café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第85話 亡き父のカレー

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 今日のランチメニューは、カレーライスだ。
 理由は赤ワインのあまりが多かったのと、牛肉の細切れが安く手に入ったことが重なったからだ。
 ひたすらに玉ねぎをスライスし、それを飴色になるまで炒めて炒めて炒めていく。
 そこに適宜にきった牛肉を投入。
 色が変わったところで、ワインをダバダバ入れていく。
 あとは、カレールーを父親秘伝の割合でブレンドし、包丁で切り刻み、溶かし込む。

「あとは、フライドポテトと、ナスとしめじの素揚げ、でいいかな」

 サラダを皿に盛りつけ、すぐに出せるように準備をしておく。
 次に、コンソメスープだ。
 カレーにスープはいらない?
 あーあー聞こえない。
 しかしながら、一子相伝のこのカレーは、けっこう辛い。
 水よりも、ぬるい飲み物の方が、辛さがやわらぐのだ。

「キャベツたっぷりのコンソメスープ、完了。……他の温め直しとかしとくか……」

 ご飯の炊き上がりも確認し、準備はオーケー。
 一番最初の来店は、靖おじさんだ。

「莉子ちゃん、おはよう。まずは、コーヒー頼むね」

 いつものカウンター席に座り、本を広げる。
 昨日より、3ミリ進んだ本だが、楽しそうだ。

 莉子はその横顔を眺めながら、コーヒーを落とし、差しだした。

「ありがと、莉子ちゃん。あ、今日のランチは、カレーにしようかな」
「はい。わかりました。食べたくなったら声かけてください」

 他のお客を対応しつつ、11時30分をすぎた頃、ランチタイムできたサラリーマンが、カレーを注文。
 サラダ、スープと、カレーライスにして出したとたん、店内がカレー臭に包まれるのがわかる。
 他のお客様の鼻がひくついている。

 カレーには、魔力があるな……

 思いつつ、カレーを運び終えたとき、カウンターの靖が手を上げた。

「莉子ちゃん、たのむわ。もう我慢できん」

 いつも12時と決まっている食事なのだが、カレーの匂いに胃が刺激されたよう。
 うずうずとしながら、本をしまい、水を飲む姿に、笑ってしまう。

「すぐ、お持ちします」

 湯気があがるカレーは、少し黒い。
 理由は赤ワインを入れているからだ。
 だが、しっかりとコクがでているのがわかる。
 トッピングの野菜もツヤツヤといい塩梅でカレーに絡む。

 ひとくち、頬張った。

「………ふぅ……これこれ」

 すぐに額ににじみだす汗をタオルでぬぐいながら食べ続けている。
 それを見るだけで、莉子のお腹もぐぅと鳴りそうだ。

「莉子さん、ただいま。あ、やっさんのカレーうまそー」

 勢いよくカウンターに座ったのは、巧である。
 瑞樹がよいしょとゆっくり座ると、ブイサインをしてくる。

「莉子さん、カレーふたつ」
「はいはい」

 厨房内で準備をしていると、3人の声が聞こえてくる。

「これな、莉子ちゃんのお父さんと同じ味なんだよ」
「「へぇー」」
「もしかして、初めて食べるのか?」
「思えばそうかも。な、瑞樹」
「うん。カレーライスは初めてな気がする」
「カレーライスのランチは回数、少ないからな。運がいいな!」

 まるで孫と話す祖父のような光景に、莉子の顔は緩んでしまうが、果たして靖に好評でも、ふたりに好評となるかどうか……

 ドキドキしながら差しすと、さっそくひと口。

「から!」

 スープを飲むのは瑞樹だ。
 巧は無言で3口頬張り、

「莉子さん、おかわりってある?」
「あるけど……?」
「あ、おれも、もう1杯食べる」

 瑞樹の言葉に、莉子は笑いそうになる。
 このカレーのいいところは、あとにひかない辛さ。
 辛味が苦手な瑞樹が食べ続けたいカレーなことに、嬉しくなる。


 父さんの味、今も気に入ってくれる人がいるよ!


 莉子はつい空を見ようと窓を見たとき、目が合った。
 三井だ。後ろに、連藤もいる。

「いらっしゃい。カレー?」
「俺はその手には……のらないからな……莉子……」
「莉子さん、俺はカレーがいい」

 三井は匂いとの攻防があるようだが、カレーに決定するのはわかっている。
 父のカレーは、偉大なのだ。
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