café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第139話 簡単・熱々ネギ豆腐

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 寒さも厳しくなってきたこの頃。
 そんな日でもおかまいなしにやってくるのが巧と三井だ。

「いやー寒いわー。莉子、あったかいやつな」
「ただいま、莉子さん。オレもあったかいのー」

 コートを受け取り、フックに引っ掛け、カウンターに座る2人を追うが、『あったかいやつ』とは、一体誰のこと? 猫……?

「……確かに、あったかいですよね、猫ちゃん」
「何言ってんだ、莉子」
「あったかーいのが、食べたいの!」
「あー……すみません、ずっと猫動画見てて」

 今日は18時閉店で、来店予約があったため、2人のために開けていたのだが、一日、雨降りだった。
 本当は20時まで開けておこうと思っていたのだが、立地的に雨が降るとお客が遠のく。
 実際、18時にマダムなお客様がたが帰られたあとは、誰も来ていない。

 ......誰もだ!

 それほど、この寒い時期の雨は、足をのばしたくない場所になる。

 とはいえ、ランチタイムが大盛況なので、正直、夜はおまけみたいなもの。
 それでも来店してくれる2人は救世主に思えてくるが、

「いやー、席の予約で、特にリクエストもなかったので、あまりよく考えてなかったんですよね……」

 パカパカとカウンター下の冷蔵庫を開けだすが、2人は気づいている。
 絶対、暇で動画見てて、予約の時間を忘れてたんだと。

 莉子はふんふんうなりながら、日本酒を取り出した。

「今日は簡単ネギ豆腐にしましょ」

 手際よく枝豆を濃いめの塩をといたお湯で温め、お通しにすると、グラスに日本酒を注いでいく。

「山形の日本酒です。雪女神というお米でできた日本酒で、華やかでとても女性らしい味がします」

 2人は小さくグラスをゆらし、ぐっと飲み込む。
 じんわりと胃を温める日本酒のアルコールと、鼻から抜ける華やかな香りが体にじんわりと染み入ってくる。

「おー……うまいなこれ」
「飲みやすい」

 2人が枝豆をぼりぼり食べて待つ間、蓋つきの厚手の鍋に胡麻油をしき、そこへ大量の斜めスライスした長ネギを投入。そこに絹豆腐をのせ、胡麻油と塩。さらに追いスライス長ネギをもっさりのっけて、胡麻油と塩をかけて、蓋をする。
 これでじっくり火を通せば完成だ。
 弱火で15分程度だろうか。
 とにかく、豆腐に火が入れば、ネギがシャキシャキ派は早くあげればいいし、トロトロ派は長めにすればいい。
 ゆっくり火を通せば焦げずに、絹豆腐から水が出て、ネギが蒸されて火が通る仕組みだ。
 ちなみに莉子はとろっとろのネギ派だ。
 コツとしては、豆腐の下は少し厚めのスライスのほうが、焦げにくいかもしれない。

 ランチで余ったポテトサラダと切り干し大根の煮もの、ランチで余った鮭のムニエルをフライにしなおして出してやると、2人は「わー」と歓声をあげた。

「すっかり居酒屋メニューだな。こりゃいいわ」
「こういうのもいいねぇ。ほっこりしちゃうよねぇ」

 のんびりと日本酒をあおる2人へ、少し大ぶりの鉢に盛り付けた今日のあったかいメイン料理、ネギ豆腐を差し出した。

「お豆腐、塩と胡麻油で十分おいしいんですけど、もし味がたりなかったら、ポン酢と、生姜、追加の塩も用意してます。かけて食べてみてください」

 2人はスプーンで豆腐をすくう。
 とろっとろのネギと、程よく水がぬけた絹豆腐から湯気が絶え間なくあがる。
 息をふいて冷ましてから、そっと口に含むと、ほわっと2人の顔がほどけていく。

「……はふっ……はぁ……こういうの求めてたんだよね、こういうの」
「……はぁ……あっついが、こういうのがいいんだよ、こういうのが」

 言いたいことはわかる。
 こういうの、だ。

 ほっこりあったかくて、素材の味を堪能できる料理のことだ。

「……はぁ……あったまってきたぁ」
「俺も。生姜のせると、ヤバいくらい暑いぞ」

 ジャケットを脱ぎつつ、頬張りつつ、酒をのみつつ……
 忙しい2人だが、それでも会話はのんびりだ。

「ねえ、莉子さん、聞いてよ。この前の取材の対談でさぁ」
「巧、それはお前が悪いんだ、お前がぁ」
「違うって。だから、莉子さん、聞いて? 俺はね」

 ──日本酒は少し愚痴っぽくなりやすい。
 莉子も日本酒をあおりながら思う。
 なぜだろう。

 たしかに、日本酒はあおるものだ。

 あおるから、か……?

 今日の夜は、一段と長くなるのは間違いない。
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