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第2章 カフェから巡る四季

第117話 大根の煮物&とろけるチーズのせ

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 本日は、瑞樹と巧の来店だ。
 少し遅めに来たのもあり、のんびりと過ごす2人だが、ボルドーの赤ワインでしっぽりと過ごしている。

 あまり、多く語らずにゆっくり飲む2人がどうも奇妙に見えて、莉子はつい言ってしまう。

「……なにかあったの?」
「なんもないよ、莉子さん」

 瑞樹の笑顔は優しいが、2人に悩み事があるのは間違いない。

「いや、絶対あるでしょ」

 空いたグラスに追加のワインを注ぎながら言うが、2人同時に肩をすくめた。

「もう、このくらい、どってことないっていうか……」
「そうそう」
「だから、なにがどうって……」

「「明日、ホワイトデー」」

 2人の声がそろった。
 それでもよくわからずに莉子が首を傾げていると、

「「3倍返し」」

 それで、首がうんとようやく頷けた。

「で、おふたり、なんで、その、元気ないんですか」
「だーかーらー、明日、喜んでくれなかったらショックだから、先にショックの飲み会なの、今日は」
 
 瑞樹のセリフに笑ってしまう。
 なるほど。
 お返しがお返しになっていなかったときの、前練習というわけか。

 確かに2人にしてみれば、一生懸命選んだものだ。
 それを想像どおり喜んでもらえるかどうかは、明日にならないとわからない。

「男性の悩みは、かなりハードルが高そう」

 莉子は言いながら、下茹でしていた大根の水気を切った。
 それをバターが溶けたフライパンで少し焦げ目がつくように焼いていく。

「なぁ、連藤は、なにお返ししてくれんの?」

 巧の声に合わせて大根をそっとひっくり返す。

「連藤さんが夕食作ってくれるんですぅ」

 つい、全力で嬉しそうに言ってしまったせいか、2人の顔が不機嫌だ。

「オレも来年はお返しするもの、言っておこうかな……」
「それするなら、バレンタインの前に2人で決める方がいいですよ?」

 莉子は両面に焼き目がついたのをみて、めんつゆを注ぐ。少し水も足し、濃いめのめんつゆで、煮詰めていく。

「どういうこと?」

 瑞樹が前のめりで言うので、追加のポテトチップスを出しながら、

「私たちはお互いに欲しいものなど決めてるので。で、それをバレンタインや誕生日に渡す感じです。なかなかプレゼントって渡すタイミングないから、このタイミングは大切にしてて」
「「なるほどー」」
「で、お互いに納得したものを渡すので、問題ないって感じです」
「「なるほどー!!!」」

 煮詰まった茶色く色づいた大根に、ピザ用チーズをかけ、蓋をして待てば、完成。

 大根の洋風煮物とでもいおうか。
 醤油ベースにバターの風味、さらにチーズのコクがマッチ!
 意外と赤ワインに合う一品なのだ。

「お待たせ。大根の洋風煮物です」
「「おおー?」」

 2人は驚きながらも、箸をすすめる。
 そっと大根に箸を入れれば、すっと通るほど柔らかい。さらに断面はグラデーションに味が染みてる。

 わくわく顔で大根のを頬張った2人はにっこりだ。

「「おーいしー!」」

 めんつゆとバターの風味がこれほど合うとは思っておらず、さらにチーズの旨味も口の中に広がって、いい!
 そこへワインを流せば、うまく味が溶けていく。
 大根の甘みと旨味が絡み合って、さらにあったかい料理は、心もほっこりさせてくれる。

「あー……明日、優ちゃんに怒られても、元気出そう」
「オレも。奈々美にセンスねーって言われても、不貞腐ないですむかも」
「意外とおふたりって、繊細なんですね」

 莉子が言うと、もげそうなほどに2人は首を振る。

「さ、冷めないうちに召し上がってくださいね。ワインもあと少しですし」
「「はーい」」

 〆にと、甘さ控えめのブラウニーを用意しつつ、しっぽりとした夜は、賑やかにしめくくれそうだ。


 明日はホワイトデー。
 世の皆さまのホワイトデーも、素敵なものとなりますよーに!
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