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第2章 カフェから巡る四季
第81話 ハギスって知ってる?
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たまたま、トイレに入っていたときに聞いたという。
「ハギスって知ってる?」
巧の質問に、三井は歪んだ顔で、ワインを飲む。
「なんだ、その、魔法の呪文みたいなやつ」
「唱えたら、なんになるだよ」
「マヒ。な、莉子はしってんのか?」
もうクローズが近いのもあり、片付けをしつつ、レジを閉めつつ、手を動かしながらも首を横に振った。
「しらねぇってよ」
「なんなんだろなぁ。ちょっと予想しね? 連藤、あとからくんだろ?」
そう言うと、ふたりでワインを注ぎ合い、うんうんと唸り出す。
最後の一切れの生ハムを口に放り込むと、三井が閃いた風な顔をする。
「ハギスは、クサカンムリに秋の萩と、ネストの巣と書いて、和菓子!」
「どんな和菓子よ」
冷め切ったキッシュを頬張り、巧が尋ねると、三井は得意げな顔をする。
「萩って、赤紫っぽい小さな花をつけてんだろ? だから、あずきの和菓子よ」
「形状は?」
「形状? そこまで? ……あー、巣だから、こう、モンブラン風な感じ。中はカステラ。それを覆うように、あんこのもじゃもじゃがかかってる。場所によっては、生クリーム入ってたりする……」
「それ、ふつーにうまそうなんだけど」
「巧は?」
うなりつつ、皿に転がったチーズを口に放り込み、ワインを飲む。
「俺は、アイルランド系のアルコール飲料、にする」
「理由は?」
「ギネスと似てるから」
「それだけ?」
「そうだけど? ギネスってアイルランド発祥じゃなかったっけ?」
「で、アルコールは、どっち系?」
「どっちって?」
「ワインとか、ウイスキーとか、ビールとかあるだろ」
まじか。巧は小さくつぶやき、ちびりとグラスをかたむける。
ペペロンチーノ風の枝豆を食べ、指をなめ、手を拭きながら、
「ウイスキーにする」
「ビールじゃねえんだ」
「なんか、透明感ある感じしない? しゅわしゅわしてないっていうか」
「なるほどな」
ちょうどクローズの時間となったのか、店内が薄暗くなった。
店の扉にも看板が下がる。
だが、同時に、店の入り口が賑やかに。
「残業は想定外だったんだ」
この声は、連藤だ。
ギリギリまで隠されていた仕事があったそうで、その後処理のための残業だったとか。
滅多に愚痴など言わないが、今回のは相当、頭にきたらしい。
「あいつだけは許さん」
その言葉と同時に、カウンターに腰をおろした。
「いつになく殺気立ってるな、連藤」
三井の声に、連藤は小さくため息で返す。
「お前の部署だぞ」
「……は? マジかよ」
「明日、一通りの説明をする。今日はもう、この仕事のことは考えたくない」
莉子はいそいそとおしぼりを渡し、前菜としてふたりに出していたタコのカルパッチョを差し出した。
「泡と、白、どっちがいいです?」
「まずは泡がいいかな」
莉子はすかさずシャンパングラスにスパークリングワインを注ぐ。
自身のグラスにも注ぐと、
「連藤さん、お疲れ様でした」
「お疲れ様、莉子さん」
そのふたりのやりとりに横槍を入れるのは、三井と巧だ。
「「おれたちには?」」
連藤はふたりの方に体を向けると、グラスを掲げる。
「ハイ、オツカレ」
「「よし」」
連藤のコンソメスープを見て、巧と三井がねだり、結局4人ですすっていると、巧がそわそわしだす。
「あの、連藤、ちょっといいか」
「なんだ改まって」
今日はサーモンのムニエルのため、莉子は一旦、厨房へと潜ったときだ。
巧は連藤に向かい合うと、
「ハギスって知ってるか」
聞こえやすいように、はっきりと言った。
連藤はその問いを、繰り返す。
「ハギス……ハギスは、知っているが。それがどうかしたか?」
「ハギスってなに?」
すかさず空いたグラスに白ワインを注ぎいれた巧は、ずいと迫る。
「ハギスは、スコットランドの郷土料理だ。羊の胃袋に肉などを詰め込んで煮て、スコッチを振りかけて食べるのが、むこう流だというが……」
ふたりの落胆がひどい。
三井は和菓子、巧はウイスキーだ。
全く違う。
むしろ、予想など、口に出さなくてよかった。
本当に、よかった!!!!
「三井、料理だってよ。賭け、しなくてよかったな」
「おう……あぶなかった。マジ、あぶなかった……」
「なんだ、ふたりとも……?」
疑問符を浮かべる連藤と、沈み続けるふたりのまえに、皿が並んだ。
連藤には美味しそうなオーロラサーモンのムニエルだ。
レモンが多めに添えられているのは、さっぱりと食べられるようにの配慮だろう。
そのとなりには、ピザトーストである。
「今日のお昼のあまりのパンだけど、ピザソースは手作りだから、美味しいですよ?」
莉子の声に、巧と三井の手が伸びる。
ふたりが飲んでいる赤ワインに合うようで、ハフハフ言いながら、食べだした。
「……なんなんだ? 莉子さん、なにか知ってたり」
「いえ、私も知らないです。ハギスって何か、ふたりで話し合っていたのは聞こえましたけど」
見当違いだったことは、お互いに黙ったまま、今日も夜は更けていく。
「ハギスって知ってる?」
巧の質問に、三井は歪んだ顔で、ワインを飲む。
「なんだ、その、魔法の呪文みたいなやつ」
「唱えたら、なんになるだよ」
「マヒ。な、莉子はしってんのか?」
もうクローズが近いのもあり、片付けをしつつ、レジを閉めつつ、手を動かしながらも首を横に振った。
「しらねぇってよ」
「なんなんだろなぁ。ちょっと予想しね? 連藤、あとからくんだろ?」
そう言うと、ふたりでワインを注ぎ合い、うんうんと唸り出す。
最後の一切れの生ハムを口に放り込むと、三井が閃いた風な顔をする。
「ハギスは、クサカンムリに秋の萩と、ネストの巣と書いて、和菓子!」
「どんな和菓子よ」
冷め切ったキッシュを頬張り、巧が尋ねると、三井は得意げな顔をする。
「萩って、赤紫っぽい小さな花をつけてんだろ? だから、あずきの和菓子よ」
「形状は?」
「形状? そこまで? ……あー、巣だから、こう、モンブラン風な感じ。中はカステラ。それを覆うように、あんこのもじゃもじゃがかかってる。場所によっては、生クリーム入ってたりする……」
「それ、ふつーにうまそうなんだけど」
「巧は?」
うなりつつ、皿に転がったチーズを口に放り込み、ワインを飲む。
「俺は、アイルランド系のアルコール飲料、にする」
「理由は?」
「ギネスと似てるから」
「それだけ?」
「そうだけど? ギネスってアイルランド発祥じゃなかったっけ?」
「で、アルコールは、どっち系?」
「どっちって?」
「ワインとか、ウイスキーとか、ビールとかあるだろ」
まじか。巧は小さくつぶやき、ちびりとグラスをかたむける。
ペペロンチーノ風の枝豆を食べ、指をなめ、手を拭きながら、
「ウイスキーにする」
「ビールじゃねえんだ」
「なんか、透明感ある感じしない? しゅわしゅわしてないっていうか」
「なるほどな」
ちょうどクローズの時間となったのか、店内が薄暗くなった。
店の扉にも看板が下がる。
だが、同時に、店の入り口が賑やかに。
「残業は想定外だったんだ」
この声は、連藤だ。
ギリギリまで隠されていた仕事があったそうで、その後処理のための残業だったとか。
滅多に愚痴など言わないが、今回のは相当、頭にきたらしい。
「あいつだけは許さん」
その言葉と同時に、カウンターに腰をおろした。
「いつになく殺気立ってるな、連藤」
三井の声に、連藤は小さくため息で返す。
「お前の部署だぞ」
「……は? マジかよ」
「明日、一通りの説明をする。今日はもう、この仕事のことは考えたくない」
莉子はいそいそとおしぼりを渡し、前菜としてふたりに出していたタコのカルパッチョを差し出した。
「泡と、白、どっちがいいです?」
「まずは泡がいいかな」
莉子はすかさずシャンパングラスにスパークリングワインを注ぐ。
自身のグラスにも注ぐと、
「連藤さん、お疲れ様でした」
「お疲れ様、莉子さん」
そのふたりのやりとりに横槍を入れるのは、三井と巧だ。
「「おれたちには?」」
連藤はふたりの方に体を向けると、グラスを掲げる。
「ハイ、オツカレ」
「「よし」」
連藤のコンソメスープを見て、巧と三井がねだり、結局4人ですすっていると、巧がそわそわしだす。
「あの、連藤、ちょっといいか」
「なんだ改まって」
今日はサーモンのムニエルのため、莉子は一旦、厨房へと潜ったときだ。
巧は連藤に向かい合うと、
「ハギスって知ってるか」
聞こえやすいように、はっきりと言った。
連藤はその問いを、繰り返す。
「ハギス……ハギスは、知っているが。それがどうかしたか?」
「ハギスってなに?」
すかさず空いたグラスに白ワインを注ぎいれた巧は、ずいと迫る。
「ハギスは、スコットランドの郷土料理だ。羊の胃袋に肉などを詰め込んで煮て、スコッチを振りかけて食べるのが、むこう流だというが……」
ふたりの落胆がひどい。
三井は和菓子、巧はウイスキーだ。
全く違う。
むしろ、予想など、口に出さなくてよかった。
本当に、よかった!!!!
「三井、料理だってよ。賭け、しなくてよかったな」
「おう……あぶなかった。マジ、あぶなかった……」
「なんだ、ふたりとも……?」
疑問符を浮かべる連藤と、沈み続けるふたりのまえに、皿が並んだ。
連藤には美味しそうなオーロラサーモンのムニエルだ。
レモンが多めに添えられているのは、さっぱりと食べられるようにの配慮だろう。
そのとなりには、ピザトーストである。
「今日のお昼のあまりのパンだけど、ピザソースは手作りだから、美味しいですよ?」
莉子の声に、巧と三井の手が伸びる。
ふたりが飲んでいる赤ワインに合うようで、ハフハフ言いながら、食べだした。
「……なんなんだ? 莉子さん、なにか知ってたり」
「いえ、私も知らないです。ハギスって何か、ふたりで話し合っていたのは聞こえましたけど」
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