café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第74話 お手軽鶏ハムは電子レンジで

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 莉子はブチ切れていた。

「あと、一品。あと、一品でいいから!」

 三井のせいである。

「閉店後に来て、これだけ食べて、あと一品ってなに!?」

 カウンターに並べられた汚れた皿は、中華料理がはいっていたのがわかる。
 麻婆豆腐に、エビチリはもちろん、春巻きに、餃子、レバニラ炒めと品数は豊富だ。
 チャーハンもワンタンスープも胃袋におさめたのに、まだ必要とはどういうことか。
 莉子の顔はひきつっている。
 が、理由もわかっている。

 やけ食い、というやつだ。

 珍しく、仕事で失敗したらしい。
 いや、初めて聞いたかもしれない。
 ただ、ストレスは飲食で発散するのは知っていたが、今回はかなり、大食い。
 むしろ、過食だ。

「あとで吐くとかないですよね!? 吐かれたら、マジでキレるから」
「もうキレてんだろ。それに、俺は、大食い」

 大食い。
 言葉が頭にはまらない。

「……初めて聞きましたけど」
「よく大食いするやつあんだろ。アレと似た感じぐらいは、食える」
「うそだー」
「なら、これだけ食ってんのは?」

 確かに、麻婆豆腐は3人前はあったし、餃子は2人前、春巻きは10本、エビチリは少なめかもしれないが、チャーハンは2合のご飯で作っていた。

「……たしかに。いや、あたしが見えないカウンターの下に、巧くんたちがいるとか」
「いねーよ!」

 カウンターから出てみたが、店内には三井しかいない。
 今日は連藤は出張に出ているのだ。
 少し前に3人でテレビ電話をしたばかりだ。いや、連藤に慰めてもらったのだ。
 おかげで少し落ち着いた三井だが、あと一品のコールである。

「この瓶ビール、かたしたいんだよ。あと一品頼むって!」

 持ち上げると、冷えた瓶ビールだが、開けたばかりだ。
 いつ開けたのか覚えていないが、三井がきっと勝手に開けたのだろう。

「……割増料金もらうんで」
「わかったって!」

 莉子はカウンターの下にある冷蔵庫の中から、鶏の胸肉を取り出した。
 そこに岩塩を砕いた細かな塩をまぶし、適当なハーブをまとわせる。
 それをタッパに入れ、白ワインを適量注ぐ。
 蓋に水蒸気を逃がす穴が付いているのを開けておき、電子レンジへ。

「……700Wで、1分半、ぐらい? いっとく?」
「お前、それ、料理かよ」
「ふざっけんなよ! 一品作ってんだから、だまってて」

 莉子の叫びに、しゅんと広い肩幅を縮めた三井だが、電子レンジが気になる。
 ぐるぐると回るタッパが見えるが、あれじゃあ、ただの鶏だ。

 メロディが鳴ったのを聞いて、蓋を開けた莉子は、肉を裏返した。
 つついてみて、

「3分ぐらいいっとくか」

 そのまま電子レンジをかけていく。
 再び蓋を開けて、肉をつつき、

「いいかな。ほんとはこれで、30分ぐらい置いておくといいんだけど、めんどうだから、出すね」

 莉子はアチアチ言いながら切っていく。

「はい、即席鶏ハム」

 ビールに合わせてか、あらびきコショウがふりかけられる。

「醤油とか、バルサミコとか合うと思う」

 そういう莉子は胡椒だけでそれをつまむと、ビールを流し込んでいく。

「……かー。うまい。今日の出来、サイコー。超しっとり。でも冷めるとパサパサなるね。ぱぱっと食べて、帰れよ、傷心男」
「なんか、うまく料理に丸め込まれた気がするな……」

 鶏ハムを一口頬張り、ビールを飲み込んだ三井だが、閉店を下げているドアがノックされた。
 星川だ。

「夜更けに、ひとりあぶないですよ?」

 莉子が出迎えると、星川は笑う。

「大丈夫、タクシーできたし。あいつ、やけ食いしてんでしょ?」
「お見通しですね」
「まあね。付き合い長いもの。……ほら、莉子ちゃんに迷惑だから、帰るわよ」

 ぐうっとビールを飲み干した三井は、カウンターに万札を数枚叩き置いた。

「莉子、ありがと。……すっきりしたわ」
「そりゃよかった。あ、この即席鶏ハム、残ってるから、お二人でどうぞ。中華スープとかもいいし、明日の朝のお粥とかに入れても美味しいので」

 素早くタッパに戻し、手渡すと星川は楽しそうに受け取った。

「明日の朝、お粥いいかもね、三井くん」
「うっさい」
「帰ろっか」
「へいへい」

 二人の何気ないやりとりが、莉子は少し嬉しくなる、そんな夜中だが、莉子にはまだ片付けがある。
 ぬるいビールを飲み干し、戸締りを確認すると、片付けにとりかかった。
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