café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第83話 ふろふき大根ならの、おでん

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 本日のランチは、あじのフライと、風呂吹き大根だった。

 のだが、洋食がメインのカフェだ。

 実は和食はあまりやすい。
 想定通り、風呂吹き大根があまった。
 アジフライは、衣をつけて冷凍しておくとして、風呂吹き大根は今日中にはけたい。

 ということで、おでんに昇進を決定!

 今日は、巧と瑞樹と九重が、3人で来店予定だ。
 リクエストは『あったかいもの』だったので、問題ない。

 風呂吹き大根の出汁をそのまま活用することに決め、そこへ、厚揚げ、ゆで卵、ロールキャベツ、トマト、ウィンナーを追加。

 これに合わせるワインは、ピノ・ノワールのワインだ。
 フランスのブルゴーニュを準備し、すでにセラーから出してある。

 あとは、野菜の天ぷらと、豆腐サラダ、混ぜご飯の準備だけは整えてある。
 他にもつまめる肴を準備しつつ、莉子は厨房を見回した。

「これだけしとけば、大丈夫でしょう」

 中休憩もほどほどに始まったディナータイム。
 今年は5名以上の予約は週末だけにしたため、平日の今日は少し気が楽だ。
 ディナーに行く前のつなぎでカフェに来てくれている人もいる。
 これから始まるデートや飲み会のソワソワ感を莉子も楽しみながら、接客していく。

 そうして現れた3人だが、ため息まじりだ。

「お疲れ様、みなさん。どうしたんですか、来店そうそう」

 あまりのぐったり感に、温かいお茶を先に出す始末。

「いやー、オレも瑞樹も、九重もそうなんだけどさ、もう付き合い長くて……記念日どうするっていう」
「あー」

 莉子は、テーブル席に3人を案内し、ふんふんと頷くが、

「お互いが楽しかったらいいんじゃないんですか?」
「そうはならないんだよ、莉子さーん」

 嘆くのは瑞樹だ。

「真穂は欲がないっていうか、あんまり言葉にしてくれないから、何してあげていいのかわかんないっていうか……」
「男性ってい大変なんですね」

 莉子は3人をなだめつつ、ワインを用意すると、カセットコロンロに火を付ける。

「鍋なのに、ワイン?」

 巧の声に、ちちち! と返す。
 ゆっくり運んできたのは、やはり、鍋である。
「じゃーん」と開いても、鍋だ。

「おでん……?」

 九重の声に、莉子はうなずいた。

「おでんです。大根はしみしみ。トマトなど洋風の食材にしましたので、粒マスタードでどうぞ。で、今日のワインは、フランス・ブルゴーニュのワインです。出汁の味とよくマッチするので、ぜひ」

 3人のグラスにワインを注ぎ、そして、おでんも最初だけ取り分けていく。

「めしあがれ。あ、今日はワイン、注ぎにこれるか難しいので、今日のホストは?」
「オレ」
「じゃ、巧くんがみんなのグラスにワインを注いでくださいね」
「はーい」

 男3人の鍋パーティを莉子は次の料理の準備をしながら見ていると、楽しそうだ。
 おでんの何から食べるか、とか、ワインとの相性を楽しんだり、お互いにグラスをアピールしたり……

 かき揚げができたため、天つゆといっしょに運んでいくと、ボトルは半分より下に減っている。

「どうですか、おでんとワイン?」

 莉子の質問に、瑞樹が親指を立てた。

「めっちゃうまい!」

 横に割り込む勢いでグラスを持ち上げたのは九重だ。

「和食とワインが合うって、すんごい感動です」
「だろ? 莉子さんすごいんだよ」

 さも自分のことのように褒めてくれるのは巧だ。

 莉子は3人に笑いながらも、料理を追加し、離れようとしたとき、瑞樹がから声がかかる。

「ね、莉子さん」
「あ、はい、なんですか?」
「莉子さんは、例えばクリスマス、どう過ごすの?」

 やっぱり、きたか。
 莉子は思う。
 だが、その質問に答えるだけの予定が、実はない。

 いつも忙しい時期にあり、夜、いっしょに食事ができたらいいな、程度なのだ。
 答えになるかわからないが、正直に伝えることにした。

「その、クリスマス、毎年忙しいタイミングなので、食事ができたらする、程度で、予定は特に立ててないんです」
「え、それって連藤から?」

 巧のあまりの驚きっぷりに笑ってしまうが、莉子は首を横に振る。

「んー、どっちは難しいですが、スケジュールを確認したら、お互いに忙しいって感じですかね」
「じゃあ、奈々美にも、仕事って言おうかな、オレ」

 思わず莉子のチョップが入る。

「めんどくさがらない」
「えー……いやさ、オレが決めると毎年同じだって言うし、頼むと私ばっかりっていうしさー」

 女子あるある、だ。
 これは、莉子も回答が難しい。

「……まだ料理あるんで、持ってきますね」
「「逃げた」」

 瑞樹と九重の声を背中に聞き、莉子は次の料理の準備にとりかかる。

 盛りつけをしながら、ふと思う。


 『ふたりの満足』は、それぞれにあるんだろうな、と。


 悩む時間も、いい時間だと、莉子は思う。
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