café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第100話 寒い日のふたり (※料理なし!ラブラブ回です!)

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 久しぶりに2人で過ごす休日の昼間。
 莉子は、連藤の家にいた。

 大きな窓から差し込む日差しは白く濁りがない。
 床も日差しで切り抜かれ、白く色づいた部分だけほんのりと暖かくなっている。

「……ここ、寝床にいいですね……」

 ひと肌程に暖まった床に寝そべった莉子は窓を見上げた。
 小さなチリが煌めいている。
 昼間の星のようにも見える。

「……眠くなってきた……」

 今感じているまどろみは連藤も感じられる。
 だが、白く抜かれた床の色や跳ねるチリや色のない空を彼は見ることができない。
 彼と何かを共有していても、どこかが欠ける。


 そう、欠けたものを共有している———


「莉子さん、」

 連藤はあてもなくふらふらと歩いていたように見えたが、どうやら莉子の場所を探していたようだ。
 つま先に当たった服の感触に、連藤は疑問と小さな苛立ちを混ぜて莉子の名を呼んだ。

「ねぇ、連藤さん、」
「なんだ、莉子さん」

 その場にしゃがみ込み、そっとつま先に当たるものに彼は触れ、左から右へかするようになぞっていく。
 それが莉子の腕に当たる部位だと知り、一番右端にある手を取り上げた。
 指の1本1本を確かめるように握っては撫でてみている。

「私たちって、すごくイビツだと思いませんか?」
「イビツ? 何がだ?」

 熱を帯びた莉子の服に触れ、日当たりの良い場所で寝転んでいるのだと知った連藤は、莉子の横に同じように並んで横たわった。
 だが自分が寝転んだ場所は影の部分なのか、少し背中がひんやりとする。

 莉子はすぐに光の先へと移動し、握られたままの手を引いた。
 こちらへ来てという意味だ。
 背中と足で器用にずれながら彼女が寝転んでいたであろう場所に来るとじんわりと背と腹が温まるのがわかる。 

 意外と冬の日差しも侮れない。
 春のような陽気さはないが、凍ったものを溶かそうとする強い熱を感じることができる。
 
「イビツでもいいじゃないか」

 莉子の手を握ったまま、彼は自分の胸に抱え込んだ。
 両手で包んだ冷え性の彼女の指も、冬の日差しで少しは溶けてたようで、心地いい。

「イビツだから、ピッタリはまることもあると、俺は思う」
「ジグソーパズルのピースみたいに?」
「そう。俺と莉子さんみたいに」

 莉子は笑ったが、それは乾いた笑いだ。
 ただ握っている莉子の手はかすかに震え、何かを言いたい、伝えたい気持ちが見える。
 だが、言葉の形にはならないらしい。
 そのもどかしさが彼の手の中で拳になり、固まっていく。

 話さない。を選んだのだろう。

 連藤は小さくまるまった莉子の拳をなでながら、

「また莉子さん、面倒なこと考えてるな」
「面倒って、そんな言い方しないでくださいよ」

 尖る声が聞こえてくるが、それにすら鼻で笑って返し、

「莉子さん、イビツでいいんだ。目が見えていようとも、伝わらない事の多さを知っているだろ?」
「……でも、」
「見えていても、伝わらないことは伝わらない。共有できるのは所詮、大まかなことだけ、じゃないのか? 例えば、この床が、昼寝に適している、ってことぐらい。それで俺は充分だ」

 違うかな? そういいながら覗き込んできた瞳に色はない。
 だが目尻の先が緩み、微笑んでいる瞳であることは分かる。
 灰色の目なのに、冷たさなどない。優しい眼差しだ。

「触れたり感じたりしたものを共有するほうが、何倍も素晴らしいと思う」

 莉子の手で床に触れた連藤は、莉子に尋ねる。

「どう?」
「あったかい」
「では、ここは?」

 指先が当たる場所は連藤の鼻先だ。

「ひんやりしてる。猫みたい」

 くすくす莉子が笑うすきに、連藤は器用に莉子の首下に左腕を差し込み、莉子の手を握ったまま体を滑らせた。
 鼻の先がくっつき、お互いの息が頬にかかるほどの距離である。

「莉子さん、今どんな気分……?」

 吐息のような問いかけに、莉子の息遣いも浅く、細かく、そして囁く声で応えた。

「……ドキドキ、して、ます……」

 莉子の手を通しても、心臓の音が響いてくるほどだ。

「俺もドキドキしてる」

 言いながら連藤は莉子の手を自身の胸に引き寄せた。
 彼女の薄い手のひらに彼の激しい鼓動がしっかり伝わってくる。

 より近づいた連藤の瞳が自然につむる。
 莉子もそれに合わせてゆっくりとまぶたを下ろす、午後の時間。
 春はもうすぐだ。 
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