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第2章 カフェから巡る四季
第96話 探偵はカフェにいる 22:19現在
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電源を切って過ごした夕方、やはりそわそわと連絡を待つ莉子がいた。
いくら待っても震えない携帯に、包丁を刺してしまいたくなる。
ようやく夜の部を終え、片付けも大方済んだ頃、携帯が震えた。
素早く取り出すが、連絡は三井からだった。
これから行くから店を開けろという連絡だ。
『了解です。お待ちしてます』
返信を送り、お客がはけてクローズを出したとき、木下と三井が肩を並べて現れた。
「莉子、とりあえずビール」
「はいはい。木下さんはなんか飲みますか?」
「私はオレンジジュース」
ドリンクを差し出し、莉子はコーヒーカップを抱え、2人が座るテーブルへ腰を下す。
木下はパソコンを取り出し、操作を始めた。
三井が2本の目のビールに口をつけたとき、木下がパソコンから顔を上げる。
「莉子さん、覚悟はできてますか?」
小さく頷いたのを確認して、くるりとパソコンが回転。
木下は器用に横から操作すると、写真フォルダにカーソルが合わさる。
木下の細い指がそれをクリックした。
開かれたフォルダの中に、小さな写真がずらりと並んでいる。
その写真の一枚を木下はクリックした。
画面に大きく映し出される。
それは、連藤の腕を嬉しそうにからめる女の姿だった────
栗毛のロングに、クールな目元から、雰囲気でわかる。仕事ができる女性だ。
ピヤスやネックレスもスマートにおしゃれで、なにより、指先までしっかりと手入れが行き届いた女性だ。
見れば見るほどわかる。
連藤に似合う、女性だ。
莉子は力なく頷いた。
納得した、という意味だ。
もう、視界が滲み始めている。
「莉子、」三井が声をかけようにも、彼ですら言葉に迷っているようだ。
だが、次の写真に移動したとき、少し連藤と女との距離があいた。
リズムを刻むようにキーが押されていく。
コマ送りのように画像が動いていく。
が、それはその女を弾き返している、連藤の姿が。
「もう、動画で撮れよ。あ、これ、まさか、逆再生、とかじゃ?」
「三井先輩、どうみても時系列です。逆にしたら、ほら、突き飛ばしてるところ、めっちゃおかしい!」
ほぼ無表情になった莉子を置いて、木下はひとつ咳払いをする。
連藤にはっきりとあしらわれた女の顔をアップにして話し始めた。
「えっと、この女ですが、名前は高城早希。代理のひとつ後輩にあたりますね。役職はチーフ。3年前にロスの支部へ異動。今月の頭に本社に戻ってきました」
画面に出てきたのは、ロスの頃の写真だ。
社内報のようで、プレゼンをする高城の姿がある。
「で、現在ロスと合同の開発事業があり、その橋渡しの兼ね合いで代理の補佐に当たっています。この補佐に至る経緯ですが、かなりチーフ自身のプッシュがあったようですね。まあ、過去に代理のチームにいたこともあるし、実際ロス帰りですからね、補佐が妥当となったのかもしれません」
カチリと押されて出てきたのは、星川だ。
「とある方からの情報によると、以前から代理のことが好きだったという話で、婚約破棄の際にアプローチをかけようとしたところ、このとき代理がロスへ異動。その2年後代理は戻ってきたけど入れ替えで高城チーフがロスへ。ようやく戻ってきたのに、彼女持ちになっていることを知り、前のめりに接近しているようです。というわけで、連藤先輩、浮気じゃありませんでした。……残念!」
莉子はひとつ息をこぼしたが、安心と苛立ちが心のなかで渦を巻いていた。
なんで連絡ひとつ入れられないのか。
莉子の怒りを肌で感じながら、木下は自分の方へとパソコンを戻すと、打ち込みながら確認をしてくる。
「あの、莉子さん、メールを入れてから電話をするのが2人のルールになっていませんか?」
「え? あ、そう、だけど……」
木下の質問に答えはしたが、莉子は首をかしげるばかりだ。
「あと、莉子さんは先輩から連絡がきたら返信するけど、自分からは連絡は入れることは少ないですよね? 基本、受け身で連絡を待つ側ですよね?」
莉子は言葉に詰まった。
全てその通りだからだ。
木下は人差し指を立てると、
「今回、そのルールが仇となったのです」
またパソコン画面が見せられた。
そこには、メールの送受信記録と、合わせて通話記録も並んでいる。
「莉子さんのルールに気づいたのはこのメールの送受信記録と通話記録になります。あ、通話記録が手に入っているのは会社携帯分だけなので、ご安心を。その、過去のやりとりを見て、お2人の電話とメールのルールがわかりました。で、一番大事なのが、このメールの送受信記録。たぶん、今日のお昼が過ぎる頃、莉子さんは代理にメールを送信したはずです。それも1通だけですよね?」
「うん。いつもなら朝と昼に連藤さんから届くから」
「で、ここ見てください。代理は、今日も朝の7時4分と昼の11時52分に、メール、出してるんです」
「どういうこと!?」
画面にへばりつくように見ると、素人目で見ても莉子あてに昨日もさらに前の日もメールが送信されている記録がある。だが実際には届いていない。
莉子は慌てて自分の携帯を覗いてみるが、
「莉子の携帯が問題ってわけではないようだぞ」
三井はビールの瓶を再び空にした。
莉子が無言でビールを差し出すと、おもむろに栓を抜き、飲み始める。
木下もつられて注がれたオレンジジュースを飲み込むと、
「憶測ですが、先輩が莉子さん宛に出したメールと、莉子さんが先輩宛に出したメールが、別の場所へ転送するプログラムが組まれているようなんです」
ゆっくりと、且つ、力強く言い切った。
「先輩も悪いんですよ。個人メールにすればいいのに、会社のサーバーを通すように設定してるから、こんなプログラム組まれるんです」
木下は呆れたように言うが、
「策は練ってあります」
不敵な笑みを浮かべると、続けて、
「莉子、明日の夜、店は貸切にできるか?」
三井がにやりと唇を釣り上げた。
いくら待っても震えない携帯に、包丁を刺してしまいたくなる。
ようやく夜の部を終え、片付けも大方済んだ頃、携帯が震えた。
素早く取り出すが、連絡は三井からだった。
これから行くから店を開けろという連絡だ。
『了解です。お待ちしてます』
返信を送り、お客がはけてクローズを出したとき、木下と三井が肩を並べて現れた。
「莉子、とりあえずビール」
「はいはい。木下さんはなんか飲みますか?」
「私はオレンジジュース」
ドリンクを差し出し、莉子はコーヒーカップを抱え、2人が座るテーブルへ腰を下す。
木下はパソコンを取り出し、操作を始めた。
三井が2本の目のビールに口をつけたとき、木下がパソコンから顔を上げる。
「莉子さん、覚悟はできてますか?」
小さく頷いたのを確認して、くるりとパソコンが回転。
木下は器用に横から操作すると、写真フォルダにカーソルが合わさる。
木下の細い指がそれをクリックした。
開かれたフォルダの中に、小さな写真がずらりと並んでいる。
その写真の一枚を木下はクリックした。
画面に大きく映し出される。
それは、連藤の腕を嬉しそうにからめる女の姿だった────
栗毛のロングに、クールな目元から、雰囲気でわかる。仕事ができる女性だ。
ピヤスやネックレスもスマートにおしゃれで、なにより、指先までしっかりと手入れが行き届いた女性だ。
見れば見るほどわかる。
連藤に似合う、女性だ。
莉子は力なく頷いた。
納得した、という意味だ。
もう、視界が滲み始めている。
「莉子、」三井が声をかけようにも、彼ですら言葉に迷っているようだ。
だが、次の写真に移動したとき、少し連藤と女との距離があいた。
リズムを刻むようにキーが押されていく。
コマ送りのように画像が動いていく。
が、それはその女を弾き返している、連藤の姿が。
「もう、動画で撮れよ。あ、これ、まさか、逆再生、とかじゃ?」
「三井先輩、どうみても時系列です。逆にしたら、ほら、突き飛ばしてるところ、めっちゃおかしい!」
ほぼ無表情になった莉子を置いて、木下はひとつ咳払いをする。
連藤にはっきりとあしらわれた女の顔をアップにして話し始めた。
「えっと、この女ですが、名前は高城早希。代理のひとつ後輩にあたりますね。役職はチーフ。3年前にロスの支部へ異動。今月の頭に本社に戻ってきました」
画面に出てきたのは、ロスの頃の写真だ。
社内報のようで、プレゼンをする高城の姿がある。
「で、現在ロスと合同の開発事業があり、その橋渡しの兼ね合いで代理の補佐に当たっています。この補佐に至る経緯ですが、かなりチーフ自身のプッシュがあったようですね。まあ、過去に代理のチームにいたこともあるし、実際ロス帰りですからね、補佐が妥当となったのかもしれません」
カチリと押されて出てきたのは、星川だ。
「とある方からの情報によると、以前から代理のことが好きだったという話で、婚約破棄の際にアプローチをかけようとしたところ、このとき代理がロスへ異動。その2年後代理は戻ってきたけど入れ替えで高城チーフがロスへ。ようやく戻ってきたのに、彼女持ちになっていることを知り、前のめりに接近しているようです。というわけで、連藤先輩、浮気じゃありませんでした。……残念!」
莉子はひとつ息をこぼしたが、安心と苛立ちが心のなかで渦を巻いていた。
なんで連絡ひとつ入れられないのか。
莉子の怒りを肌で感じながら、木下は自分の方へとパソコンを戻すと、打ち込みながら確認をしてくる。
「あの、莉子さん、メールを入れてから電話をするのが2人のルールになっていませんか?」
「え? あ、そう、だけど……」
木下の質問に答えはしたが、莉子は首をかしげるばかりだ。
「あと、莉子さんは先輩から連絡がきたら返信するけど、自分からは連絡は入れることは少ないですよね? 基本、受け身で連絡を待つ側ですよね?」
莉子は言葉に詰まった。
全てその通りだからだ。
木下は人差し指を立てると、
「今回、そのルールが仇となったのです」
またパソコン画面が見せられた。
そこには、メールの送受信記録と、合わせて通話記録も並んでいる。
「莉子さんのルールに気づいたのはこのメールの送受信記録と通話記録になります。あ、通話記録が手に入っているのは会社携帯分だけなので、ご安心を。その、過去のやりとりを見て、お2人の電話とメールのルールがわかりました。で、一番大事なのが、このメールの送受信記録。たぶん、今日のお昼が過ぎる頃、莉子さんは代理にメールを送信したはずです。それも1通だけですよね?」
「うん。いつもなら朝と昼に連藤さんから届くから」
「で、ここ見てください。代理は、今日も朝の7時4分と昼の11時52分に、メール、出してるんです」
「どういうこと!?」
画面にへばりつくように見ると、素人目で見ても莉子あてに昨日もさらに前の日もメールが送信されている記録がある。だが実際には届いていない。
莉子は慌てて自分の携帯を覗いてみるが、
「莉子の携帯が問題ってわけではないようだぞ」
三井はビールの瓶を再び空にした。
莉子が無言でビールを差し出すと、おもむろに栓を抜き、飲み始める。
木下もつられて注がれたオレンジジュースを飲み込むと、
「憶測ですが、先輩が莉子さん宛に出したメールと、莉子さんが先輩宛に出したメールが、別の場所へ転送するプログラムが組まれているようなんです」
ゆっくりと、且つ、力強く言い切った。
「先輩も悪いんですよ。個人メールにすればいいのに、会社のサーバーを通すように設定してるから、こんなプログラム組まれるんです」
木下は呆れたように言うが、
「策は練ってあります」
不敵な笑みを浮かべると、続けて、
「莉子、明日の夜、店は貸切にできるか?」
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