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第2章 カフェから巡る四季
第129話 ほうれん草とベーコンのクリームパスタ
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本日のランチは、ほうれん草とベーコンのクリームパスタだ。
昨日、自分の夕食に試作したが、それは失敗した。
冷凍のほうれん草を使ったからもあるが、クリームが、緑色に染まってしまったのだ。
「生のほうれん草を固茹でして……ソースと絡めるときに、入れる……と」
莉子はレシピメモに書き込んでいく。
昨日のうちに解決策を考え、本日を迎えた訳だが、少々、心配ではある。
結局は、ホワイトソース、茹でほうれん草、ベーコン、しめじとマッシュルームが、それぞれバットに分けて入れられている。
ランチのため、そして人員が莉子しかいないため、その都度その都度炒めておく時間の短縮である。
「……時間は短縮できてるけど、味の馴染み方が心配……」
とはいえ、仮に、ベーコンとホワイトソースを絡めておくことも可能だが、余ってしまうと、次の使い道が見つかりにくいのだ。
「……なんとかこれでやってみますか」
そうして始まったランチタイムだが、本日、瑞樹が早々に来店だ。
多く空いてるテーブル席にひとり、瑞樹は座ると、
「莉子さん、ただいま! パスタでお願いします」
まだ春だというのに、気温が高かったせいか、すぐに瑞樹はジャケットを脱ぎ、ネクタイをゆるめた。
すぐに水を飲み干すので、継ぎ足すと、瑞樹は笑う。
「今日、夏みたいで」
半分ほど飲みほしたグラスに水を注ぎ足し、
「そうなんですね。室内は意外と涼しいので気づきませんでした。ドリンクは、食後にコーヒーでいいです?」
「うん! 暑くてもホット飲みたい日ってあるじゃん」
「わかります」
莉子は笑って頷きながらランチを仕上げにいく。
パスタを茹で始め、フライパンを温めてから、ベーコン、茸類を投入、火を入れていく。
コンソメと塩コショウを入れ、パスタが茹で上がると同時に、ほうれん草を入れる。お湯を切っている間にほうれん草が温まったところで、パスタとからめ、皿に盛り付けるが、これで終わりじゃない。
さらに追いパルメザンチーズとオリーブオイル、そして、挽きたての胡椒をふりかけ、完成だ。
「お待たせしましたー」
先に届けたサラダはゆっくり食べていたようだ。
三分の一ほど残っている。
届いたパスタを見て、瑞樹の目がキラキラと光る。
「莉子さんのクリームパスタ、好きなんだー」
水を注ぎながら、ちなみにどこが? と聞いてみると、
「濃厚なところ。チーズもおろしたて、でしょ?」
たしかにパルメザンチーズはおろしたてではあるし、ホワイトソースは生クリームも入れて、少し濃厚仕立てにしてある。
「胡椒も挽きたてだし、ちょっとの贅沢がめっちゃ詰まってて、好きなんだー。いただきまーす」
召し上がれー。莉子は答えつつ、厨房に戻る。
次のオーダーをこなすためだ。
だが、瑞樹の声がリフレインする。
『ちょっとの贅沢がめっちゃ詰まってて』
なんて、素敵な言葉なのだろう。
莉子は噛み締める。
小さなこだわりが、ちゃんと届いていることが嬉しくなる。
「……今日は夜まで頑張れそう」
オーダーのビーフシチューを届けたとき、ドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
振り返ると、手を上げて立つ男性と、
「莉子、俺、パスタな」
三井だ。
すぐに瑞樹を見つけ、ふたりは瑞樹の向かいに腰を下ろすが、連藤のオーダーがまだだ。
水を届けると、連藤が言う。
「俺もパスタにする。チーズの香りがいい」
「かしこまりました。パスタ2つ、ですね。食後にホットコーヒーでいいです?」
「ああ。三井はどうする?」
「俺もホット」
いつものランチタイムが始まったと莉子は思う。
それでも、瑞樹が太鼓判を押してくれたパスタなのは間違いない。
莉子は張り切ってパスタを仕上げていく。
どんなことでも、良いものは、良いと伝えてもらえるのは素敵なことだ。
自信をもてるのも素敵なことだ。
それでも、毎日が同じ繰り返しに感じることもある。
それでも今日は今日だけ。
美味しいランチだったと言って貰えるように、莉子は味見をするため、スプーンをとりあげた。
昨日、自分の夕食に試作したが、それは失敗した。
冷凍のほうれん草を使ったからもあるが、クリームが、緑色に染まってしまったのだ。
「生のほうれん草を固茹でして……ソースと絡めるときに、入れる……と」
莉子はレシピメモに書き込んでいく。
昨日のうちに解決策を考え、本日を迎えた訳だが、少々、心配ではある。
結局は、ホワイトソース、茹でほうれん草、ベーコン、しめじとマッシュルームが、それぞれバットに分けて入れられている。
ランチのため、そして人員が莉子しかいないため、その都度その都度炒めておく時間の短縮である。
「……時間は短縮できてるけど、味の馴染み方が心配……」
とはいえ、仮に、ベーコンとホワイトソースを絡めておくことも可能だが、余ってしまうと、次の使い道が見つかりにくいのだ。
「……なんとかこれでやってみますか」
そうして始まったランチタイムだが、本日、瑞樹が早々に来店だ。
多く空いてるテーブル席にひとり、瑞樹は座ると、
「莉子さん、ただいま! パスタでお願いします」
まだ春だというのに、気温が高かったせいか、すぐに瑞樹はジャケットを脱ぎ、ネクタイをゆるめた。
すぐに水を飲み干すので、継ぎ足すと、瑞樹は笑う。
「今日、夏みたいで」
半分ほど飲みほしたグラスに水を注ぎ足し、
「そうなんですね。室内は意外と涼しいので気づきませんでした。ドリンクは、食後にコーヒーでいいです?」
「うん! 暑くてもホット飲みたい日ってあるじゃん」
「わかります」
莉子は笑って頷きながらランチを仕上げにいく。
パスタを茹で始め、フライパンを温めてから、ベーコン、茸類を投入、火を入れていく。
コンソメと塩コショウを入れ、パスタが茹で上がると同時に、ほうれん草を入れる。お湯を切っている間にほうれん草が温まったところで、パスタとからめ、皿に盛り付けるが、これで終わりじゃない。
さらに追いパルメザンチーズとオリーブオイル、そして、挽きたての胡椒をふりかけ、完成だ。
「お待たせしましたー」
先に届けたサラダはゆっくり食べていたようだ。
三分の一ほど残っている。
届いたパスタを見て、瑞樹の目がキラキラと光る。
「莉子さんのクリームパスタ、好きなんだー」
水を注ぎながら、ちなみにどこが? と聞いてみると、
「濃厚なところ。チーズもおろしたて、でしょ?」
たしかにパルメザンチーズはおろしたてではあるし、ホワイトソースは生クリームも入れて、少し濃厚仕立てにしてある。
「胡椒も挽きたてだし、ちょっとの贅沢がめっちゃ詰まってて、好きなんだー。いただきまーす」
召し上がれー。莉子は答えつつ、厨房に戻る。
次のオーダーをこなすためだ。
だが、瑞樹の声がリフレインする。
『ちょっとの贅沢がめっちゃ詰まってて』
なんて、素敵な言葉なのだろう。
莉子は噛み締める。
小さなこだわりが、ちゃんと届いていることが嬉しくなる。
「……今日は夜まで頑張れそう」
オーダーのビーフシチューを届けたとき、ドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
振り返ると、手を上げて立つ男性と、
「莉子、俺、パスタな」
三井だ。
すぐに瑞樹を見つけ、ふたりは瑞樹の向かいに腰を下ろすが、連藤のオーダーがまだだ。
水を届けると、連藤が言う。
「俺もパスタにする。チーズの香りがいい」
「かしこまりました。パスタ2つ、ですね。食後にホットコーヒーでいいです?」
「ああ。三井はどうする?」
「俺もホット」
いつものランチタイムが始まったと莉子は思う。
それでも、瑞樹が太鼓判を押してくれたパスタなのは間違いない。
莉子は張り切ってパスタを仕上げていく。
どんなことでも、良いものは、良いと伝えてもらえるのは素敵なことだ。
自信をもてるのも素敵なことだ。
それでも、毎日が同じ繰り返しに感じることもある。
それでも今日は今日だけ。
美味しいランチだったと言って貰えるように、莉子は味見をするため、スプーンをとりあげた。
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・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・・・・
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