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第2章 カフェから巡る四季
第94話 海老がメインの料理って少なくないですか?
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莉子は解凍しておいたブラックタイガーの殻を剥きながら、ふと思う。
エビって、エビフライ、エビチリ、エビマヨ以外に、何かメインの料理はあるのだろうか───
今日は、ランチメニューをエビフライにしようと思い、下処理をしているところだ。
足をむしりながら殻を剥き終えれば、次は尻尾の先を切り落としにかかる。
次に、背わたをとり、腹に浅く切り込みを入れ、指で伸していく。
莉子はまな板でプチプチいわせながら、
「あ、天ぷらも、エビって大事かも。でも、エビ天だけでメインはなかなか難しいな……いや、あれ、メインか……?」
つい、力が入りすぎて伸しすぎてしまったが、どうにかなるだろう。
エビの下処理をおえたら、酒と塩を軽く振り、キッチンペーパーに乗せて冷蔵庫へ。
ランチのオーダーが来たら、バッタ液にくぐらせ、パン粉をつけて揚げれば、完成だ。
サラダの準備も整い、今日は寒い日だからとスープはミネストローネを作ってある。
メインはエビフライだが、その他にほうれん草のキッシュも焼き上がった。
これで、ランチの準備は万端!
オープンの看板を出しに厨房を出たとき、莉子は、絶望した。
「……雪、降ってんじゃん……」
慌ててスマホの天気予報を見るが、雨だ。
だがタブレットで天気予報の番組を見ると、どこも『雪』と叫んでいる。
『予報では雨だったのですが、ところにより関東平野部でも、みぞれ、または雪が降る地域があ』
莉子はタブレットを持ったまま、固まった。
もっと外を見るべきだった。
いや、厨房から外がしっかり見えるように、窓を作るべきだった。
隠れた空間にしたくて、窓は小さく、カウンターから厨房内が見えないように設計したのがそもそも大きな間違いだった──
後悔が莉子の脳裏を走っていくが、この大量のエビをどう処理していくべきか、考える時間だ。
間違いなく、ランチタイムに人は来ない!
だが、解凍したエビを再冷凍する気にはなれない。
だからといって、明日までエビを延長させる気にもなれない。
「……はぁ」
大きなため息がカウンターにぼとりと落ちる。
落ち着くためにも、と、自分用にコーヒーを入れ始めたとき、スマホが震えた。
連藤だ。
『莉子さん、今日のランチは行けそうにない。申し訳ない』
「いいのに……」
わざわざ連絡をいれてくるマメさに笑いながら、莉子は返信をかえす。
『大丈夫ですよ。こんな雪のなか来られたほうが困ります』
『いきなりの雪、驚いた』
『私もです。今日はエビフライランチだったんですけど、エビが大量に余りそうで』
『なら、夜、エビの天ぷらにしないか。たらふくエビ天を食べてみたい。余れば、俺がエビのつみれにする』
エビのつみれ。
莉子は繰り返す。
エビのつみれ……
「……そんな食べ物もあったあった!」
エビの料理だ。
だが、メインにはなりにくいと思う。
「やっぱ、エビって、メインはるの大変な食材だな」
大量のエビを思い浮かべながら、莉子は返信を書き込んだ。
『天ぷら、いいですね。では、夜、待ってますね』
──返信をしてからコーヒーをゆっくり味わい、今日賞味期限のケーキも食べて、莉子は12時を迎えた。
だが、誰も来る気配がない。
だいたい、外を歩く人もいなければ、車もいないのだ。
莉子は店主らしく、店内でお客を待ってみた。
今日作ったミネストローネとパンを食べ、待ってみた。
現在14時になるところだが、誰1人とやっぱり来ていない。
残りのミネストローネは粗熱をとってから、鍋ごと大型冷蔵庫へ入れておくことにした。
明日のスープにするつもりだ。
「よし、閉店!」
莉子はこれ以上、店を開けても意味がないと判断した。
クローズにした莉子の動きは早い。
食器やカトラリーの片付け、グラスの整理を終えると、レジを触るが、すぐに閉じた。
お金の出入りがないのだから、数える意味がない。
身に染みたクローズの動きに笑いながら、莉子は時計を見上げる。
時刻は15時30分。
店内の電気も消して、二階の自室へと向かう途中、スマホが震えた。
『早くあがってそちらに行くのがバレた』
連藤だ。
嫌な予感しかしない。
『三井と、巧、瑞樹も、エビ天が食べたいそうだ。すまない』
莉子は思わず吹いてしまうが、2人の時間でなくなるのはやはり残念ではある。
『わかりましたよ。店は閉じたので、今日は2階で天ぷらパーティしましょ。準備、しておきますね』
莉子はピノ・ノワールのワインがなかったか、セラーに確認をしつつ、天ぷらのつけ出汁の準備を始める。
昆布とカツオの出汁と、醤油とみりんのあまじょっぱさが、ピノ・ノワールにマッチするのである。
あとは、大根おろしも用意しなければと、食品庫に向かうが、
「天ぷら、ごま油であげてみようかな……白いごま油、あったよね、たしか……」
白ごま油を探しだし、それを小脇にかかえ、大根をおろしにかかる。
他にかぼちゃ、なすび、ピーマンをみつけ、それも天ぷらの食材にすることにした。
あとはご飯を炊いておき、シメにかき揚げ丼か、かき揚げのお茶漬けがあればいいかと、莉子は炊飯器のスイッチを押したとき、またスマホが震えた。
『あと1時間でそちらに行けそうだが、どうだろう。問題があれば、もう1時間ひきのばす』
時計を見ると、もう17時を回っているではないか。
『問題ないですよ。1時間後ですね。待ってますね』
莉子は改めて天ぷらの準備を整えていく。
しっかりお酒の準備も抜かりない。
「シャンパンないから、スパークリングでいいか。冷やしておこ」
グラスやワインクーラーを準備し、エビを運びおえたとき、チャイムが鳴る。
インターホンのカメラには、4人が寒そうにドアの前に並んでいるのが見える。
『どうぞ、入ってー』
すでに部屋のなかは香ばしい油の香りで充満している。
おかえり、ただいまもほどほどに、宴会は始まっていく───
エビって、エビフライ、エビチリ、エビマヨ以外に、何かメインの料理はあるのだろうか───
今日は、ランチメニューをエビフライにしようと思い、下処理をしているところだ。
足をむしりながら殻を剥き終えれば、次は尻尾の先を切り落としにかかる。
次に、背わたをとり、腹に浅く切り込みを入れ、指で伸していく。
莉子はまな板でプチプチいわせながら、
「あ、天ぷらも、エビって大事かも。でも、エビ天だけでメインはなかなか難しいな……いや、あれ、メインか……?」
つい、力が入りすぎて伸しすぎてしまったが、どうにかなるだろう。
エビの下処理をおえたら、酒と塩を軽く振り、キッチンペーパーに乗せて冷蔵庫へ。
ランチのオーダーが来たら、バッタ液にくぐらせ、パン粉をつけて揚げれば、完成だ。
サラダの準備も整い、今日は寒い日だからとスープはミネストローネを作ってある。
メインはエビフライだが、その他にほうれん草のキッシュも焼き上がった。
これで、ランチの準備は万端!
オープンの看板を出しに厨房を出たとき、莉子は、絶望した。
「……雪、降ってんじゃん……」
慌ててスマホの天気予報を見るが、雨だ。
だがタブレットで天気予報の番組を見ると、どこも『雪』と叫んでいる。
『予報では雨だったのですが、ところにより関東平野部でも、みぞれ、または雪が降る地域があ』
莉子はタブレットを持ったまま、固まった。
もっと外を見るべきだった。
いや、厨房から外がしっかり見えるように、窓を作るべきだった。
隠れた空間にしたくて、窓は小さく、カウンターから厨房内が見えないように設計したのがそもそも大きな間違いだった──
後悔が莉子の脳裏を走っていくが、この大量のエビをどう処理していくべきか、考える時間だ。
間違いなく、ランチタイムに人は来ない!
だが、解凍したエビを再冷凍する気にはなれない。
だからといって、明日までエビを延長させる気にもなれない。
「……はぁ」
大きなため息がカウンターにぼとりと落ちる。
落ち着くためにも、と、自分用にコーヒーを入れ始めたとき、スマホが震えた。
連藤だ。
『莉子さん、今日のランチは行けそうにない。申し訳ない』
「いいのに……」
わざわざ連絡をいれてくるマメさに笑いながら、莉子は返信をかえす。
『大丈夫ですよ。こんな雪のなか来られたほうが困ります』
『いきなりの雪、驚いた』
『私もです。今日はエビフライランチだったんですけど、エビが大量に余りそうで』
『なら、夜、エビの天ぷらにしないか。たらふくエビ天を食べてみたい。余れば、俺がエビのつみれにする』
エビのつみれ。
莉子は繰り返す。
エビのつみれ……
「……そんな食べ物もあったあった!」
エビの料理だ。
だが、メインにはなりにくいと思う。
「やっぱ、エビって、メインはるの大変な食材だな」
大量のエビを思い浮かべながら、莉子は返信を書き込んだ。
『天ぷら、いいですね。では、夜、待ってますね』
──返信をしてからコーヒーをゆっくり味わい、今日賞味期限のケーキも食べて、莉子は12時を迎えた。
だが、誰も来る気配がない。
だいたい、外を歩く人もいなければ、車もいないのだ。
莉子は店主らしく、店内でお客を待ってみた。
今日作ったミネストローネとパンを食べ、待ってみた。
現在14時になるところだが、誰1人とやっぱり来ていない。
残りのミネストローネは粗熱をとってから、鍋ごと大型冷蔵庫へ入れておくことにした。
明日のスープにするつもりだ。
「よし、閉店!」
莉子はこれ以上、店を開けても意味がないと判断した。
クローズにした莉子の動きは早い。
食器やカトラリーの片付け、グラスの整理を終えると、レジを触るが、すぐに閉じた。
お金の出入りがないのだから、数える意味がない。
身に染みたクローズの動きに笑いながら、莉子は時計を見上げる。
時刻は15時30分。
店内の電気も消して、二階の自室へと向かう途中、スマホが震えた。
『早くあがってそちらに行くのがバレた』
連藤だ。
嫌な予感しかしない。
『三井と、巧、瑞樹も、エビ天が食べたいそうだ。すまない』
莉子は思わず吹いてしまうが、2人の時間でなくなるのはやはり残念ではある。
『わかりましたよ。店は閉じたので、今日は2階で天ぷらパーティしましょ。準備、しておきますね』
莉子はピノ・ノワールのワインがなかったか、セラーに確認をしつつ、天ぷらのつけ出汁の準備を始める。
昆布とカツオの出汁と、醤油とみりんのあまじょっぱさが、ピノ・ノワールにマッチするのである。
あとは、大根おろしも用意しなければと、食品庫に向かうが、
「天ぷら、ごま油であげてみようかな……白いごま油、あったよね、たしか……」
白ごま油を探しだし、それを小脇にかかえ、大根をおろしにかかる。
他にかぼちゃ、なすび、ピーマンをみつけ、それも天ぷらの食材にすることにした。
あとはご飯を炊いておき、シメにかき揚げ丼か、かき揚げのお茶漬けがあればいいかと、莉子は炊飯器のスイッチを押したとき、またスマホが震えた。
『あと1時間でそちらに行けそうだが、どうだろう。問題があれば、もう1時間ひきのばす』
時計を見ると、もう17時を回っているではないか。
『問題ないですよ。1時間後ですね。待ってますね』
莉子は改めて天ぷらの準備を整えていく。
しっかりお酒の準備も抜かりない。
「シャンパンないから、スパークリングでいいか。冷やしておこ」
グラスやワインクーラーを準備し、エビを運びおえたとき、チャイムが鳴る。
インターホンのカメラには、4人が寒そうにドアの前に並んでいるのが見える。
『どうぞ、入ってー』
すでに部屋のなかは香ばしい油の香りで充満している。
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