café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第137話 細切れ肉をどうにかしたいときのランチメニュー

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「なかなか便利なものだな」

 網の上にカマンベールチーズやオイルサーディンを並べていると、ソランツェが焚き火台を見ながら感心している。
 網が乗せられるこういう器具はないそうで焚き火は地面に直で火!らしい。そして、焼きたい肉や鍋は三脚(トライポッド)で吊り下げる。土魔法が使える人は簡易的なかまどを作ったりするみたいだけど。
 へえ、そうなんだと言いながら、網付きの小さい折り畳み焚き火台とメスティンやシェラカップをセットにしてここで売ったらソロ冒険者に売れそうじゃない?とかもっとシンプルにトライポッド用に吊り下げられる網の製造販売を考えたけど、どう作ればいいんだろう?鍛冶?魔法でいけるかな?

 今後考えてみようと思った所で、チーズやオイルがぐつぐつして来たので火力の弱めの所へ移動し、空いた場所にステーキ肉とウインナーを置く。美味しく焼けろよ~。

「リヒト、袖が危ない。今、火が付きそうだった」
「火に油だもんな」

 どうも肉の油で火が燃え上がり袖がやばかったらしい。無駄に袖口広いからひらひらしてるんだよな、この派手な上着。

「ほら、脱げ。椅子に置いておくから」
「ん、ありがと」

 ソランツェに脱がせてもらいながら、オイルサーディンの味付けをしたりチーズをかき混ぜる。うーん、美味しそう。
 皿にチーズを付けたパンとウインナーを取ってソランツェに手渡す。

「はい。ソランツェ、これ先に」
「この白っぽいのは何だ?」
「チーズだよ。判る?」
「固形の物は知っている。……食べた事はないが」
「これね、チーズフォンデュっての。熱で溶かしたチーズにパンやウインナーとか付けて食べると美味しいんだよ」
「ウインナー?」
「あ、ソーセージって言った方がいいのかな?判る?お肉といえばお肉かなあ」
「ソーセージとやらも聞いた事はないが……」
「じゃあ、パンから食べてみて。ほい、あーん」

 ちょっとふざけてあーんとしてみたら素直に口を開けるソランツェにそのままチーズの付いたパンを食べさせる。と、耳が横にぺたんとしてしっぽをブンブン振りだした。

「美味い」
「あは。よかった。じゃあ、次はこれ」

 あーん、とウインナーも口へ入れると、これまたブンブンしっぽが揺れている。
 喜んでくれているんだなって嬉しくなるね。こんなのステーキ肉食べたらどうなっちゃうんだろう?しっぽ千切れるんじゃない?
 さて、そんなソランツェを見ながら俺は椅子に腰を下ろしオイルサーディンとビールで一杯!美味~い!
 ソランツェにもビール勧めたけどお酒飲まないんだってさ。気にせず飲めと言われたので気にせず飲んでやる。



「そろそろお肉もいい感じ~!」
「っ、リヒト?!」

 肉はいい感じで焼けたかなと思って、勢いよく椅子から立って肉の様子を見ようと少し中腰になっていたら何やら横からソランツェの慌てる声がする。
 何だ、どうした?と顔を向けてみれば顔を赤くしたソランツェが一点を見つめ固まっている。

「え?どうし――」

 ソランツェは俺の横で小さい折り畳み椅子に座っていたので、目線の位置が中腰で立つ俺の下半身に……おっと?俺の脚……


「わあああああ!!」
「すまない!見るつもりはなかった!!」
「あああああああ!!!」


 さっき立ってた時に、すっかり忘れて上着脱がせてもらったけど、あれは脱いじゃ駄目なんだった。Oh……。
 ソランツェにはアシュマルナにやられた無駄に開いたスリットから俺の下半身が見えたようで……、どこがどう見えたかは怖くて聞けない。
 慌てて脱いでいた上着を腰に巻き羞恥にぷるぷる震えていたら、顔は未だ赤いが我に返ったソランツェから

「……そんな扇情的な服と下着は止めた方がいいぞ」

 と、有難いご忠告を頂いた。

「そこに俺の意思はないんだよ……」


 俺、泣きそう。




++++++



 その後、お通夜みたいな雰囲気の中ご飯を食べた。
 ソランツェがこの肉美味しいなって一生懸命盛り上げてくれたけど俺のテンションは暖簾に腕押し糠に釘状態だった。ごめん、変なもの見せて。



 片付けも終え、今日はしっかりシャワーテントも用意してのお風呂を準備する。ゆっくり浸かって傷を癒やしたい……。ポータブル浴槽は小さいからそんなにゆったり出来ないけども。

「貴重な水なんだがなあ……」

 早く入りたいなと思いながら浴槽にお湯の準備をしているとソランツェが横に来てちょっと難しい顔している。アシュマルナのおかげと理解はしていても複雑らしい。

 この世界、聞く限り水路はあるが日本みたいな便利な水道設備はない。水路と言っても排水用で、生活用水や飲用出来る水は井戸からか魔法で生み出す。
 しかし、そもそも魔力と引き換えに水を生み出せる水魔法が使える人はごく少数しか生まれないらしく、十歳の時に行われる適性判定で水属性が使えると認められるとすぐに国や貴族に連れて行かれる。衣食住面倒見てやるので高貴な我らの為に常に水を生み出せって話らしい。
 で、自分達はそれで水は確保出来ているので平民たちの為の生活用水・飲用水の水路整備がなかなか進まない。やってはいるらしいけど。だから、現時点での平民の水は基本的に井戸からで貴重なもの。
 お風呂なんかは水が豊富に使える王族とか金持ち貴族のもので、水が貴重な平民は体を濡らした布で拭くのがメイン。冒険者の人とかは綺麗な泉や川があればそこで水浴びしたりするらしい。なんつーか、衛生環境大丈夫なん?て思うわ。
 まあ、そんなんだから、ソランツェはこの車内の簡易キッチンの蛇口から飲用もできる綺麗な水が延々と出る仕組みには一番驚いていた。
 その時に俺自身も水魔法使えるよって目の前で水球を何個か作ったら、人前で水魔法は使わないようにと注意された。連れて行かれたくないから守りましょう。



「ソランツェも入るだろ?」
「は?!」

 湯の準備も出来たし、ボディソープとかタオルやら着替えを出しながら訊くと、吃驚した声を上げて固まってしまった。
 そして、みるみる内に顔が赤く――

「え? あ! ゴメッ、一緒にって訳じゃなくて、後で、俺の後でって事! 先でもいいけど!」
「い、いや、そうだな! スマン、つい……いや、あの」

 夕食時の光景が思い出されたって事だよね。お互い顔を真っ赤にしてしばし見つめ合ってしまった。いい大人二人でウブかよ。



 よし、風呂で泣こう。
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