café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第50話  オーナーへのお礼 ~中編

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 運転席は三井、後部座席には莉子と、そのとなりに連藤が座り、車は動き出した。

「すごい緊張してます……こんな高級車乗ったことないし」

 莉子はそっとシートをさすった。本革のようで、肌に吸いつく感触がする。室内の空気ですらラグジュアリーな雰囲気に感じてしまうし、どこを見ていいのかもわからなくなる。

 そんな落ち着きのない莉子の手を連藤が優しくつかんだ。

「ひっ! び、ビックリしました……」
「そんなに驚かなくても」
「ま、まだ慣れないんですから」
「いい加減、そこは慣れろよ」

 三井からの声に、莉子はでもでもだってとくりかえすが、バックミラーに写ったのは、なだめる連藤とひたすら照れてる莉子の姿だ。
 なぜか微笑ましくみえてくるのが、三井自身、笑えてくる。
 きっと、連藤が幸せそうに笑っているからだ。
 それだけのことが、とても嬉しいのがなぜか笑える。

 父親にでもなった気分か?
 頭のなかで三井は思うが、それも違う気がして、鼻で笑い、アクセルを踏みこんだ。

 後部座席では、莉子の手を必死になでる連藤がいる。

「莉子さん、手が異常に冷たい。そんなに緊張しなくて構わないんだが……」
「無理ですよぉ」
「みんな知ってる顔だろ? なにも気張らなくていいんだが」
「とはいえ、粗相はあってはいけませんし……」
「まぁ、莉子はフツーの一般人だもんな」

 三井の声に、莉子は大きく同意した。

「はい、あのカフェから出たことがない、一般人ですっ!」

 言いきっても現実はかわらないが、言い切りたいときもある。

 正直、労われる側だから、もっと、居酒屋みたいなところがよかった……

 莉子は口の中でぼやいてみるが、特別な時間を共有できるのは、本当は楽しいことなのかもしれない。
 だけれど、カフェ生活が長い莉子にとって新しい世界は、緊張する。

「今日、楽しめるかなぁ……」

 莉子の声は聞こえなかったのか、連藤はなんの反応もなかったが、太ももに莉子の手をのせ、温めるのはやめないようだ。

 車は人の波と同じ方向へ進んで行く。
 都会の中へ向かっている。
 喧騒と電光掲示板とビルと人とが入り混じり、都市が形成されていると、莉子ら改めて気づく。
 いつもカフェで寝起きをしているからか、都会の空気や都会の雰囲気に負けそうになる。
 こんな格好も、こんな街じゃ霞んで見えるのだろう。

 いつまでも明かりが灯る街並みが、こんなに近くにあったなんて忘れていた。

 煌びやかで、情報過多な街。

 ───あんまり好きじゃないな

 莉子は窓に映る自分の顔と、そこから透ける雑踏を眺め、ひとつ息を吐く。
 高級車らしくBGMはクラシックだ。
 高い高層ビル群を抜けて、裏に入って数分、車を下された。
 見上げると隠れ家の風格の白い建物がある。

「先入っててくれ。俺、車停めてくるわ」

 さりげない気遣いに驚いてしまうが、彼はいつもこうなのだろう。
 連藤がいるのもあって、遠くを歩かせない気配りがされている。

「では、入ろうか、莉子さん」

 連藤の肘が莉子へと向けられる。

 これはまちがいなく、連藤さんがエスコートをしてくれるということ……!!

 莉子はその素晴らしい現実に、そして、連藤のコーディネートに、驚いていた───

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