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第2章 カフェから巡る四季
第88話 ザンギと竜田揚げと唐揚げの違い
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今日のランチは、北海道ザンギとピタパンのセットだ。
野菜サラダと、ピタパンとザンギがワンプレートとなっている。
それに豆腐入りコンソメスープがついて、ワンセットだ。
「なあ、莉子、ザンギと唐揚げの違いって、なによ」
ピタパンにもりもり詰め込んで頬張ったのは三井だ。
テーブルの向かいに座る連藤は、夜にザンギが食べたいということで、その分は残し、ランチはビーフシチューを選択している。
「えっと、あくまで我が家、ですけど、ザンギは天ぷらに近いんですよ」
そう言い残し、莉子は接客へと向かっていった。
連藤はいつものビーフシチューにパンを合わせ、幸せそうだ。
「莉子さんのビーフシチューは、なぜだろうな。週4で食べても飽きないんだ」
「それは、俺も同感だけどよ。ザンギと唐揚げの区別、俺、ついてねぇなって。この前もさ、竜田揚げが家ででてきたんだが、『また唐揚げか』って言ったら、怒られるし……」
「『また』ってフレーズ、基本使用禁止だろ。お前、飯、作れないのに」
「……えぐるなよ」
今日のランチメニューだと、コーラもでやすいようだ。
ハンバーガーに近い食べ物になるとは思ってもいなかった。
瓶コーラを出しつつ、会計を終えた莉子が再び現れる。
「ザンギってね、」
「お、話、続けてくれんのか」
三井の唐突の合いの手に、莉子の言葉がつまる。
「さっきので、納得してるなら、いいんですが」
「待てって。聞くから!」
ビーフシチューのセットを出し終え、莉子がもどると、三井はすでに食べ終えていた。
追加の瓶コーラを渡し、えっと、と話しだす。
「竜田揚げとかも、醤油やみりん、酒、生姜なんかでした味に漬けておくんですけど、うちは揚げる前に卵と、小麦粉と片栗粉を入れて混ぜて、衣にするんです」
「へー」
「普通は漬けたお肉に粉をまぶして、揚げる感じです。小麦粉で揚げたら唐揚げな感じ。片栗粉だと、竜田揚げな感じですかね。で、ザンギは天ぷらみたいに、ふんわりした衣になるんです」
「……なるほど」
新しいオーダーの北海道ザンギのピタパンセットを眺めながら、三井は頷いている。
「連藤、つーことは、ザンギのほうが、竜田揚げとかより、手間かかんないってこと?」
「お前、ふざけてるのか」
「は? だって、ザンギは混ぜたら揚げれるんだろ?」
「明日は休みだ。俺の部屋に来い。デートは断れ」
改めて水を注ぎに莉子がふたりの席へと顔を出すが、雰囲気が違う。
間違いなく、連藤が怒っている。
「……何したんですか、三井さん」
「地雷踏んだ」
「俺が、お前の根性、叩き直してやる」
「よっぽどですね」
莉子は軽やかに笑い、仕事へと戻っていった。
三井の胃痛は、朝、起きてからが本番だった。
9時に電話が鳴り、
『いつまで、寝てる。来い』
問答無用だ。
通話がそれで終わりなのにビビりながら部屋へいくと、そこには星川と莉子がいる。
「今日、三井くんが、お昼、作ってくれるんだってね! 楽しみにしてたんだぁ」
ウキウキの星川に、莉子は「私は巻き添え。臨時休業ですよ」と無表情だ。
連藤はエプロンを渡し、三井に言い放った。
「今日は、お前が簡単だといった、ザンギを作ってもらう。材料は冷蔵庫にある。作れ」
「……はぁ?」
「ほら、まず、何肉を使うんだ? あぁ?」
腕を組んだ連藤が監督となり、三井を厳しく指導していく。
下味をつけている間に、ザンギに添えるキャベツをきったり、和物を作ったり。
ご飯を炊いて、味噌汁を用意し、そして、今度は揚げていく。
「もう、俺、足が棒なんだけど」
「そういうことを、料理している人はしている。お前はラクして食って、文句言ってるだけだろ」
「……すいません」
「いいから、ザンギ揚げろ」
連藤の言われたとおりに、卵を入れ、小麦粉を測って入れ、片栗粉も同じようにし、混ぜていく。
どろっとした茶色い液がまとわりついた鶏肉を熱した油へ入れていく。
「……あち! うおっ! 跳ねるな、けっこう」
「揚げ物とは、そういうものだ」
中火で揚げて、一度出し、また揚げて………
4人分の料理は、意外と多い、ということを三井はこの日、知った。
そして、お昼ご飯を食べるだけなのに、3時間もの時間がかかっていることにも、驚いていた。
「俺、こんなに時間かかってた?」
「慣れた人間なら、3分の1だろうが、お前なら、こんなもんだろ」
ちょうど炊飯器の音が鳴ったことで、連藤が動き出す。
「……さ、昼食だ。盛り付けて、食べるぞ、三井」
盛り付けも最後まで自分でやってみたが、星川のように手早くできず、莉子のように彩りの配置がきれいにいかない。
ご飯と味噌汁をよそい、連藤はテーブルへと並べていく。
三井は緊張の顔つきで、星川と莉子の前に、皿を置いた。
「わー! 莉子ちゃん、三井くんがザンギ揚げたよ! すごくない?」
「はい。めっちゃすごいです。焦げてないし」
「それは、俺の監督がよかったからだ」
「連藤さん、全部、手柄にしないでください。三井さんも頑張ったんですから」
ようやく座った椅子の心地よさ。
三井は「はぁ」と息を着く。
「ほら、三井、ビールもある。な、ザンギ、簡単だったろ?」
「……すいませんでした……」
土下座の勢いの三井だが、速攻、冷えたビールに手が伸びる。
ぷしゅりと空いた缶に唇が寄り、缶のほとんどを飲み終えてしまう。
「……はぁ。料理って、大変だってわかったから、冷めないうちに、食おうぜ! な!」
三井の発声で、休日ランチが始まる。
やはり唐揚げとビールは鉄板だ。
うますぎるっ!!!!
莉子は久しぶりの昼からの休みに、開き直ってビールを飲みつつ、揚げ過ぎぎみのザンギを頬張り、微笑んだ。
「三井さんらしい、丁寧な味がします」
「丁寧って、揚げすぎってことだろ?」
「生よりはマシだよ、三井くん。じょーずじょーず」
「星川、褒めすぎだ。だから調子にのって、偉そうなことを言い出すんだ。本当に、バカですまない、星川」
「いいえ。そんな三井くんが良くて、そばにいるしね」
どこか開き直った星川の声に、三井の再教育が必要だと思ったのは、連藤だけではない。
「今度、三井さん、別な料理、作ってみましょうか。星川さん、他になんかいやーなこと言われた料理ないです? 作らせましょう!」
「莉子、やめろ! しばらくは、料理しねーからな!!!!」
そういいつつも、三井が料理をしたり、星川を気遣うことを、莉子と連藤はわかっている。
わかっているが、いじらずにはいられないのが、この仲なのだ。
野菜サラダと、ピタパンとザンギがワンプレートとなっている。
それに豆腐入りコンソメスープがついて、ワンセットだ。
「なあ、莉子、ザンギと唐揚げの違いって、なによ」
ピタパンにもりもり詰め込んで頬張ったのは三井だ。
テーブルの向かいに座る連藤は、夜にザンギが食べたいということで、その分は残し、ランチはビーフシチューを選択している。
「えっと、あくまで我が家、ですけど、ザンギは天ぷらに近いんですよ」
そう言い残し、莉子は接客へと向かっていった。
連藤はいつものビーフシチューにパンを合わせ、幸せそうだ。
「莉子さんのビーフシチューは、なぜだろうな。週4で食べても飽きないんだ」
「それは、俺も同感だけどよ。ザンギと唐揚げの区別、俺、ついてねぇなって。この前もさ、竜田揚げが家ででてきたんだが、『また唐揚げか』って言ったら、怒られるし……」
「『また』ってフレーズ、基本使用禁止だろ。お前、飯、作れないのに」
「……えぐるなよ」
今日のランチメニューだと、コーラもでやすいようだ。
ハンバーガーに近い食べ物になるとは思ってもいなかった。
瓶コーラを出しつつ、会計を終えた莉子が再び現れる。
「ザンギってね、」
「お、話、続けてくれんのか」
三井の唐突の合いの手に、莉子の言葉がつまる。
「さっきので、納得してるなら、いいんですが」
「待てって。聞くから!」
ビーフシチューのセットを出し終え、莉子がもどると、三井はすでに食べ終えていた。
追加の瓶コーラを渡し、えっと、と話しだす。
「竜田揚げとかも、醤油やみりん、酒、生姜なんかでした味に漬けておくんですけど、うちは揚げる前に卵と、小麦粉と片栗粉を入れて混ぜて、衣にするんです」
「へー」
「普通は漬けたお肉に粉をまぶして、揚げる感じです。小麦粉で揚げたら唐揚げな感じ。片栗粉だと、竜田揚げな感じですかね。で、ザンギは天ぷらみたいに、ふんわりした衣になるんです」
「……なるほど」
新しいオーダーの北海道ザンギのピタパンセットを眺めながら、三井は頷いている。
「連藤、つーことは、ザンギのほうが、竜田揚げとかより、手間かかんないってこと?」
「お前、ふざけてるのか」
「は? だって、ザンギは混ぜたら揚げれるんだろ?」
「明日は休みだ。俺の部屋に来い。デートは断れ」
改めて水を注ぎに莉子がふたりの席へと顔を出すが、雰囲気が違う。
間違いなく、連藤が怒っている。
「……何したんですか、三井さん」
「地雷踏んだ」
「俺が、お前の根性、叩き直してやる」
「よっぽどですね」
莉子は軽やかに笑い、仕事へと戻っていった。
三井の胃痛は、朝、起きてからが本番だった。
9時に電話が鳴り、
『いつまで、寝てる。来い』
問答無用だ。
通話がそれで終わりなのにビビりながら部屋へいくと、そこには星川と莉子がいる。
「今日、三井くんが、お昼、作ってくれるんだってね! 楽しみにしてたんだぁ」
ウキウキの星川に、莉子は「私は巻き添え。臨時休業ですよ」と無表情だ。
連藤はエプロンを渡し、三井に言い放った。
「今日は、お前が簡単だといった、ザンギを作ってもらう。材料は冷蔵庫にある。作れ」
「……はぁ?」
「ほら、まず、何肉を使うんだ? あぁ?」
腕を組んだ連藤が監督となり、三井を厳しく指導していく。
下味をつけている間に、ザンギに添えるキャベツをきったり、和物を作ったり。
ご飯を炊いて、味噌汁を用意し、そして、今度は揚げていく。
「もう、俺、足が棒なんだけど」
「そういうことを、料理している人はしている。お前はラクして食って、文句言ってるだけだろ」
「……すいません」
「いいから、ザンギ揚げろ」
連藤の言われたとおりに、卵を入れ、小麦粉を測って入れ、片栗粉も同じようにし、混ぜていく。
どろっとした茶色い液がまとわりついた鶏肉を熱した油へ入れていく。
「……あち! うおっ! 跳ねるな、けっこう」
「揚げ物とは、そういうものだ」
中火で揚げて、一度出し、また揚げて………
4人分の料理は、意外と多い、ということを三井はこの日、知った。
そして、お昼ご飯を食べるだけなのに、3時間もの時間がかかっていることにも、驚いていた。
「俺、こんなに時間かかってた?」
「慣れた人間なら、3分の1だろうが、お前なら、こんなもんだろ」
ちょうど炊飯器の音が鳴ったことで、連藤が動き出す。
「……さ、昼食だ。盛り付けて、食べるぞ、三井」
盛り付けも最後まで自分でやってみたが、星川のように手早くできず、莉子のように彩りの配置がきれいにいかない。
ご飯と味噌汁をよそい、連藤はテーブルへと並べていく。
三井は緊張の顔つきで、星川と莉子の前に、皿を置いた。
「わー! 莉子ちゃん、三井くんがザンギ揚げたよ! すごくない?」
「はい。めっちゃすごいです。焦げてないし」
「それは、俺の監督がよかったからだ」
「連藤さん、全部、手柄にしないでください。三井さんも頑張ったんですから」
ようやく座った椅子の心地よさ。
三井は「はぁ」と息を着く。
「ほら、三井、ビールもある。な、ザンギ、簡単だったろ?」
「……すいませんでした……」
土下座の勢いの三井だが、速攻、冷えたビールに手が伸びる。
ぷしゅりと空いた缶に唇が寄り、缶のほとんどを飲み終えてしまう。
「……はぁ。料理って、大変だってわかったから、冷めないうちに、食おうぜ! な!」
三井の発声で、休日ランチが始まる。
やはり唐揚げとビールは鉄板だ。
うますぎるっ!!!!
莉子は久しぶりの昼からの休みに、開き直ってビールを飲みつつ、揚げ過ぎぎみのザンギを頬張り、微笑んだ。
「三井さんらしい、丁寧な味がします」
「丁寧って、揚げすぎってことだろ?」
「生よりはマシだよ、三井くん。じょーずじょーず」
「星川、褒めすぎだ。だから調子にのって、偉そうなことを言い出すんだ。本当に、バカですまない、星川」
「いいえ。そんな三井くんが良くて、そばにいるしね」
どこか開き直った星川の声に、三井の再教育が必要だと思ったのは、連藤だけではない。
「今度、三井さん、別な料理、作ってみましょうか。星川さん、他になんかいやーなこと言われた料理ないです? 作らせましょう!」
「莉子、やめろ! しばらくは、料理しねーからな!!!!」
そういいつつも、三井が料理をしたり、星川を気遣うことを、莉子と連藤はわかっている。
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