とネギのみ。
甲州のワインを冷やしつつ、ご飯をしっかり食べてから、莉子は牡蠣の準備に入る。
「本当に、電子レンジ、なのか……? 普通は鍋で蒸すとか」
「うちの電子レンジの仕上がりは私が一番知ってますので。めっちゃ良い感じの牡蠣になりますから、待っててください」
莉子は手頃で大ぶりの皿に、牡蠣を3個並べた。
もちろん、平らな面を上にして並べる。
牡蠣はこの殻のなかのスープがおいしい!!!!
「700Wで3分……と」
いつものように莉子が準備をすると、真後ろで連藤の声がする。
「は? そんなんでできるのか?」
「はい。ラップもいりません」
「本当に?」
「本当です」
莉子は枝豆を出し、さらに鶏肉の照り焼きを温め直すと、メロディが鳴る。
「はいはい、できましたよー」
取り出した皿には、口が開きそうで開かないとっておきの蒸し牡蠣ができあがる。
ワインを注ぎ、牡蠣の平らな殻をそっと持ち上げれば、ぷりんとした身と、くぼんだ殻に牡蠣のスープがたっぷりはいっている。
「……いただきます」
半信半疑の連藤だが、そっと手渡され、冷ましつつ一口で牡蠣を頬張った。
「……あつ……は……うん……ん」
そしてワインをひと口。
「……莉子さん、これはいい。とってもいい!」
「よかった!」
すでに2回目の電子レンジをかけてあるが、莉子も熱々の牡蠣を手に取る。
殻をこじあげると、ぶりんと身が出てくる。
そっとひと口啜れば、もう、牡蠣のミルキーな味と潮の風味が口一杯に広がる。
そこへ甲州のワインを流すと、酸味があるおかげで口のなかがすっきりとしながらも、まるでレモンをふりかけたような味の広がりが生まれる。
「……めっちゃいけますね、これ」
「ああ。何個入っているかはわからないが、2人でも十分食べ切れると思う」
ひさしぶりに牡蠣でお腹いっぱいになれそうだ。
2人は改めてグラスで乾杯をし、牡蠣を頬張っていく。
シンプルだが、素材が美味しければこれで十分豪華な時間になるものだ。
メールに書かれたのは、
『今年も牡蠣がきました
ふたりで山分けしませんか?』
これである。
去年はバレてしまい、みんなで食べたので3~4個食べられたら、という具合だ。
だが、2人ならこの倍は食べられる……!
莉子が緊張の面持ちで待つ返信だが、数分で戻ってきた。
『いい甲州がある
明日、休みだ
莉子さんの家にいくよ』
厨房のなかでガッツポーズをしたのは言うまでもない。
定休日に合わせ連藤が休みをとってくれたおかげで、莉子と連藤は少し早めの夕食にする。
そう、今日は牡蠣、だからだ。
「生牡蠣、毎年触らせてもらうが、やはり、北海道のものは形がちがう気がする」
「そうですかね」
莉子は北海道の厚岸や網走、釧路の道東の牡蠣しかしらないため、岩牡蠣はわからない。
届いているものは真牡蠣になるはずだ。冬が旬の牡蠣である。
今日はこれをシンプルにいただく!
「その前に……」
莉子が用意したものは、連藤がもってきてくれた甲州だ。
限定5400本とラベルには書かれてあり、貴重な甲州のよう。
コルクを抜くと、華やかなマスカットの香りがする。
「……あれ? 甲州ってこんな味だったっけ……?」
「どれどれ」
グラスに入れて連藤に渡すと、連藤も、ん? と表情が止まる。
「……うまい」
「ほんとうに?」
莉子もグラスに注ぎ、そっと口につける。
酸味が強いが、すっきりした味わいだ。
余韻はほどよく、それこそ、牡蠣に似合う味だ。
「これ、牡蠣に合いますね」
「俺もそう思った。アタリだな」
「ですね」
現在16時を回ったぐらいのため、変に酔ってはつまらないと、莉子は混ぜご飯のおにぎりを作っておいた。
ひじきと枝豆、千切りにんじん、油揚げが入っている。甘辛く煮てすりおろした生姜をアクセントに、具としてまぜたおにぎりだ。味噌汁は豆腐とネギのみ。
甲州のワインを冷やしつつ、ご飯をしっかり食べてから、莉子は牡蠣の準備に入る。
「本当に、電子レンジ、なのか……? 普通は鍋で蒸すとか」
「うちの電子レンジの仕上がりは私が一番知ってますので。めっちゃ良い感じの牡蠣になりますから、待っててください」
莉子は手頃で大ぶりの皿に、牡蠣を3個並べた。
もちろん、平らな面を上にして並べる。
牡蠣はこの殻のなかのスープがおいしい!!!!
「700Wで3分……と」
いつものように莉子が準備をすると、真後ろで連藤の声がする。
「は? そんなんでできるのか?」
「はい。ラップもいりません」
「本当に?」
「本当です」
莉子は枝豆を出し、さらに鶏肉の照り焼きを温め直すと、メロディが鳴る。
「はいはい、できましたよー」
取り出した皿には、口が開きそうで開かないとっておきの蒸し牡蠣ができあがる。
ワインを注ぎ、牡蠣の平らな殻をそっと持ち上げれば、ぷりんとした身と、くぼんだ殻に牡蠣のスープがたっぷりはいっている。
「……いただきます」
半信半疑の連藤だが、そっと手渡され、冷ましつつ一口で牡蠣を頬張った。
「……あつ……は……うん……ん」
そしてワインをひと口。
「……莉子さん、これはいい。とってもいい!」
「よかった!」
すでに2回目の電子レンジをかけてあるが、莉子も熱々の牡蠣を手に取る。
殻をこじあげると、ぶりんと身が出てくる。
そっとひと口啜れば、もう、牡蠣のミルキーな味と潮の風味が口一杯に広がる。
そこへ甲州のワインを流すと、酸味があるおかげで口のなかがすっきりとしながらも、まるでレモンをふりかけたような味の広がりが生まれる。
「……めっちゃいけますね、これ」
「ああ。何個入っているかはわからないが、2人でも十分食べ切れると思う」
ひさしぶりに牡蠣でお腹いっぱいになれそうだ。
2人は改めてグラスで乾杯をし、牡蠣を頬張っていく。
シンプルだが、素材が美味しければこれで十分豪華な時間になるものだ。
0
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
十年目の結婚記念日
あさの紅茶
ライト文芸
結婚して十年目。
特別なことはなにもしない。
だけどふと思い立った妻は手紙をしたためることに……。
妻と夫の愛する気持ち。
短編です。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています
熱い風の果てへ
朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。
カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。
必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。
そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。
まさか――
そのまさかは的中する。
ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。
※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。
【完結】月よりきれい
悠井すみれ
歴史・時代
職人の若者・清吾は、吉原に売られた幼馴染を探している。登楼もせずに見世の内情を探ったことで袋叩きにあった彼は、美貌に加えて慈悲深いと評判の花魁・唐織に助けられる。
清吾の事情を聞いた唐織は、彼女の情人の振りをして吉原に入り込めば良い、と提案する。客の嫉妬を煽って通わせるため、形ばかりの恋人を置くのは唐織にとっても好都合なのだという。
純心な清吾にとっては、唐織の計算高さは遠い世界のもの──その、はずだった。
嘘を重ねる花魁と、幼馴染を探す一途な若者の交流と愛憎。愛よりも真実よりも美しいものとは。
第9回歴史・時代小説大賞参加作品です。楽しんでいただけましたら投票お願いいたします。
表紙画像はぱくたそ(www.pakutaso.com)より。かんたん表紙メーカー(https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html)で作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる