café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第130話 エビマヨ

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 本日の任務は、白ワインに似合う、コッテリしたお料理、だ。

 熟成が進んだシャルドネワインを持ち込むと、巧から言われていたのもあり、何にしようか悩みつつも、やはり、海鮮ものは外せない。

 ──ということで、エビマヨだ。

 この他にも、アボカドサラダや白身魚のフライなどなど、準備をしていく。
 このエビマヨだが、下処理さえしておけば、結構簡単。片栗粉を付けて揚げて、ソースに絡めればいいからだ。

 殻を外し、背わたを取っていく。
 莉子は取り切れないのは嫌だし、爪楊枝でモジモジするのが面倒なので、背に薄く切れ目を入れ、背わたを取っていく。

 片栗粉と水を入れ、揉み、汚れを落とし、軽く水洗いしたあと、酒と塩コショウで下味をつけておく。
 これだけで、プリッとしたエビに仕上がってくれる。

 これが出来たら次はソースだ。
 マヨネーズ、ケチャップ、練乳、レモン汁を好きな割合で混ぜれば完成。
 莉子的には、マヨネーズ2、ケチャップ1、練乳0.5、レモン汁目いっぱい投入して、甘さを足したいときは練乳追加をしたり、こってり感を出したいときにはマヨネーズを足したりしている。

「あとは、待つだけですね」

 ひと段落つき、莉子は自分用にコーヒーを入れる。
 今日は雨だ。
 お客様も少ない日。少し、のんびりさせてもらう。



「莉子さん、ただいまー!」

19時となり、ワイン片手に現れたのは、巧だ。

「はい、お帰りなさい」
「莉子さん、ただいま! 今日のご飯なにー?」

 まるで息子のように、瑞樹は予約席に着席する。

「ご飯なに、じゃないだろ」

 呆れた声を出したのは連藤だ。

「莉子さんは、俺の莉子さんだ。お前のじゃあない」
「えー莉子さんは、みんなの莉子さんだよ。ね?」

 屈託なく笑う瑞樹に、莉子も笑う。

「はい、カフェの私は、皆さんの莉子さんです」
「じゃ、莉子、泡だして」
「ただし、三井さんの召使いじゃありません!」

 莉子はどかりと座った三井の眉間に指をさすと、グリグリと押し込む。

「痛いだろーが!」
「私の怒りを表してみました」

 莉子はスッキリしたのか、すぐに厨房へと戻り、巧から渡された白ワインをワインクーラーへと入れる。
 そのとなりにさしてあったのは、スパークリングワインだ。

 シャンパンも考えたが、まずは気軽な一杯で乾杯、と言われていたのもあり、シャンパンにはしなかった。
 ただ、イタリアのスパークリングワイン・スプマンテだ。飲みごたえも、旨みもある一本なので、満足してもらえるだろう。

 さっそくとグラスに注いで回っていくと、ほっと息を着く4人がいる。

「大仕事が、落ち着いたんですね」

 莉子が言うと、連藤が肩をすくめる。

「これからスタート、みたいなものだよ。でも、ひと区切りは嬉しいんだ」

 良かったねと肩をさすった莉子の手をそっと連藤が握る。
 瞬く間に顔を赤らめる莉子に、三井はため息をし、巧と瑞樹はニヤニヤとする。

「……はい! 皆さん、乾杯しててください!」

 莉子は優しく連藤の手をほどき、厨房へと駆けていく。

「莉子さん、かわいいな……」

 ボソリと呟く連藤に、あれはわざとだったのかと、3人は思うが、連藤ならやりそうだと頷いて、チリンとグラスを傾け合う。

 一方の莉子は、頬をパチンと叩いて、料理開始だ。
 前菜系のサラダなど、つまめるものを運ぶとエビマヨにとりかかる。

 すでにソースができているため、あとはエビだけ!

 多めの油で片栗粉をまぶしたエビを焼いていく。
 隙間にブロッコリーを入れ、それにも火を通していく。
 エビはすぐ固くなるため、頃合をみて上げ、油を切っておき、ブロッコリーをカリッと仕上げると、すぐにソースにまぶした。

 春巻きの皮を器にも考えたが、食べづらいのもあり、えびせんべいとレタスを添えて、エビマヨを盛り付ける。
 ピンクとグリーンのコントラストがかわいい一品だ。

「今日の白ワインといっしょに食べて頂こうかと、エビマヨ、作ってみました」

 莉子が料理を届けると、すでにサラダは空っぽ。
 つまめるチーズもほどほどにない。

「「エビマヨだー!」」

 喜んだのは巧と瑞樹だ。
 やはり若いからか、こういう味付けは好みらしい。
 一方のオッサンふたりは、まぁ、食べようか。そんな雰囲気がある。

「白身魚のフライと、カキフライ、揚げてきますね」

 その声に、オッサンふたりの顔が明るくなる。

 揚げ物なのに、どうしてこうも違うのか?

 莉子は理解しかねるが、好みのポイントは押さえられているんだと納得し、調理にかかる。

 生パン粉でカリッと仕上げたフライをタルタルソースと一緒に運んでいくと、白ワインが進んでいる。

「莉子さん、エビマヨ、めっちゃ美味いんだけと」

 そういうのは巧だ。
 瑞樹も、

「ブロッコリーが美味しいー!」

 エビではないが、喜んでくれている。

「莉子さんのエビマヨはちょうどいい味の濃さだ」

 連藤は気に入ったようで、白ワインをぐっと飲み干した。

「俺はフライを食う」

 三井は物足りなかったようだ。
 置いたとたんに、カキフライに手を伸ばしてくる。

「……おいしく食べていただけてるなら、いいか」

 莉子が再び厨房へと行こうとすると、巧に肩を捕まれ、瑞樹に椅子を準備され、座らされる。

「ね、もう、お客さんいないし、莉子さんも!」
「たまには付き合ってよー」

 瑞樹と巧に交互言われ、さらにはグラスに白ワインが注がれた。
 確かにもうこの4人の貸切状態だ。
 面倒なのもあり、4人以外のお客様をお見送りしたあと、クローズしたのもある、

「これ、莉子さんにも飲んで欲しくて、持ってきたの!」
「巧、飲み干さないように必死に守ってたんだからー」

 黄金色の白ワインは熟成が若干見える。
 だが、香りの厚みが素晴らしい。

「……わぁ……とても重厚感ある白ワインです……いいんですか?」
「「いいの!」」

 そっと口に含むと、白い花の香り、酸味は穏やかで、スッキリとした飲み口──

「……とっても、おいしいです」
「「でしょ!」」

 ふたりの興奮に笑いながら、もうひと口含み、ゆっくり飲み込んだ。
 思いがこもった美味しさに、じんわりと温かさが胃に染みていく。

「……おいし」

 小さくもう一度呟いた莉子に、巧と瑞樹はニコニコと微笑んでいる。

「ありがとうございます、美味しいです」

 莉子が言うと、ふたりは改めてモジモジしだす。
 何事かと思っていると、三井が呆れた声を出した。

「しっかりしろよ、お前らさぁ」

 その声にムッとしながら、ふたりが紙袋から1本、取り出した。

「これ、おれと巧から」
「母の日、過ぎちゃったけど……連藤と飲んで」

 今日持ってきた白ワインと同じものだ。
 しかし、母の日!

 莉子は、クスリと笑う。

「私、お母さん、なんですね」
「「うん」」

 揃った声にまた笑ってしまう。

「ありがとうございます。大事に飲みますね、お父さんと」
「俺はコイツらの父親じゃない」

 速攻で否定した連藤に笑うが、父親役になるんだと、改めて思う莉子がいた。

 ──広い店内に5人だけだが、今日もゆっくりと、楽しく、夜がふけていく。
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