café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第119話 石狩鍋

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 祖母に用事があり、中休憩で電話をかけた莉子だが、素っ頓狂な声をあげていた。

「雪? はぁ? こっち、夏みたいに暑いんだけど!」
『北海道だからねー、これで最後になればいいんだけど』

 用事を済ませた莉子だが、あまりの温度差に風邪をひきそうだ。

「こういう日は、鍋だな、やっぱ……」

 今日は連藤と瑞樹の予約が入っている。
 珍しいコンビだが、最近プロジェクトがいっしょといっていたので、それの相談か、個人的な打ち上げかの、どちらかだろう。

 軽い気持ちで会話が弾みやすいのも、鍋。

 決定である。

 とはいえ、鍋の内容だ。
 ワインはシャンパンに決定。
 理由は、何味でも合わせてくれる!
 ……これ以上悩むものを増やしたくない。

「鮭あるし、石狩鍋にするかな……」

 材料は、鮭、豆腐、ゴボウ、人参、長ネギ、大根、つきコンニャク、じゃがいも。
 味付けは、出汁と、味噌、酒、味醂。仕上げにバターで、問題ない。


 予約の時間が迫ってきた。
 春キャベツの和え物、アスパラの天ぷら、新玉ねぎの和風サラダを作ると、鍋にとりかかる。

 大根は下茹を完了させ、味噌と味醂、酒は合わせておく。
 ゴボウは少し大きめのささがきにし、ごま油で炒める。香りが出たところで出汁を注いだところで、2人の登場だ。

「お疲れ様です、おふたりとも」
「ただいまーりござーん」

 ダミ声の瑞樹に笑いつつ、テーブル席へ案内する。

「今日のメニューは?」

 連藤からの質問に、莉子は素直に答えた。

「石狩鍋です。今、シャンパン持ってきますねー」

 かなり汗ばむ陽気の今日、まさかの鍋に、瑞樹と連藤は驚きっぱなしだ。
 だが飲み物はシャンパンというので、複雑な気分だ。

 すぐに乾杯し届いたのは、新玉ねぎのサラダと、春キャベツの和え物だ。

 その間に莉子は鍋の仕上げにかかる。
 野菜と鮭を入れ、よく煮えてきたところで、合わせておいた味噌を溶かす。

「……いい匂い」

 莉子は、鍋をトレイにのせ、となりには小さく切ったバターがある。

「はい、石狩鍋。食べるときにバターをのせると、またコクがでていいんです」

 取り分けると、小ぶりの椀にたっぷりの野菜と鮭が盛り付けられる。
 2人ともに息をじゅうぶんにかけてから頬張ったが、それでも熱かったようだ。
 口を踊らせながら、飲み込んだ。

「……あー……春に鍋もいいんだ!」

 瑞樹の驚いた声が面白く、莉子は思わず吹き出した。

「なんで笑うの、莉子さん!?」
「よっぽど鍋が意外だったんだなーって」
「そりゃそーだよー。今日暑かったし」
「俺も鍋には驚いた。でも、いいな。こういう鍋も」

 シャツの腕をまくって食べる2人を見ながら、

「アスパラの天ぷらもありますからね。〆はおじやか、ラーメンができます」
「瑞樹が好きなのを選んでいい」
「やったー! 半分食べ終わったら決定します!」
「はーい」

 蒸気を挟んでの会話は、やっぱり、程よい距離があって、ちょうどいい。会話が途切れないのも、鍋のいいところ!

 仲がいいとはいえ、連藤との距離がまだ少し遠い瑞樹だ。少しでも食事のなかで、話のきっかけが多い方がいい。
 そう思っての鍋でもあったが、もう、そんなことも必要ないかもしれない。

 今回のお仕事が上手くいったおかげなのか、2人ともに自然な笑顔が見える。

「……天ぷら揚げて、〆にいこうかなぁ」

 莉子は2人の笑顔に笑いながら、背伸びをしつつ、厨房へと戻っていく。

 ただ、あの会話からみるに、今日も変わらずカフェは深夜までの営業になりそうだ……
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