110 / 153
第2章 カフェから巡る四季
第110話 出汁がいのち、それは和食
しおりを挟む
『和食も作れるのか?』
この一言が莉子の逆鱗に触れたのである。
三井が正直現れるかどうかは構わない。
とにかく和食を作り、もてなしてやろうではないか!
来なくても料金はもらうけどな!!!
その心意気で始めたのは出汁の準備である。
昆布と鰹の出番だ。
北海道産の昆布を水から戻し、火にかけていく。
沸騰する直前で昆布を取り出し、差し水をしてからかつお節を加え静かに落ちるのを待つ。
落ちきったところでそっと布でこしていく。
これで清んだ出汁のできあがりである。
寸胴いっぱいに作った出汁だ。
これから何を作っていこうか……
と思いながらも、実は別の鍋では大根の下茹でが行われていた。
さらに先日連藤が風邪のときに一緒に食べた野菜しゃぶしゃぶもメニューに加えることにし、野菜を千切りにしていく。
大根はというと出汁と一緒に煮て、麺つゆで味を染み込ませた後、チーズをのせて焼くのである。
これだけでガッツリ系の一品になるのだ。
もう一品、茶碗蒸しでも作ってみようか。
そう思い、干しいたけを戻していく。
大きなボウルに出汁と干しいたけの戻し汁を加え、さらに白だし、みりん、酒、醤油を加えていく。
卵を溶いて加え、それをこせば卵液のできあがりである。
今回の具は、干しいたけとかまぼこ、エビと栗の甘露煮を一つ入れておこう。甘露煮なしの茶碗蒸しも一応用意しておくことにする。
こういうときに北海道の砂糖味には驚かされるところだ。だが子供の頃から甘露煮入りの茶碗蒸しを食べていたのだから、もうこれが茶碗蒸しなのである。
豆腐とワカメの定番の味噌汁も準備し、さらにご飯は鮭とキノコの炊き込み御飯だ。
鮭はしお振り、焼いて、荒くほぐしておく。あとは手頃なキノコをザクザクとほぐして入れ、出汁を加え、鮭、醤油を入れて炊けば完成である。
火を通せば完成の段階で、三井と連藤が来店してくれた。予想より早い時間で少し驚いてしまうが、準備は整った。
「来てやったぜ? うまいもん、食わしてくれるんだろうな」
「もちろんですとも。お待ちくださいね」
そう言うと莉子は野菜しゃぶしゃぶのセッティングをし、召し上がれと伝える。
「で、飲み物は?」
「今日は出汁が利いてるので、フランスのピノにしようかな」
連藤に言われたとおりにグラスを準備し、ワインを注ぐと、澄んだガーネットがグラスの中で踊っていく。
香りは優雅で品がある。くるりと回すと気品のある匂いが立ちのぼってくる。
しゃぶしゃぶを口に含み、ワインを飲み込むと出汁の味がより際立ち、旨味が増してくる。
「あと大根のチーズ焼きもどうぞ。ご飯も食べますか?」
「俺は食べる。連藤は?」
「俺ももらおうかな」
中くらいのトレイに鮭の炊き込み御飯、味噌汁、茶碗蒸しが添えられ二人の前に出された。
「今日のはたいそう豪華だな!」
「三井さんが、和食も作れるのか? っていうからねっ! 私は和食が作れるから洋食が作れるの! これでわかった?!」
ずいっと顔を寄せるが、三井は気に留めてもいないようだ。
ただ美味しい食事を黙々と食べている。
「和食にワインて意外とイケるな、連藤」
「そう出汁がいいんだよ。莉子さんが取り寄せている昆布と鰹節がまた美味しいんだ」
手のひらサイズの椀の蓋を開け、その中の茶碗蒸しに歓声が上がる。
「おお、茶碗蒸しじゃねぇか。おお、トロトロ…………あまっ!」
「栗の甘露煮が入ってます」
「普通銀杏だろ!」
「北海道では割と甘露煮が多いです」
「……ありえない」
連藤はつぶやきながらスプーンを置く始末だ。
「銀杏バージョンも作ったんで」
「正規だな、いただきたい」思わず顔をほころばし、スプーンを取り上げた連藤に、
「そんなに毛嫌いしなくても」
銀杏入りの茶碗蒸しをさしだしながら言ってみるが、ふたりにしてみたら銀杏入りが茶碗蒸しなのである。甘露煮入りは邪道なのかもしれない。
「でも莉子さん、女性にはウケそうな味だったな」
「甘いからな。スイーツ感覚で食べれるかもな」
男性にしてみると手のひらサイズの茶碗蒸しは3口程度で終わってしまうようだ。
名残惜しそうに茶碗蒸しのふちをなぞり、再びしゃぶしゃぶに箸を戻し、再びワインを飲みながら突いていく。
肌寒い日が続く今日この頃、温かい料理は和食が一番なのだと莉子は確信しながらワインを注ぎ足した。
この一言が莉子の逆鱗に触れたのである。
三井が正直現れるかどうかは構わない。
とにかく和食を作り、もてなしてやろうではないか!
来なくても料金はもらうけどな!!!
その心意気で始めたのは出汁の準備である。
昆布と鰹の出番だ。
北海道産の昆布を水から戻し、火にかけていく。
沸騰する直前で昆布を取り出し、差し水をしてからかつお節を加え静かに落ちるのを待つ。
落ちきったところでそっと布でこしていく。
これで清んだ出汁のできあがりである。
寸胴いっぱいに作った出汁だ。
これから何を作っていこうか……
と思いながらも、実は別の鍋では大根の下茹でが行われていた。
さらに先日連藤が風邪のときに一緒に食べた野菜しゃぶしゃぶもメニューに加えることにし、野菜を千切りにしていく。
大根はというと出汁と一緒に煮て、麺つゆで味を染み込ませた後、チーズをのせて焼くのである。
これだけでガッツリ系の一品になるのだ。
もう一品、茶碗蒸しでも作ってみようか。
そう思い、干しいたけを戻していく。
大きなボウルに出汁と干しいたけの戻し汁を加え、さらに白だし、みりん、酒、醤油を加えていく。
卵を溶いて加え、それをこせば卵液のできあがりである。
今回の具は、干しいたけとかまぼこ、エビと栗の甘露煮を一つ入れておこう。甘露煮なしの茶碗蒸しも一応用意しておくことにする。
こういうときに北海道の砂糖味には驚かされるところだ。だが子供の頃から甘露煮入りの茶碗蒸しを食べていたのだから、もうこれが茶碗蒸しなのである。
豆腐とワカメの定番の味噌汁も準備し、さらにご飯は鮭とキノコの炊き込み御飯だ。
鮭はしお振り、焼いて、荒くほぐしておく。あとは手頃なキノコをザクザクとほぐして入れ、出汁を加え、鮭、醤油を入れて炊けば完成である。
火を通せば完成の段階で、三井と連藤が来店してくれた。予想より早い時間で少し驚いてしまうが、準備は整った。
「来てやったぜ? うまいもん、食わしてくれるんだろうな」
「もちろんですとも。お待ちくださいね」
そう言うと莉子は野菜しゃぶしゃぶのセッティングをし、召し上がれと伝える。
「で、飲み物は?」
「今日は出汁が利いてるので、フランスのピノにしようかな」
連藤に言われたとおりにグラスを準備し、ワインを注ぐと、澄んだガーネットがグラスの中で踊っていく。
香りは優雅で品がある。くるりと回すと気品のある匂いが立ちのぼってくる。
しゃぶしゃぶを口に含み、ワインを飲み込むと出汁の味がより際立ち、旨味が増してくる。
「あと大根のチーズ焼きもどうぞ。ご飯も食べますか?」
「俺は食べる。連藤は?」
「俺ももらおうかな」
中くらいのトレイに鮭の炊き込み御飯、味噌汁、茶碗蒸しが添えられ二人の前に出された。
「今日のはたいそう豪華だな!」
「三井さんが、和食も作れるのか? っていうからねっ! 私は和食が作れるから洋食が作れるの! これでわかった?!」
ずいっと顔を寄せるが、三井は気に留めてもいないようだ。
ただ美味しい食事を黙々と食べている。
「和食にワインて意外とイケるな、連藤」
「そう出汁がいいんだよ。莉子さんが取り寄せている昆布と鰹節がまた美味しいんだ」
手のひらサイズの椀の蓋を開け、その中の茶碗蒸しに歓声が上がる。
「おお、茶碗蒸しじゃねぇか。おお、トロトロ…………あまっ!」
「栗の甘露煮が入ってます」
「普通銀杏だろ!」
「北海道では割と甘露煮が多いです」
「……ありえない」
連藤はつぶやきながらスプーンを置く始末だ。
「銀杏バージョンも作ったんで」
「正規だな、いただきたい」思わず顔をほころばし、スプーンを取り上げた連藤に、
「そんなに毛嫌いしなくても」
銀杏入りの茶碗蒸しをさしだしながら言ってみるが、ふたりにしてみたら銀杏入りが茶碗蒸しなのである。甘露煮入りは邪道なのかもしれない。
「でも莉子さん、女性にはウケそうな味だったな」
「甘いからな。スイーツ感覚で食べれるかもな」
男性にしてみると手のひらサイズの茶碗蒸しは3口程度で終わってしまうようだ。
名残惜しそうに茶碗蒸しのふちをなぞり、再びしゃぶしゃぶに箸を戻し、再びワインを飲みながら突いていく。
肌寒い日が続く今日この頃、温かい料理は和食が一番なのだと莉子は確信しながらワインを注ぎ足した。
0
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
熱い風の果てへ
朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。
カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。
必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。
そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。
まさか――
そのまさかは的中する。
ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。
※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
十年目の結婚記念日
あさの紅茶
ライト文芸
結婚して十年目。
特別なことはなにもしない。
だけどふと思い立った妻は手紙をしたためることに……。
妻と夫の愛する気持ち。
短編です。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています
【完結】月よりきれい
悠井すみれ
歴史・時代
職人の若者・清吾は、吉原に売られた幼馴染を探している。登楼もせずに見世の内情を探ったことで袋叩きにあった彼は、美貌に加えて慈悲深いと評判の花魁・唐織に助けられる。
清吾の事情を聞いた唐織は、彼女の情人の振りをして吉原に入り込めば良い、と提案する。客の嫉妬を煽って通わせるため、形ばかりの恋人を置くのは唐織にとっても好都合なのだという。
純心な清吾にとっては、唐織の計算高さは遠い世界のもの──その、はずだった。
嘘を重ねる花魁と、幼馴染を探す一途な若者の交流と愛憎。愛よりも真実よりも美しいものとは。
第9回歴史・時代小説大賞参加作品です。楽しんでいただけましたら投票お願いいたします。
表紙画像はぱくたそ(www.pakutaso.com)より。かんたん表紙メーカー(https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html)で作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる