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第2章 カフェから巡る四季
第92話 お好み焼き
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どうしようもなく食べたくなるものがあると思う。
莉子にとってそれは、『お好み焼き』だった。
とはいえ、店を休んで、食べにいくこともできず、悶々としていたところで、ふと舞い込んだ夜更けの酒盛りに、莉子はお好み焼きを出すことに決めた。
「なんで、お好み焼きなんだよ!」
ぶーたれるのは、三井だ。
「カフェが、夜遅くに、わざわざ、店をあけてくれることに、感謝してほしいです、ね!」
言い返しつつ、手は止まらない。
キャベツを刻み、別なボールには、粉を用意していく。
が、取り出したのは、たこ焼き粉だ。
「お好み焼きのくせに、なんでたこ焼き粉なんだよ!」
「いちいちツッコミがうるさいですね。賞味期限ギリギリだったのと、これ、水を混ぜればいいっていう、究極のたこ焼き粉らしくて。なら、お好み焼きでも美味いかなって。塩とマヨネーズがオススメなんですって。赤ワインに合いますから焼いていきますね」
連藤は、わーわー言う三井を無視して、用意してくれた赤ワインと、甘辛く焼いた照り焼きハンバーグでお好み焼きを待っている。
「おい、連藤、なんか言い返さねーのかよ」
「俺は、作ってくれるものに、文句は言わないようにしている」
「神かよ……」
だがしかし、本当に水だけでおいしいのか疑問は残る。
水に溶いてみると、ほんのりと良い香り。
出汁のかおりや、甘い香りがする。
───いける!
そう踏んだ莉子は、キャベツにその液体を投入、さらに揚げ玉をいれ、フライパンで焼いていく。
豚バラはひっくり返してから焼くように切りそろえておく。
「莉子さん、珍しいな、お好み焼きなんて」
追加のチーズを出したとき、連藤が言った。
莉子は頷きながら、首をかしげる。
「私もわかんないんですけど、なんか、粉もん、食べたくなるタイミングってありません?」
「あー、俺わかるかも」
三井は言いつつ、グラスを大きく傾け、ワインを飲み干した。
「肉みたいに、米食いてー! ってとき、ある、確かに」
つがれたワインに口をつけながら、うんうんと頷く三井だが、連藤は疑問の顔だ。
「俺は、あまりないかもしれない。確かに食べたいものはあるが、猛烈ってことはないな」
「お前はいーっつも、バランスの良い食事をしてんだよ、きっと」
吐き捨てるように言った三井に、連藤は笑う。
「それなら、お前だって、星川にダイエットメニュー、食べさせてもらってるだろ」
「そりゃそうだけどよ。なんで、あんなに野菜ばっかりだすかな、マジ」
「それだけ三井さんのこと、大事だからですよ」
焼きあがったお好み焼きをケーキのように切り分け、盛る。
それぞれに、マヨネーズ、塩は3種類用意した。
莉子にもお好み焼きがとりわけられたのだが、なぜか、茶碗がある。
「莉子、お前、まさか……」
驚く三井をおいて、連藤が目を開いた。
「莉子さん、ふんわり感は少しすくなめだが、しっかりと味のあるお好み焼きだ。確かに塩が合う……うまいな」
「よかったです。私もこんなだとは思っていなくって」
返事をしつつ、莉子はお好み焼きを頬張り、そして、ご飯をひと口。
「やっぱ、莉子、お好み焼きで、飯くってんのか!?」
「三井さんもいります?」
「いらねーよ! 気色悪!」
「塩辛いものなら、ご飯は拒みませんよ」
言いながらもりもり食べる莉子に戸惑う三井は、連藤を巻き込む。
「おい、連藤、おかしいって言ってやれよ」
「関西では定食にもなってるそうじゃないか。いいんじゃないか。食べ方は色々だ」
莉子と連藤はにこにこと楽しむ横で、三井はちびちびとワインを飲みつつ、お好み焼きを頬張る。
確かに、美味い。
美味いが、お米と一緒は、ないだろう……。
そう思ってやまない三井だった。
莉子にとってそれは、『お好み焼き』だった。
とはいえ、店を休んで、食べにいくこともできず、悶々としていたところで、ふと舞い込んだ夜更けの酒盛りに、莉子はお好み焼きを出すことに決めた。
「なんで、お好み焼きなんだよ!」
ぶーたれるのは、三井だ。
「カフェが、夜遅くに、わざわざ、店をあけてくれることに、感謝してほしいです、ね!」
言い返しつつ、手は止まらない。
キャベツを刻み、別なボールには、粉を用意していく。
が、取り出したのは、たこ焼き粉だ。
「お好み焼きのくせに、なんでたこ焼き粉なんだよ!」
「いちいちツッコミがうるさいですね。賞味期限ギリギリだったのと、これ、水を混ぜればいいっていう、究極のたこ焼き粉らしくて。なら、お好み焼きでも美味いかなって。塩とマヨネーズがオススメなんですって。赤ワインに合いますから焼いていきますね」
連藤は、わーわー言う三井を無視して、用意してくれた赤ワインと、甘辛く焼いた照り焼きハンバーグでお好み焼きを待っている。
「おい、連藤、なんか言い返さねーのかよ」
「俺は、作ってくれるものに、文句は言わないようにしている」
「神かよ……」
だがしかし、本当に水だけでおいしいのか疑問は残る。
水に溶いてみると、ほんのりと良い香り。
出汁のかおりや、甘い香りがする。
───いける!
そう踏んだ莉子は、キャベツにその液体を投入、さらに揚げ玉をいれ、フライパンで焼いていく。
豚バラはひっくり返してから焼くように切りそろえておく。
「莉子さん、珍しいな、お好み焼きなんて」
追加のチーズを出したとき、連藤が言った。
莉子は頷きながら、首をかしげる。
「私もわかんないんですけど、なんか、粉もん、食べたくなるタイミングってありません?」
「あー、俺わかるかも」
三井は言いつつ、グラスを大きく傾け、ワインを飲み干した。
「肉みたいに、米食いてー! ってとき、ある、確かに」
つがれたワインに口をつけながら、うんうんと頷く三井だが、連藤は疑問の顔だ。
「俺は、あまりないかもしれない。確かに食べたいものはあるが、猛烈ってことはないな」
「お前はいーっつも、バランスの良い食事をしてんだよ、きっと」
吐き捨てるように言った三井に、連藤は笑う。
「それなら、お前だって、星川にダイエットメニュー、食べさせてもらってるだろ」
「そりゃそうだけどよ。なんで、あんなに野菜ばっかりだすかな、マジ」
「それだけ三井さんのこと、大事だからですよ」
焼きあがったお好み焼きをケーキのように切り分け、盛る。
それぞれに、マヨネーズ、塩は3種類用意した。
莉子にもお好み焼きがとりわけられたのだが、なぜか、茶碗がある。
「莉子、お前、まさか……」
驚く三井をおいて、連藤が目を開いた。
「莉子さん、ふんわり感は少しすくなめだが、しっかりと味のあるお好み焼きだ。確かに塩が合う……うまいな」
「よかったです。私もこんなだとは思っていなくって」
返事をしつつ、莉子はお好み焼きを頬張り、そして、ご飯をひと口。
「やっぱ、莉子、お好み焼きで、飯くってんのか!?」
「三井さんもいります?」
「いらねーよ! 気色悪!」
「塩辛いものなら、ご飯は拒みませんよ」
言いながらもりもり食べる莉子に戸惑う三井は、連藤を巻き込む。
「おい、連藤、おかしいって言ってやれよ」
「関西では定食にもなってるそうじゃないか。いいんじゃないか。食べ方は色々だ」
莉子と連藤はにこにこと楽しむ横で、三井はちびちびとワインを飲みつつ、お好み焼きを頬張る。
確かに、美味い。
美味いが、お米と一緒は、ないだろう……。
そう思ってやまない三井だった。
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・・・・・・・・・・
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