café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第49話 オーナーへのお礼 〜前編

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「そうそう、親父がさ、この前のディナーめっちゃ良かったって。久しぶりに帰ってくるから、この前のお礼したいってさ。来週の月曜日の夜、空けといて」


 ……昨日告げられたの莉子なのだが、これは伝言というより、命令に近い。
 時間は空けられるとして、なにをどこで食べるの? どんなTPO??

 まず、どんな服を着て行けばいいの?!───

「……無理ですよぉ……」
「莉子さん、どうしたの?」

 そう聞いてきたのは優である。
 カフェオレを飲みこみ、首を傾げて見せる。
 今日は瑞樹とデートということで、待ち合わせにカフェに寄ってくれていた。

「来週の月曜なんですけど、巧くんのお父さんたちに食事に誘われて、何を着てけばいいのかなぁって……」
「ああ、それ。瑞樹くん、店選んでるから、聞いてみたら?」

 ほら、来た。彼女は扉越しの瑞樹に手を振り、手招きをする。

「優ちゃん、どうしたの?」

 慣れた動作で彼女の横に腰をかけてくる。
 コーラ飲みたい。そういうので、莉子は凍ったグラスに注いで渡す。

「莉子さんがね、来週の食事会、何着てったらいいんだろ、って」
「あー、お店ね、この前みんなで行った二つ星の店にしたんだ。うまく予約取れたんだぁ」
「なるほど。で、何着ればいいの? 私、ジーンズとシャツしかないよ?」
「ワンピースとかないの?」

 優が聞くが、

「ない」
「うそでしょ?」絶句する彼女に莉子は畳み掛ける。
「ないです!」
「連藤さんとのデートのときは?」

 瑞樹が言うが、

「ジーンズ、シャツ、ジャケット、ハットで済む店に行きます」
「それはそれで潔いというか……」

 二人は腕を組んで悩んでみるが、

「じゃあ、莉子さん、明日の夜とかどう? 私、奈々美と買い物行くんだ。一緒に行こう。明日、6時に迎えに来るから。店、閉めといてね!」

 カウンターにじゃらりと小銭を積んで、二人は手を振り出て行った。

「ウチの店、なんだと思ってるのかしら……」

 そう言いながらも、明日の営業時間の変更報告に、FacebookとTwitterにひと言載せる。


「女の子と買い物なんて、久しぶりだな」


 微笑んだ莉子はつぶやき、今日の仕事をこなすことにした。





 ────翌日。




「莉子さん、これなんていいんじゃない?」

 奈々美も優もノリノリである。

「派手じゃない?」

 おずおずと出てきた莉子は、本当にしおらしい。いや、自信なげだ。

「あそこの店、結構カジュアルだったから、これぐらい色あってもいいって」

 優のセンスで持ってきたワンピースは、華やかで、今までに着たことがない色合いであり、柄である。

 ───顔が負けてる

「莉子さんはどんな色とか好きなの?」

 奈々美がワンピースを探りながら、振り向いた。

「黒、白、グレイとかかなぁ……」

 派手なワンピースを着ている莉子に、

「したら、ネイビーなんて着てみない?」

 いいねー、着てみよ! 優に肩を押され再び着替え室へと押し込まれた───




 ヒールの靴も、パーティバッグも、パンストすら無縁だったため、全て、何もかも全て、彼女たちは手配をしてくれた。
 食事ぐらいご馳走したかったが、それすらも拒絶してくる彼女たちは莉子にとって、天使でしかない。
 いや、地上に舞い降りた女神である。



 帰りは二人の馴染みのイタリアンに連れて行ってもらい、楽しくおしゃべりをして解散した───





 そんな日からあっという間に一週間は経つもの。
 莉子は緊張からか、あまり眠れなかった気がする。

 ソワソワしながら慣れない服に身を包んで店の前で待っていると、連藤と三井が迎えに到着した。
 到着した車は、高級外車だ。
 黒塗りの車は磨き抜かれ、埃ひとつない。

 三井は助手席の連藤のアシストをしに降りてきた。
 その手を借りて連藤も車から降り、莉子の前へと移動してくる。

「巧と瑞樹は、父親連れて先行ってるってよ。にしても、今日、決まってるじゃねぇか」

 三井が馬子にも衣装だな。そう言ったようだが、あえてそこは突っ込まないでおこう。

「実はね、優さんと、奈々美さんが選んでくれたんだぁ」

 嬉しそうに、くるりと回った。
 軽やかに弾むワンピースだが、首元から胸元まで、透けた素材の布で覆われ、それだけ見ると薄い生地のブラウスのようだが、胸元からは切り返しとなり、濃い紺色の生地が彼女の体を覆っている。
 その布地には刺繍が施されており、光の加減で光沢感が現れる。また彼女の体の華奢な細さが、布のおかげで可憐な雰囲気に彩られる。
 さらにハイウエストの位置でベルトが取られ、足長効果抜群だ。
 スカート丈は膝より少し上ぐらいだろうか。それも足長効果を追加しているようだ。
 高いピンヒールは真っ赤に染まり、ハンドバックもまた赤色だ。それが大人っぽさとカジュアルさがでて、黒髪ショートの莉子によく似合っている。

 連藤が莉子の体にそっと触れた。
 優しくかたどるように、手で彼女を

「青系の、ワンピースだな。サイズもぴったりだし、……カバンと靴は赤を選んだのか。素敵なコーディネートだ。よく似合ってる」

 その微笑みを莉子は見つめているが、無表情だ。

「なんで色が見えるんですか……?」
「色はなんとなく感じられるんだ。さぁ、莉子さん、行こうか」


 ───恐ろしい男!


 莉子は無言のまま連藤から差し出された手を掴み、黒塗りの車の座席へと体を滑り込ませた。
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