café R ～料理とワインと、ちょっぴり恋愛～

第２章 カフェから巡る四季

第87話 サーモンフライとタルタルソース

　良い鮭が、２尾、手に入った。
　お陰で早起きである。
　これをこれから3枚に下ろし、ランチにするのだから。

　頭をとって、鱗をはがしてもらっているだけマシなのだが、それでも、切り身にしなければならない。
　１メートルはある業務用まな板で、３枚に卸していくが、鮭の皮は加工できるほど、硬い。手を気をつけながら、卸していくが、小骨も固い！

「もう、これで今日の業務終わりにしたい……」

　なんとか３枚に卸し、中骨を抜き、切り身にしていくが、ランチを考えると、もう１尾、卸しておくのが正解だろう。
　ため息をつきつつ、莉子は取り掛かる。

　が、終わったときには、もうゲッソリだ。
　それらを適当な大きさに切り、塩胡椒を振っておくのを忘れない。

　次にタルタルソースだ。
　ゆで卵を作ってる間に、燻製たくあんのいぶりがっこをみじん切り、玉ねぎのみじん切りは水にさらし、最後にパセリのみじん切りをすませておく。
　マヨネーズには蜂蜜を混ぜておく。
　最後の仕上げにレモン汁を入れるのを忘れないように、ゴロリとボウルのそばに転がして、作業再開だ。

　今日はほんのり甘くてさっぱり&燻製風味のタルタルソースだ。
　水にさらした玉ねぎをしぼり、パセリを水で揉み洗って青臭さを抜いて、混ぜて、味見をして、さらに混ぜ……もう、ランチの時間は迫っている。

　他の準備もしながら、オープンしたランチタイム。
　いつものメンバーのなかで、１着は、連藤だった。

「今日のメニューはなんだろうか」

　お疲れ様もなく、椅子に腰を下ろしたとたんに言ったセリフだ。

「どうしてですか？」
「なんの香りもしないから、きっと、作り立てを食べられると思ったんだが……」

　彼の鼻の良さには、毎回驚かされる。
　莉子は連藤に水を運びながら、

「今日は、サーモンフライ、タルタルソース付です」
「ご飯だろうか、パンだろうか」
「ご飯にしましたけど、パンがよかったです？」
「いや、そっちの方がいい。外が寒かったので、味噌汁が飲めるのは嬉しい」
「よかったです。今準備しますね」

　卵に酒を少し入れ、パン粉には粉チーズを混ぜてある。
　どちらも、鮭の生臭みを少しでもやわらげる工夫だ。

　しっかり水気をふいた鮭に小麦粉をまぶし、卵液、パン粉をしっかりまとわせ、フライヤーの中に落としていく。
　じゅわり、といい音が鳴ったのを見て、タイマーをかけ、その間に皿の準備だ。
　小鉢には、かぼちゃの煮物を添えて、千切りキャベツとカットレモン、そこへ鮭フライを盛りつけ、ソースと、タルタルソースは別添えにしてから連藤のもとへ。

　揚げたての鮭フライは、油がじくじくとまだ音を立てている。
　味噌汁も熱々のを準備してある。

「できました。どーぞ」

　さっそくと箸をとり、味噌汁の椀を持ち上げた。
　ゆっくり汁をすする連藤は、にっこり笑う。

「ごぼうの香りがいい味噌汁だ……」

　そして、なにもつけずに、鮭フライをひと口。
　さっくりした衣の音を聞きながら、莉子は次の接客に走る。

　遠目で見るが、やっぱりそうだ。
　連藤は、タルタルソースをディップする派だ。
　かけないで、つける。
　衣に水分がかかるのが好きじゃないと、昔言っていたのを思い出す。
　適度にレモンを追加しながら、楽しそうに頬張っている。
　ちなみに莉子の今日の気分は、ソースをヒタヒタにかけて、アクセントにタルタルソースをかけて食べたいのだが、ランチの混み具合を考えると、夜の時間に食べるのが良さそうだ。

「莉子さん、ただいまー。連藤と同じの！」

　カウンターになだれ込むように座ったのは巧だ。

「はいはい」
「おれは、ビーフシチュー」
「瑞樹さんは、ビーフシチューね」

　２人が来たということで、時計を見ると、ちょうど正午をさしている。
　これから混む時間だ。
　莉子は、気を引きしめたとき、小さく連藤の手が上がる。

「どうしました、連藤さん？」
「もし、少し余れば夜にもいただきたい。今日のタルタルがおいしくて」
「わかりました。でも、余れば、ですからね」

　連藤は店内の騒がしさを聞きながら、鮭は全てなくなるだろうと想像するも、タルタルソースだけでも残らないかなと、期待せずにはいられない。