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第2章 カフェから巡る四季
第132話 生ソーセージ
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通常のソーセージは、ボイルをして燻製するのだが、この生ソーセージは名前の通り、肉に火が通っていない、ナマなのである。
「これ、うちの新作。ちょっと味見してくんない?」
いつも肉の仕入れをしている、福田精肉店からのお願いであり、サンプルである。
ナイロン袋にボロンと入った生ソーセージはつながったままだ。
長さは手のひらほど、太さは指程度で、食べやすい大きさである。
さて。
莉子は考える。
これはどう食べるのが正解だろうかと。
ボイルして焼くか、ただ焼くか………
「どっちもしてみよ」
ということで、本日のおつまみ『生ソーセージ』に決定!
今日は連藤と三井が来る。
そのときに出してみようと莉子は考える。
では、この生ソーセージに似合うお酒は?
莉子は首をひねりながらも決定した。
「ビールで」
……そうして、閉店時間を過ぎた21時。
薄暗くなった店内のドアを押し開けたのは、三井だ。
「あー……マジ疲れたわー」
いつもくたびれた声を出すが、今日は一段とくたびれている。
何があったのかと声を出そうとしたとき、
「あれはお前が悪い」
「まさか、元カノ大集合するとは思わんだろ」
「営業の先々で手を出した結果だろ」
彼の中で最悪の状況で、仕事をしてきたようだ。
「……お疲れ様、でしたね」
冷ややかな視線を送る莉子に、三井はウインクしてみせる。
「ま、俺だから、平気だけどな!」
「……キモ」
「莉子、今、キモって言った? 言ったよな?」
「今日はビールでお疲れ様しましょー」
カウンターに座ってもらい、莉子は手際よく準備していく。
すでに用意してあったのは、オリーブオイルと塩がかけられた冷奴だ。
フライパンからは、ペペロンチーノ味の枝豆が出てくる。
「はい、かんぱーい」
莉子は瓶のままビールを手渡していく。
莉子の勢いのまま、3人で乾杯を済ますと、すぐに取り掛かったのは生ソーセージである。
スキレットを温め、薄く油をひくと、ソーセージを焼いていく。
となりでは鍋にお湯を沸かし、そこへドボンとソーセージを沈めた。
「お、今日はソーセージか」
三井は枝豆で汚れた指を舐めつつ言う。
「生ソーセージなんです。今から火を入れるので、ちょっと食感とかも違うかと」
「それは楽しみだ。いつもの肉屋?」
連藤の質問に、莉子は「はい」油跳ねが激しいスキレットに蓋をして、返事をした。
「新商品なんですって。試作したからって」
「それは楽しみだ」
連藤はぐっとビールを飲み込み、喉を鳴らす。
「今日は暑かったですからね、ビール、美味しいですよね」
「もう夏が近いな、連藤」
「まだ、梅雨も来てないだろ」
3人で他愛のない会話をしていると、たっぷりのお湯で茹でているソーセージがいい感じにプリっとしてきた。
正直、火が通ってるかは、勘だ。
肉の弾力を箸で感じ、火が通ってると判断するしかない。
ひと口食べてみる訳にもいかないので、莉子は気持ち長めにお湯につけておく。
スキレットのソーセージもいい具合だ。
皮はパリッと。肉汁がしっかりソーセージのなかに閉じ込められている。
「はい、できましたー」
ボイルされたソーセージは皿に、スキレットで焼かれたソーセージはスキレットごと、2人の前に差し出された。
莉子は2人の箸が伸びないうちに、焼いたソーセージを1本、つまみあげる。
「粒マスタードと、ケチャップ、これ使ってね」
小皿を並べつつ、莉子は熱々のまま、口にほおばった。
パリッとした食感からすぐに、口のなかいっぱいに肉汁があふれてくる。
「……うま」
香辛料の風味もいい。
ひと口食べただけでわかる。
コレ、めっちゃおいしいやつ!!!!!
莉子は脂を流そうと、ビールを傾けた。
肉の旨みが余韻になって、ビールが進む!
一方、連藤はボイルしたソーセージを頬張っている。
無言のまま、焼いたソーセージを頬張ると、
「これは、焼いた方が美味いな」
「じゃ、ボイルしたやつ、焼いてみます?」
「いや、食感はそれほど大きく変わらないだろう。たぶん、ボイルすると、旨みがお湯にいったと思う」
莉子もすぐにボイルを頬張った。
連藤の言う通りだ。
肉感はボソボソした感じで、焼いたときの旨みがまるでない。
「……へぇ。生ソーセージは焼きがいい、ってことですね」
「そうだな。そのほうが、生ソーセージの旨さが際立つと思う」
「俺はどっちも美味いけどな」
三井はたっぷりのマスタードをつけ、頬張っている。
それだけ味をつければ、どれもそこそこおいしいのではと、莉子は思う。
「でも生ソーセージ、メニューに入れれそうですね」
「それは楽しみだ」
2人で笑う連藤と莉子を見て、三井は視線を割くようにビール瓶を突き出した。
「ビール!」
妙に不機嫌な三井に莉子は笑いながら、新しいビールを渡すが、三井はそれを飲みつつ、スマホを取り出した。
「……あ、星川? そう。お前も来いよ。……ああ」
すぐに電話が終わり、三井はニッコリと笑う。
「星川も来るから」
「わかりましたよー」
莉子はこたえると、星川の分として、なにか料理をと作り始める。
連藤は気づいたらしく、三井を肘で突く。
「妬いたか?」
「違ぇよ!」
──彼なりに、好きな人に会いたくなったのだと、連藤は思う。
元カノたちの、針のむしろだった仕事を終わり、目の前で仲良さげにされるのが気に食わなかったのだろう。
それほど間をおかずに4人となったカフェは、ゆっくりと夜を楽しんでいく。
「これ、うちの新作。ちょっと味見してくんない?」
いつも肉の仕入れをしている、福田精肉店からのお願いであり、サンプルである。
ナイロン袋にボロンと入った生ソーセージはつながったままだ。
長さは手のひらほど、太さは指程度で、食べやすい大きさである。
さて。
莉子は考える。
これはどう食べるのが正解だろうかと。
ボイルして焼くか、ただ焼くか………
「どっちもしてみよ」
ということで、本日のおつまみ『生ソーセージ』に決定!
今日は連藤と三井が来る。
そのときに出してみようと莉子は考える。
では、この生ソーセージに似合うお酒は?
莉子は首をひねりながらも決定した。
「ビールで」
……そうして、閉店時間を過ぎた21時。
薄暗くなった店内のドアを押し開けたのは、三井だ。
「あー……マジ疲れたわー」
いつもくたびれた声を出すが、今日は一段とくたびれている。
何があったのかと声を出そうとしたとき、
「あれはお前が悪い」
「まさか、元カノ大集合するとは思わんだろ」
「営業の先々で手を出した結果だろ」
彼の中で最悪の状況で、仕事をしてきたようだ。
「……お疲れ様、でしたね」
冷ややかな視線を送る莉子に、三井はウインクしてみせる。
「ま、俺だから、平気だけどな!」
「……キモ」
「莉子、今、キモって言った? 言ったよな?」
「今日はビールでお疲れ様しましょー」
カウンターに座ってもらい、莉子は手際よく準備していく。
すでに用意してあったのは、オリーブオイルと塩がかけられた冷奴だ。
フライパンからは、ペペロンチーノ味の枝豆が出てくる。
「はい、かんぱーい」
莉子は瓶のままビールを手渡していく。
莉子の勢いのまま、3人で乾杯を済ますと、すぐに取り掛かったのは生ソーセージである。
スキレットを温め、薄く油をひくと、ソーセージを焼いていく。
となりでは鍋にお湯を沸かし、そこへドボンとソーセージを沈めた。
「お、今日はソーセージか」
三井は枝豆で汚れた指を舐めつつ言う。
「生ソーセージなんです。今から火を入れるので、ちょっと食感とかも違うかと」
「それは楽しみだ。いつもの肉屋?」
連藤の質問に、莉子は「はい」油跳ねが激しいスキレットに蓋をして、返事をした。
「新商品なんですって。試作したからって」
「それは楽しみだ」
連藤はぐっとビールを飲み込み、喉を鳴らす。
「今日は暑かったですからね、ビール、美味しいですよね」
「もう夏が近いな、連藤」
「まだ、梅雨も来てないだろ」
3人で他愛のない会話をしていると、たっぷりのお湯で茹でているソーセージがいい感じにプリっとしてきた。
正直、火が通ってるかは、勘だ。
肉の弾力を箸で感じ、火が通ってると判断するしかない。
ひと口食べてみる訳にもいかないので、莉子は気持ち長めにお湯につけておく。
スキレットのソーセージもいい具合だ。
皮はパリッと。肉汁がしっかりソーセージのなかに閉じ込められている。
「はい、できましたー」
ボイルされたソーセージは皿に、スキレットで焼かれたソーセージはスキレットごと、2人の前に差し出された。
莉子は2人の箸が伸びないうちに、焼いたソーセージを1本、つまみあげる。
「粒マスタードと、ケチャップ、これ使ってね」
小皿を並べつつ、莉子は熱々のまま、口にほおばった。
パリッとした食感からすぐに、口のなかいっぱいに肉汁があふれてくる。
「……うま」
香辛料の風味もいい。
ひと口食べただけでわかる。
コレ、めっちゃおいしいやつ!!!!!
莉子は脂を流そうと、ビールを傾けた。
肉の旨みが余韻になって、ビールが進む!
一方、連藤はボイルしたソーセージを頬張っている。
無言のまま、焼いたソーセージを頬張ると、
「これは、焼いた方が美味いな」
「じゃ、ボイルしたやつ、焼いてみます?」
「いや、食感はそれほど大きく変わらないだろう。たぶん、ボイルすると、旨みがお湯にいったと思う」
莉子もすぐにボイルを頬張った。
連藤の言う通りだ。
肉感はボソボソした感じで、焼いたときの旨みがまるでない。
「……へぇ。生ソーセージは焼きがいい、ってことですね」
「そうだな。そのほうが、生ソーセージの旨さが際立つと思う」
「俺はどっちも美味いけどな」
三井はたっぷりのマスタードをつけ、頬張っている。
それだけ味をつければ、どれもそこそこおいしいのではと、莉子は思う。
「でも生ソーセージ、メニューに入れれそうですね」
「それは楽しみだ」
2人で笑う連藤と莉子を見て、三井は視線を割くようにビール瓶を突き出した。
「ビール!」
妙に不機嫌な三井に莉子は笑いながら、新しいビールを渡すが、三井はそれを飲みつつ、スマホを取り出した。
「……あ、星川? そう。お前も来いよ。……ああ」
すぐに電話が終わり、三井はニッコリと笑う。
「星川も来るから」
「わかりましたよー」
莉子はこたえると、星川の分として、なにか料理をと作り始める。
連藤は気づいたらしく、三井を肘で突く。
「妬いたか?」
「違ぇよ!」
──彼なりに、好きな人に会いたくなったのだと、連藤は思う。
元カノたちの、針のむしろだった仕事を終わり、目の前で仲良さげにされるのが気に食わなかったのだろう。
それほど間をおかずに4人となったカフェは、ゆっくりと夜を楽しんでいく。
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