café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第95話 探偵はカフェにいる 12:47現在

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「莉子、今日、パスタランチな」

 そう言いながらカウンターに腰を下ろしたのは三井である。

「ランチの時間に来るの、久しぶりですね」

 莉子は水とカトラリーを並べるが、顔色があまり良くない。
 三井は莉子の視線に手を振り、視線を合わせると、水を飲みつつ尋ねる。

「どうした? 元気ないな」
「いや、その……実は………」

 ボソボソとしゃべりながらも、いつものとおりにサラダを用意しスープを出すがが、三井はそれらをひっくり返す勢いだ。

「は? 連藤が、1週間も連絡くれてない!? え? 今、あいつ、会社にいるぞ? 電話するかっ?」

 三井は意味もなく立ち上がり、わたわたと頭を抱える。
 だが、確かに忙しくデスクで昼を取る姿をここのところ見ているのもり、連絡を入れられない事情があるのかもしれない。
 が、そうであっても、そうなるという連絡は絶対に入れるタイプだ。

 三井は、真顔になり、カウンターに座り直した。


 ──これは、何か、裏で動いている……
 三井のゴーストが囁く。
 これは、大人の面白い修羅場が見れるかもしれないぞ? と──


「今まで連絡がこなかったことってなかったし、私がメールしても返信がなかったことなんてなくって……私、嫌われたのかと……」

 青をとおりこして、白い顔の莉子に、三井は肩を叩く。

「莉子、はやまるな。こういうときは、アイツに頼もうぜ」

 ぬるくなった水を一口含み、携帯を取り出すと、なにやら操作し、通話を押した。
 すぐに相手につながったようで、

「お、ああ、お疲れ。お前出てこれるだろ? カフェまで来い」

 そのまますぐに電話が切れた。
 要件のみで出動してくるとすれば、瑞樹だろうか?
 莉子が小さく首を傾げるが、三井は笑う。

「パスタ、食っちまうわ」
「今、すぐに準備しますね」

 今日のパスタは、チーズ入りクリームパスタだ。
 エビやアサリも入り、魚介のダシがでた美味しいクリームである。
 フェットチーネパスタによくからんで、大変美味しい出来だ。

「はい、お待たせしました」
「おー、うっまそ」

 嬉しそうに頬張る三井を横目に、オーダーをこなすこと20分。
 食後のコーヒーを出したところで現れたのは、木下だ。
 いきなり、莉子が好みとのたまった、あの女性社員だ!

「莉子さーん、おひさしぶりですー!」

 入ってくるなり元気に挨拶。
 警戒する莉子に構わず木下は三井のとなりへと座った。
 飛び込むぐらいの前のめりで、

「莉子さんのお願いなら、何でもしますよ、私!」

 宣言する彼女の襟を三井は掴み、椅子へと座り直させた。
 飲み物はジンジャーエールというので、瓶とグラスをさしだすと、木下は瓶に口をつけて、いい音をたてて飲み込んでいく。

「私、莉子さんのために、走ってきたんで」
「わかったから。もう一本、奢ってやる。お前さ、連藤んとこのプロジェクト、直に入ってたよな?」
「連藤先輩と、なんかあったんですか?」

 木下は嬉しそうな表情を浮かべるので、莉子は能面となるが、木下は犬のよう。
 激しく楽しそうに振っている尻尾が見える。

「連藤の動き、調べてくれよ。莉子にかれこれ、4日、連絡がない」
「連藤先輩浮気してたら、私、莉子さんにワンチャンありま」
「ないです」

 即答した莉子に木下はにっこり笑う。

「微レ存にかけて、私、調べてきます! ま、代理の邪魔をしているのは、おおよそ目星が付いています。今夜、またここでお会いしましょう。莉子さんが望むものを一式揃えてきますよ」

 言い切ると、2本目のジンジャエールを片手にカフェを出て行った。
 後ろ向きで手を振る姿が、頼もしくも見える。

「じゃ、俺も今晩ここに来れるように準備すっか」

 ジャケットをひっつかんで、三井もまた出て行った。
 すこしだけ前向きになった莉子は、今日も一度だけ、メールを入れておこうと、厨房の影に隠れて文字を打ち込んだ。

『こんにちは。体調とか崩してないですか? 何かあったら連絡くださいね』

 莉子はそれをそのまま送信し、余計に携帯を眺めないように電源を落とした。
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