117 / 153
第2章 カフェから巡る四季
第117話 大根の煮物&とろけるチーズのせ
しおりを挟む
本日は、瑞樹と巧の来店だ。
少し遅めに来たのもあり、のんびりと過ごす2人だが、ボルドーの赤ワインでしっぽりと過ごしている。
あまり、多く語らずにゆっくり飲む2人がどうも奇妙に見えて、莉子はつい言ってしまう。
「……なにかあったの?」
「なんもないよ、莉子さん」
瑞樹の笑顔は優しいが、2人に悩み事があるのは間違いない。
「いや、絶対あるでしょ」
空いたグラスに追加のワインを注ぎながら言うが、2人同時に肩をすくめた。
「もう、このくらい、どってことないっていうか……」
「そうそう」
「だから、なにがどうって……」
「「明日、ホワイトデー」」
2人の声がそろった。
それでもよくわからずに莉子が首を傾げていると、
「「3倍返し」」
それで、首がうんとようやく頷けた。
「で、おふたり、なんで、その、元気ないんですか」
「だーかーらー、明日、喜んでくれなかったらショックだから、先にショックの飲み会なの、今日は」
瑞樹のセリフに笑ってしまう。
なるほど。
お返しがお返しになっていなかったときの、前練習というわけか。
確かに2人にしてみれば、一生懸命選んだものだ。
それを想像どおり喜んでもらえるかどうかは、明日にならないとわからない。
「男性の悩みは、かなりハードルが高そう」
莉子は言いながら、下茹でしていた大根の水気を切った。
それをバターが溶けたフライパンで少し焦げ目がつくように焼いていく。
「なぁ、連藤は、なにお返ししてくれんの?」
巧の声に合わせて大根をそっとひっくり返す。
「連藤さんが夕食作ってくれるんですぅ」
つい、全力で嬉しそうに言ってしまったせいか、2人の顔が不機嫌だ。
「オレも来年はお返しするもの、言っておこうかな……」
「それするなら、バレンタインの前に2人で決める方がいいですよ?」
莉子は両面に焼き目がついたのをみて、めんつゆを注ぐ。少し水も足し、濃いめのめんつゆで、煮詰めていく。
「どういうこと?」
瑞樹が前のめりで言うので、追加のポテトチップスを出しながら、
「私たちはお互いに欲しいものなど決めてるので。で、それをバレンタインや誕生日に渡す感じです。なかなかプレゼントって渡すタイミングないから、このタイミングは大切にしてて」
「「なるほどー」」
「で、お互いに納得したものを渡すので、問題ないって感じです」
「「なるほどー!!!」」
煮詰まった茶色く色づいた大根に、ピザ用チーズをかけ、蓋をして待てば、完成。
大根の洋風煮物とでもいおうか。
醤油ベースにバターの風味、さらにチーズのコクがマッチ!
意外と赤ワインに合う一品なのだ。
「お待たせ。大根の洋風煮物です」
「「おおー?」」
2人は驚きながらも、箸をすすめる。
そっと大根に箸を入れれば、すっと通るほど柔らかい。さらに断面はグラデーションに味が染みてる。
わくわく顔で大根のを頬張った2人はにっこりだ。
「「おーいしー!」」
めんつゆとバターの風味がこれほど合うとは思っておらず、さらにチーズの旨味も口の中に広がって、いい!
そこへワインを流せば、うまく味が溶けていく。
大根の甘みと旨味が絡み合って、さらにあったかい料理は、心もほっこりさせてくれる。
「あー……明日、優ちゃんに怒られても、元気出そう」
「オレも。奈々美にセンスねーって言われても、不貞腐ないですむかも」
「意外とおふたりって、繊細なんですね」
莉子が言うと、もげそうなほどに2人は首を振る。
「さ、冷めないうちに召し上がってくださいね。ワインもあと少しですし」
「「はーい」」
〆にと、甘さ控えめのブラウニーを用意しつつ、しっぽりとした夜は、賑やかにしめくくれそうだ。
明日はホワイトデー。
世の皆さまのホワイトデーも、素敵なものとなりますよーに!
少し遅めに来たのもあり、のんびりと過ごす2人だが、ボルドーの赤ワインでしっぽりと過ごしている。
あまり、多く語らずにゆっくり飲む2人がどうも奇妙に見えて、莉子はつい言ってしまう。
「……なにかあったの?」
「なんもないよ、莉子さん」
瑞樹の笑顔は優しいが、2人に悩み事があるのは間違いない。
「いや、絶対あるでしょ」
空いたグラスに追加のワインを注ぎながら言うが、2人同時に肩をすくめた。
「もう、このくらい、どってことないっていうか……」
「そうそう」
「だから、なにがどうって……」
「「明日、ホワイトデー」」
2人の声がそろった。
それでもよくわからずに莉子が首を傾げていると、
「「3倍返し」」
それで、首がうんとようやく頷けた。
「で、おふたり、なんで、その、元気ないんですか」
「だーかーらー、明日、喜んでくれなかったらショックだから、先にショックの飲み会なの、今日は」
瑞樹のセリフに笑ってしまう。
なるほど。
お返しがお返しになっていなかったときの、前練習というわけか。
確かに2人にしてみれば、一生懸命選んだものだ。
それを想像どおり喜んでもらえるかどうかは、明日にならないとわからない。
「男性の悩みは、かなりハードルが高そう」
莉子は言いながら、下茹でしていた大根の水気を切った。
それをバターが溶けたフライパンで少し焦げ目がつくように焼いていく。
「なぁ、連藤は、なにお返ししてくれんの?」
巧の声に合わせて大根をそっとひっくり返す。
「連藤さんが夕食作ってくれるんですぅ」
つい、全力で嬉しそうに言ってしまったせいか、2人の顔が不機嫌だ。
「オレも来年はお返しするもの、言っておこうかな……」
「それするなら、バレンタインの前に2人で決める方がいいですよ?」
莉子は両面に焼き目がついたのをみて、めんつゆを注ぐ。少し水も足し、濃いめのめんつゆで、煮詰めていく。
「どういうこと?」
瑞樹が前のめりで言うので、追加のポテトチップスを出しながら、
「私たちはお互いに欲しいものなど決めてるので。で、それをバレンタインや誕生日に渡す感じです。なかなかプレゼントって渡すタイミングないから、このタイミングは大切にしてて」
「「なるほどー」」
「で、お互いに納得したものを渡すので、問題ないって感じです」
「「なるほどー!!!」」
煮詰まった茶色く色づいた大根に、ピザ用チーズをかけ、蓋をして待てば、完成。
大根の洋風煮物とでもいおうか。
醤油ベースにバターの風味、さらにチーズのコクがマッチ!
意外と赤ワインに合う一品なのだ。
「お待たせ。大根の洋風煮物です」
「「おおー?」」
2人は驚きながらも、箸をすすめる。
そっと大根に箸を入れれば、すっと通るほど柔らかい。さらに断面はグラデーションに味が染みてる。
わくわく顔で大根のを頬張った2人はにっこりだ。
「「おーいしー!」」
めんつゆとバターの風味がこれほど合うとは思っておらず、さらにチーズの旨味も口の中に広がって、いい!
そこへワインを流せば、うまく味が溶けていく。
大根の甘みと旨味が絡み合って、さらにあったかい料理は、心もほっこりさせてくれる。
「あー……明日、優ちゃんに怒られても、元気出そう」
「オレも。奈々美にセンスねーって言われても、不貞腐ないですむかも」
「意外とおふたりって、繊細なんですね」
莉子が言うと、もげそうなほどに2人は首を振る。
「さ、冷めないうちに召し上がってくださいね。ワインもあと少しですし」
「「はーい」」
〆にと、甘さ控えめのブラウニーを用意しつつ、しっぽりとした夜は、賑やかにしめくくれそうだ。
明日はホワイトデー。
世の皆さまのホワイトデーも、素敵なものとなりますよーに!
0
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
【完結】私の小さな復讐~愛し合う幼馴染みを婚約させてあげましょう~
山葵
恋愛
突然、幼馴染みのハリーとシルビアが屋敷を訪ねて来た。
2人とは距離を取っていたから、こうして会うのは久し振りだ。
「先触れも無く、突然訪問してくるなんて、そんなに急用なの?」
相変わらずベッタリとくっ付きソファに座る2人を見ても早急な用事が有るとは思えない。
「キャロル。俺達、良い事を思い付いたんだよ!お前にも悪い話ではない事だ」
ハリーの思い付いた事で私に良かった事なんて合ったかしら?
もう悪い話にしか思えないけれど、取り合えずハリーの話を聞いてみる事にした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる