café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第73話 朝カフェ

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 本日快晴。
 というわけで、日中はカフェのテラス席を解放しているcafé「R」。
 暑い日でも外で食事がしたくなるのが、夏という季節だろう。

 今はまだ夏が本番ではないため、試験的に日曜日の朝、早めに開店し、午後15時で閉店としてみている。
 やはり隣が公園ということもあって、朝の犬の散歩や、ウォーキングのついでに寄られる方も多い。
 予想よりも好調な滑り出しだ。

 そんな朝のテラス席に、いるはずのない2人が腰を下ろしているではないか!

 それは、巧と瑞樹の、2名である。

「ど、どうしました? 今日はヒョウでも降るのかな?」
「そんなに驚くことないじゃでしょ?」

 瑞樹はおどけていうが、巧は「やるだろ、オレ」と言わんばかりの笑顔だ。
 あれほど朝が弱いと言われている彼が、現在朝8時のカフェにいるのだ。

「確かに俺は朝は弱いけど、起きる日もあんの。莉子さん、この朝サラダ2つお願いしたいんだけど」
「あと、ワインの白も!」

 瑞樹からの白ワインコールに、莉子は目を開く。

「朝から飲むんですか?」

 オーダーを聞きながら声が裏返ってしまった莉子だが、驚きが隠せていない。

「このために俺たち来たんだし」
「そそ、なんか大人な休日でしょ?」

 なるほど。明日は祝日なのもあるからそれでか。

「デートは?」
「デートも休み。つーか、奈々美と優、2人で旅行に行ったからなぁ」

 巧がぶっきらぼうに言うと、瑞樹もほぼ無表情で頷いた。

「なるほど。男性陣はここでバカンス気分なわけですね」
「そーいうこと。なので、よろしくー」

 陽気に瑞樹が手を挙げたので、うんうんと頷くと莉子は早速準備にかかる。

 サラダはレタスが中心ではあるが、トマトにヤングコーン、ズッキーニ、ブロッコリー、茹でたじゃが芋も添えられる。今日は生ハムものせておこう。
 野菜の上に乗るのはこんがり焼いたバゲットだ。
 クルトンのような扱いだが、ボリュームもでて、野菜との相性もいい。
 さらに作っておいた温泉卵を割りのせ、粉チーズをかけておく。
 ドレッシングはオリーブオイルと塩胡椒、バルサミコ酢を混ぜたもの。アクセントに乾燥バジルを混ぜてある。これを別容器に入れれば、完成だ。

 簡単。激しく簡単。
 朝のメニューは簡単に見栄えがいいものしか出さないルールにしているのだが、それでも『カフェ』と名前がつくだけで、おしゃれ感がでるのが、とてもありがたい。

 少し蒸し暑さが増してきた。
 そんな朝の白ワインは、少し華やかなのがいいだろうか。
 オーストラリアで作られたヴィオニエの葡萄のワインにしてみる。
 これが嫌と言われたらリースリングの白にしようと、一杯だけ運んでいくことにした。

「はい、まずはサラダ」

 顔ぐらいあるサラダボウルに詰め込まれたサラダは価格が1,000円代ということもあり、ボリュームは期待していたところがあるが、想像を少し超えていたようだ。2人の表情が固まっている。

「飲みながら、ゆっくり食べてください」

 そして、グラスのワインを差し出すが、

「ボトルで良かったのに」巧はさらりと言うが、
「今回、ヴィオニエのワインにしたので、少しいつもと雰囲気が違うと思うんです。でも暑い朝に華やかなで、少し渋みのあるワインも面白いかと思いまして。もし、この味が嫌なら、カリフォルニアのリースリングを持ってくるので、声をかけてください」

 莉子はグラスを滑らせるようにおくと、2人はすぐにフォークを取り上げた。

「「いただきまーす」」

 ドレッシングをまわしかけると、それぞれに好きな野菜を頬張っていく。
 温泉卵を割り、そこにクルトンがわりのバゲットを浸し、ひと口。それに巧は満足そうに頷いた。

「パン、ガーリックトーストになってんだ……うま!」
「普通はバターなんだけど、ワインを飲むので、この方がいいかなと」

 瑞樹は生ハムの塩気を堪能し、さらにワインを口に含んだ。
 と思ったが、近づけたグラスから香る匂いに驚いたのか、グラスが口から離れていく。
「花の匂いがするね」瑞樹は犬のように匂いを嗅いでいる。

「これ、奈々美と優が飲んだことあるやつ? なんか聞いたことある」

 巧は納得したのか、そうだろうという顔をしたが、

「どうです? 好き? 苦手? 嫌い?」
「「持ってきて!」」

 2人の声がハモるとは驚きだが、

「朝にこの香りが似合う気がする」瑞樹はウキウキと言い、
「オトナな雰囲気だよなぁ」巧はまだ寝ぼけてるのか、うっとりと呟いた。

 2人のオトナな雰囲気がどんなものかよくわからないが、優雅な感じなのだろうか。

 コーヒーのオーダーを受けながら、彼らの席にボトルを置きにいくと、
「莉子さん、写真とろー」瑞樹が声をかけてきた。
 肩を寄せて、2人はグラスを、莉子はボトルを持って、写ってみる。

「優ちゃんに送ろうっと」
「俺も奈々美に送ってやろう」
「私にも送っておいてくださいね」
「「りょ」」

 明るい挨拶が交わされる朝は気持ちがいいものだ。
 もっと早くに朝のテラスを開放していればよかった。
 そうは思っても、実行に移すまでに準備とヤル気が必要なのだから仕方がない。

「あいつらぁ……」

 気持ちのいい朝に憎々しい声が響く。
 巧と瑞樹からだ。
 席を片付けるついでに覗いてみると、ビキニ姿の2人である。

「ちょっと莉子さん、どう思う?」

 スマホをかざしながら2人は食ってかかってくるが、どうとも思えない。楽しそうなバカンス写真だ。

「水着似合ってるし、いい写真じゃないですか? さ、お2人もここでバカンスなんですから、不貞腐れずに」

 ワインを注ぎたすと、2人は改めて乾杯をする。
 それを見ていると、実に楽しそうな今日の始まりだ。
 莉子は今日の営業も楽しい日になるのだと確信し、新しいオーダーを取りに行くのだった。
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