café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第134話 きゅうりと鶏肉の唐揚げ

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 きゅうりって、意外とあまりがちになりませんか?

 浅漬けとか、大量消費、あるじゃん!

 そう言われましても、caféで浅漬けはなかなか出せないもので……

「こうなったら、和食で浅漬けフェアみたいなことするしかない?」
「きゅうりばっかりなのは、イヤだなぁ」

 そう言うのは瑞樹だ。
 今日は雨のため、人が少ない。
 夜も少し更けてきたのもあり、がらんとした店内で今日は外国の瓶ビールを飲んでいる。
 もう1杯ほしいと指でねだられ、莉子が栓をぬいて差し出すと、それを横から奪ったのは匠だ。

「ナスとか、食べたくなるよな、きゅうりあると」
「匠、ビール返してよ」
「いいじゃん、1本ぐらい!」
「いえ、何本でも構わないですけど」

 もう1本新たに栓を抜き、瑞樹に手渡しながら、莉子も思う。
 きゅうりとナスしか、浅漬けが思い浮かばない。
 すぐスマホで調べてみると、わんさか出てくる。

「にんじんとか、白菜とか、……あートマト、カブもあるじゃん。忘れられがちだね、このメンバー」
「それなら。でも、浅漬けと、ごはんと、味噌汁、だけ?」

 匠の指摘に、莉子は笑顔で首を縦にふる。

「だって他に惣菜も取り放題とかにしたら、価格も上げなきゃだし、ロスも多いし……困ったなー」

 ぼやき続ける莉子に、瑞樹がスマホを掲げた。

「これ、よくない?」

 メニューは、ささみときゅうりの唐揚げだ。

「鶏むねならあるから、試食してみます?」

 2人は大きく頷いた。

 材料は、きゅうり、鶏むね肉、のみ。あとは粉末の和風だしと、醤油、すりおろしニンニク、片栗粉だ。

「材料が少なめでいいですね……」

 そのとおりの材料をカウンターに並べ終えると、莉子はすぐにきゅうりの処理にかかった。
 きゅうりは板ずりしたあと、4等分ほどに切り、厚手の袋に入れ、軽く叩く。
 お肉は削ぎ切りにし、残りの調味料を加えて混ぜ、揚げるだけ。

「……とはいうものの、片栗粉がちょっと分量として心もとないなぁ。きゅうりが剥がれないかなぁ……ま、やってみますか」

 きゅうりの皮側ではなく、果肉側を肉にくっつけるようにして揚げていく。
 皮と鶏肉だと、きゅうりの皮はツルツルなので、はがれてしまいそうだ。

 ───料理は完成が見えてから作らなければ、美味しいものはできない。

 これは莉子の持論である。

「じっくりと揚げてみますね。きゅうり、とろっとしたらいいなぁ」

 きゅうりの炒め物を祖母が作ってくれた記憶が莉子にはあったため、揚げたあともイメージしやすい。
 瓜なので、火を通すと、透き通って果肉がとろっとするのだ。
 ただそういったきゅうりは大きく育ちすぎた家庭菜園のきゅうりが多く、皮が硬く、実もそれほどおいしくないため、醤油ベースの濃い味で食べてしまう、そんな料理だった。

「揚がった?」

 つまんだ箸からそのまま食いつきそうな勢いで言うのは匠だ。

「きゅうりに火を通すなんて、食べたことないから、めっちゃワクワクしてんだけど」
「たしかにー! どんな味かな?」

 小皿にころりと転がすと、2人は冷ますのもおろそかに口へと運ぶ。
 莉子も同じく熱々を口へ放り込んだ。

 まず、食感が面白い。
 きゅうりのサクッとしたぶぶんと、トロッとした部分、そして、鶏肉のじゅわっとした肉汁が、上手にマッチしている。さらに味付けも和風なので、きゅうりとの相性が抜群!
 ただ青臭さが強いきゅうりだと、飲み込んだ後の香りがとってもきゅうりになる。

「青臭みが残る時がありますね」
「「たしかにー」」
「きゅうりを少し小さめにして肉を少し大きめにして、あげてみようかな」

 莉子が揚がった唐揚げを眺めつつ言うが、

「それならきゅうりの皮、むいちゃえばいいじゃん」

 匠の案を採用したいが、そうするとたたいた時、粉砕してしまう。
 これは叩いたからこそ生きる食感、味の広がりがある。
 でもそれなら、皮をまだらに剥いて、叩き崩してから鶏肉と揚げる方法もできる、かもしれない。

「まだ、数回、試作が必要ですね」

 残りを揚げながら言う莉子に、2人の目はキラキラしている。

「「いつでも付き合うから!」」

 莉子は大きく肩をすくめながら、

「なんで、そんなに乗り気なんですか?」
「だって、莉子さんに料理の協力できてるってことじゃん。すごいよな、瑞樹」
「うん! めっちゃすっごいことだし!」

 莉子は単純に唐揚げが食べたいのかと思っていたのだが、そうではないようだ。
 勘違いをしていたことに、心の中で謝りつつ、試作品の追加唐揚げを皿へと乗せる。

「タレや味変の調味料、考えてもらってもいいです?」

 匠と瑞樹の真剣トークは続いていく。
 莉子はそんな2人を眺めながら、閉店準備を整えていく。
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