café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第110話 出汁がいのち、それは和食

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『和食も作れるのか?』

 この一言が莉子の逆鱗に触れたのである。
 三井が正直現れるかどうかは構わない。
 とにかく和食を作り、もてなしてやろうではないか!

 来なくても料金はもらうけどな!!!


 その心意気で始めたのは出汁の準備である。
 昆布と鰹の出番だ。

 北海道産の昆布を水から戻し、火にかけていく。
 沸騰する直前で昆布を取り出し、差し水をしてからかつお節を加え静かに落ちるのを待つ。
 落ちきったところでそっと布でこしていく。
 これで清んだ出汁のできあがりである。

 寸胴いっぱいに作った出汁だ。
 これから何を作っていこうか……
 
 と思いながらも、実は別の鍋では大根の下茹でが行われていた。
 さらに先日連藤が風邪のときに一緒に食べた野菜しゃぶしゃぶもメニューに加えることにし、野菜を千切りにしていく。

 大根はというと出汁と一緒に煮て、麺つゆで味を染み込ませた後、チーズをのせて焼くのである。
 これだけでガッツリ系の一品になるのだ。

 もう一品、茶碗蒸しでも作ってみようか。
 そう思い、干しいたけを戻していく。
 大きなボウルに出汁と干しいたけの戻し汁を加え、さらに白だし、みりん、酒、醤油を加えていく。
 卵を溶いて加え、それをこせば卵液のできあがりである。

 今回の具は、干しいたけとかまぼこ、エビと栗の甘露煮を一つ入れておこう。甘露煮なしの茶碗蒸しも一応用意しておくことにする。

 こういうときに北海道の砂糖味には驚かされるところだ。だが子供の頃から甘露煮入りの茶碗蒸しを食べていたのだから、もうこれが茶碗蒸しなのである。

 豆腐とワカメの定番の味噌汁も準備し、さらにご飯は鮭とキノコの炊き込み御飯だ。
 鮭はしお振り、焼いて、荒くほぐしておく。あとは手頃なキノコをザクザクとほぐして入れ、出汁を加え、鮭、醤油を入れて炊けば完成である。

 火を通せば完成の段階で、三井と連藤が来店してくれた。予想より早い時間で少し驚いてしまうが、準備は整った。

「来てやったぜ? うまいもん、食わしてくれるんだろうな」
「もちろんですとも。お待ちくださいね」

 そう言うと莉子は野菜しゃぶしゃぶのセッティングをし、召し上がれと伝える。

「で、飲み物は?」
「今日は出汁が利いてるので、フランスのピノにしようかな」

 連藤に言われたとおりにグラスを準備し、ワインを注ぐと、澄んだガーネットがグラスの中で踊っていく。
 香りは優雅で品がある。くるりと回すと気品のある匂いが立ちのぼってくる。

 しゃぶしゃぶを口に含み、ワインを飲み込むと出汁の味がより際立ち、旨味が増してくる。

「あと大根のチーズ焼きもどうぞ。ご飯も食べますか?」
「俺は食べる。連藤は?」
「俺ももらおうかな」

 中くらいのトレイに鮭の炊き込み御飯、味噌汁、茶碗蒸しが添えられ二人の前に出された。

「今日のはたいそう豪華だな!」
「三井さんが、和食も作れるのか? っていうからねっ! 私は和食が作れるから洋食が作れるの! これでわかった?!」

 ずいっと顔を寄せるが、三井は気に留めてもいないようだ。
 ただ美味しい食事を黙々と食べている。

「和食にワインて意外とイケるな、連藤」
「そう出汁がいいんだよ。莉子さんが取り寄せている昆布と鰹節がまた美味しいんだ」

 手のひらサイズの椀の蓋を開け、その中の茶碗蒸しに歓声が上がる。

「おお、茶碗蒸しじゃねぇか。おお、トロトロ…………あまっ!」
「栗の甘露煮が入ってます」
「普通銀杏だろ!」
「北海道では割と甘露煮が多いです」
「……ありえない」

 連藤はつぶやきながらスプーンを置く始末だ。

「銀杏バージョンも作ったんで」
「正規だな、いただきたい」思わず顔をほころばし、スプーンを取り上げた連藤に、

「そんなに毛嫌いしなくても」

 銀杏入りの茶碗蒸しをさしだしながら言ってみるが、ふたりにしてみたら銀杏入りが茶碗蒸しなのである。甘露煮入りは邪道なのかもしれない。

「でも莉子さん、女性にはウケそうな味だったな」
「甘いからな。スイーツ感覚で食べれるかもな」

 男性にしてみると手のひらサイズの茶碗蒸しは3口程度で終わってしまうようだ。
 名残惜しそうに茶碗蒸しのふちをなぞり、再びしゃぶしゃぶに箸を戻し、再びワインを飲みながら突いていく。

 肌寒い日が続く今日この頃、温かい料理は和食が一番なのだと莉子は確信しながらワインを注ぎ足した。
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