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第2章 カフェから巡る四季
第45話 経営会議22時開始
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自身の手帳を眺めつつ、三井が口火を切った。
「まず、現在の営業状況から見るに、人員の増員を考えていくのが得策だと考える」
その声にすぐに反論したのは連藤だ。
「人員増員とは簡単に言うが、こちらが求める時間枠に人が来るとは思えない。ここは繁華街から少し離れているし、学生が多い場所でもない」
とは言いつつも、眼鏡を上げ直し、別な答えに行き着いたようだ。
「だが人が増えればそれだけキャパを広げることができるだろう。現在雑貨展示に使用している場所も、飲食スペースに切り替えれば、売上の確保に繋がることは間違いない」
「それであれば、回転率が上がる可能性が高く、一人当たりの仕事量の軽減も含めて、我々は人員を増やすことを提案する」
そう告げた先には、莉子が大きなトレイを持って立っている。
少し呆れ顔でふたりに皿をさしだしながら莉子はいう。
「提案するのは簡単ですが、人件費をどこから確保しようと考えているのでしょーか? 食材費とその他光熱費を差し引いて、現在若干黒字にはなっているけど、それは私が一人で回してるから。人を雇えるだけのお金はありませんっ」
差し出された皿の上には、トマトソースにミートボールがからんだパスタが。
おいしそうなとぐろを巻いて、トマトとバジルの香りをただよわせている。
揚げ焼きにしたミートボールの表面が皮のようになり、トマトソースのスープがしっかり染み込んでいるのが見た目でもわかる。
適当なキノコも入れられ、具材が大きく散らばり、賄い料理とは言えない出来映えだ。
さらに莉子はスクリューキャップをひねり開けたのは赤ワインだ。
水用グラスに大雑把に注がれていく。
スキリューキャップを使用しているワインは、新世界と言われる新しめの地域であることが多い。
コルクより開けやすく閉めやすいため、飲み残しが酸化しにくいのも大きな利点だろう。
今回はスペインワインという。
安価な価格でそれなりの味がするとてもお得なワインの一つだ。
キャップを開けて香りを嗅いでみるが、瓶の口から漂うのは、重く渋い香りだ。
ひと口含むと、味は濃厚でありながら、酸味は少なめ。タンニンが舌にまとわりついてくる。
もう少し時間をおいた方がいいとは思いながらも、ついつい飲んでしまう。
───そんな現在、22時。
閉店後のカフェである。
「俺が週末入ることができたら、だいぶ楽になると思うんだが、なかなかそうもならないしな」
「連藤さんが入ってどうにかなるようじゃ、この店、やっていけてませんて」
「でも実際、莉子にかなり負担かかってるだろ」
「あんたたちが連日遅くに来るからな」
閉店間際に来られるのが一番辛い。
片付けも終え、レジも閉め、鍵をかけて……というところで、何か食べ物をくださいとやってくるのだ。
仕込みの時間もあったもんじゃない。
莉子は出来上がったパスタに粉チーズとタバスコを親の仇と言わんばかりに振りかけた。
「そんなにかけて大丈夫か?」三井は心配するが、
「いいの」一口頬張ると、かなり辛い。が、今のストレスを軽減する意味で丁度いい。
連藤はフォークでするすると巻きつけ頬張っていく。
時間を少しおいて飲んだワインとも相性が良かったようだ。
どれも美味しそうな表情を浮かべている。
「連藤さん、粉チーズかけようか?」
「お願いしたい」
薄っすらと散らすと、チーズの香りが鼻に届いたのか、満足そうに笑顔になった。
一方の三井は吸い込んでいる。
かなり、吸い込んでいる。
「三井さん、もっと静かに食べれないの? うるさいんだけど」
「いいんだよ、日本のパスタなんだから」
「よくそんな作法で彼女できますね……」
「女の前ではやんねーよ」
「あ、そーですか」
「しかし莉子さん、あまり強情張らずにバイトを入れられた方がいいと思うんだが……」
パスタの皿を抱えながら、莉子自身、途方に暮れてしまう。
わかっているのだ。
このままでは回していけないことぐらい。
それだけお客がいることはありがたいことなのだが、一人でこなすキャパを超え始めているのは重々わかっている。
ただ平日の20時以降はまずお客は来ない。
ただ金曜からの週末、その昼から夜が一人だとかなり辛くなってきたというところ。
最近は何を聞きつけたのか、ディナーの予約も入るようになった。
おかげで仕込みの時間もかかるようになり、調理もサーブも自分でとなると、お客様にも迷惑をかけそうな勢いではある。
「予約をセーブするかぁ」
「せっかく客が入り始めたんだぞ?」
「無理してまでやることないよぅ」
「でもそこからのリピーターも増えているし、難しいところだな」
「にしても、よくおふたりはうちの内情ごぞんじですね……経営データでも盗み見しました?」
彼女はワインを飲み干し、コップに注ぎ足す。
「そんなもの、客足と料理見てればわかるだろ?」三井はけろりと言ってくる。
「経営は会社の基本だしな」連藤も会社員ならわかると言いたげだ。
普通、わかんない!!!!
莉子は心の底から突っ込むが、声には出さなかった。
「でも、もうしばらくは一人でやってみようと思います。営業時間とか工夫できそうですし。……だって、ふたりもわかるでしょ? 私、集団行動できないタイプって……」
ふたりの手が止まる。
考えているようだ。
そのまま止まってしまう。
納得したようだ。
莉子もイメージしてみるが、どんどんドツボにはまる自分が見え、思わず首を振る。
だいいちに、莉子の中で、料理を出すまでが注文と思っているところがある。
その日の仕入れ状況やオススメなど、調理をする人間が説明するのが一番だと思っているからだ。
もしかしたらよく理解してくれるバイトが来てくれるかもしれない。
だが見てないところでのコメントがどうであったかは、信用するしかない───
「信用できる人なんてなかなかいないもん……」
これが彼女のホンネのところだろう。
両親だからこそ阿吽の呼吸で出来ていたのだ。
しょぼくれた莉子に、連藤が笑う。
「おいおい、考えていこう、莉子さん。しかし、このワイン飲みやすくていいな」
連藤は気に入ったようだ。
莉子はそれに微笑みながら値段を告げた。
「本当に? これね、500円」
「「は?」」
「これ、コンビニで買ってきたんです。意外といけますよね」
「俺、なめてたわー……」
三井の顔は悲しげだ。
この金額のワインで満足できる自分に、ショックだったようだ。
それも連藤もおなじようで、寂しそうな笑顔をうかべている。
ただただ安いワインを傾けながら、3人で大きくため息をついた。
「なかなかうまくいかないねぇ」
莉子がぼやくが、
「そうだ、莉子、連藤と結婚すれば解決するんじゃないか?」
「ああ、三井、名案だな! 莉子さんが好きな日だけ働けばいいから特に問題がなくなる」
「連藤さん、そこ同意しない!」
莉子に言われたことで、改めて真意を理解したようだ。
遅れて連藤の顔が耳が赤くなっていく。
「ほんとお前ら面白いよな」
「「うるさいっ!」」
夜中に差し掛かる時間だが、仕込みの時間も彼らがいるとつまらなくないのが不思議だ。
邪魔だけど、助かる存在。
なのかもしれない。
「莉子、もう一本くれよ」
「今日はちょっと早く帰ってくれてもいいんですよ……?」
───やっぱり、邪魔かも。
莉子はワインを飲み干し、翌日の仕込みに取り掛かった。
「まず、現在の営業状況から見るに、人員の増員を考えていくのが得策だと考える」
その声にすぐに反論したのは連藤だ。
「人員増員とは簡単に言うが、こちらが求める時間枠に人が来るとは思えない。ここは繁華街から少し離れているし、学生が多い場所でもない」
とは言いつつも、眼鏡を上げ直し、別な答えに行き着いたようだ。
「だが人が増えればそれだけキャパを広げることができるだろう。現在雑貨展示に使用している場所も、飲食スペースに切り替えれば、売上の確保に繋がることは間違いない」
「それであれば、回転率が上がる可能性が高く、一人当たりの仕事量の軽減も含めて、我々は人員を増やすことを提案する」
そう告げた先には、莉子が大きなトレイを持って立っている。
少し呆れ顔でふたりに皿をさしだしながら莉子はいう。
「提案するのは簡単ですが、人件費をどこから確保しようと考えているのでしょーか? 食材費とその他光熱費を差し引いて、現在若干黒字にはなっているけど、それは私が一人で回してるから。人を雇えるだけのお金はありませんっ」
差し出された皿の上には、トマトソースにミートボールがからんだパスタが。
おいしそうなとぐろを巻いて、トマトとバジルの香りをただよわせている。
揚げ焼きにしたミートボールの表面が皮のようになり、トマトソースのスープがしっかり染み込んでいるのが見た目でもわかる。
適当なキノコも入れられ、具材が大きく散らばり、賄い料理とは言えない出来映えだ。
さらに莉子はスクリューキャップをひねり開けたのは赤ワインだ。
水用グラスに大雑把に注がれていく。
スキリューキャップを使用しているワインは、新世界と言われる新しめの地域であることが多い。
コルクより開けやすく閉めやすいため、飲み残しが酸化しにくいのも大きな利点だろう。
今回はスペインワインという。
安価な価格でそれなりの味がするとてもお得なワインの一つだ。
キャップを開けて香りを嗅いでみるが、瓶の口から漂うのは、重く渋い香りだ。
ひと口含むと、味は濃厚でありながら、酸味は少なめ。タンニンが舌にまとわりついてくる。
もう少し時間をおいた方がいいとは思いながらも、ついつい飲んでしまう。
───そんな現在、22時。
閉店後のカフェである。
「俺が週末入ることができたら、だいぶ楽になると思うんだが、なかなかそうもならないしな」
「連藤さんが入ってどうにかなるようじゃ、この店、やっていけてませんて」
「でも実際、莉子にかなり負担かかってるだろ」
「あんたたちが連日遅くに来るからな」
閉店間際に来られるのが一番辛い。
片付けも終え、レジも閉め、鍵をかけて……というところで、何か食べ物をくださいとやってくるのだ。
仕込みの時間もあったもんじゃない。
莉子は出来上がったパスタに粉チーズとタバスコを親の仇と言わんばかりに振りかけた。
「そんなにかけて大丈夫か?」三井は心配するが、
「いいの」一口頬張ると、かなり辛い。が、今のストレスを軽減する意味で丁度いい。
連藤はフォークでするすると巻きつけ頬張っていく。
時間を少しおいて飲んだワインとも相性が良かったようだ。
どれも美味しそうな表情を浮かべている。
「連藤さん、粉チーズかけようか?」
「お願いしたい」
薄っすらと散らすと、チーズの香りが鼻に届いたのか、満足そうに笑顔になった。
一方の三井は吸い込んでいる。
かなり、吸い込んでいる。
「三井さん、もっと静かに食べれないの? うるさいんだけど」
「いいんだよ、日本のパスタなんだから」
「よくそんな作法で彼女できますね……」
「女の前ではやんねーよ」
「あ、そーですか」
「しかし莉子さん、あまり強情張らずにバイトを入れられた方がいいと思うんだが……」
パスタの皿を抱えながら、莉子自身、途方に暮れてしまう。
わかっているのだ。
このままでは回していけないことぐらい。
それだけお客がいることはありがたいことなのだが、一人でこなすキャパを超え始めているのは重々わかっている。
ただ平日の20時以降はまずお客は来ない。
ただ金曜からの週末、その昼から夜が一人だとかなり辛くなってきたというところ。
最近は何を聞きつけたのか、ディナーの予約も入るようになった。
おかげで仕込みの時間もかかるようになり、調理もサーブも自分でとなると、お客様にも迷惑をかけそうな勢いではある。
「予約をセーブするかぁ」
「せっかく客が入り始めたんだぞ?」
「無理してまでやることないよぅ」
「でもそこからのリピーターも増えているし、難しいところだな」
「にしても、よくおふたりはうちの内情ごぞんじですね……経営データでも盗み見しました?」
彼女はワインを飲み干し、コップに注ぎ足す。
「そんなもの、客足と料理見てればわかるだろ?」三井はけろりと言ってくる。
「経営は会社の基本だしな」連藤も会社員ならわかると言いたげだ。
普通、わかんない!!!!
莉子は心の底から突っ込むが、声には出さなかった。
「でも、もうしばらくは一人でやってみようと思います。営業時間とか工夫できそうですし。……だって、ふたりもわかるでしょ? 私、集団行動できないタイプって……」
ふたりの手が止まる。
考えているようだ。
そのまま止まってしまう。
納得したようだ。
莉子もイメージしてみるが、どんどんドツボにはまる自分が見え、思わず首を振る。
だいいちに、莉子の中で、料理を出すまでが注文と思っているところがある。
その日の仕入れ状況やオススメなど、調理をする人間が説明するのが一番だと思っているからだ。
もしかしたらよく理解してくれるバイトが来てくれるかもしれない。
だが見てないところでのコメントがどうであったかは、信用するしかない───
「信用できる人なんてなかなかいないもん……」
これが彼女のホンネのところだろう。
両親だからこそ阿吽の呼吸で出来ていたのだ。
しょぼくれた莉子に、連藤が笑う。
「おいおい、考えていこう、莉子さん。しかし、このワイン飲みやすくていいな」
連藤は気に入ったようだ。
莉子はそれに微笑みながら値段を告げた。
「本当に? これね、500円」
「「は?」」
「これ、コンビニで買ってきたんです。意外といけますよね」
「俺、なめてたわー……」
三井の顔は悲しげだ。
この金額のワインで満足できる自分に、ショックだったようだ。
それも連藤もおなじようで、寂しそうな笑顔をうかべている。
ただただ安いワインを傾けながら、3人で大きくため息をついた。
「なかなかうまくいかないねぇ」
莉子がぼやくが、
「そうだ、莉子、連藤と結婚すれば解決するんじゃないか?」
「ああ、三井、名案だな! 莉子さんが好きな日だけ働けばいいから特に問題がなくなる」
「連藤さん、そこ同意しない!」
莉子に言われたことで、改めて真意を理解したようだ。
遅れて連藤の顔が耳が赤くなっていく。
「ほんとお前ら面白いよな」
「「うるさいっ!」」
夜中に差し掛かる時間だが、仕込みの時間も彼らがいるとつまらなくないのが不思議だ。
邪魔だけど、助かる存在。
なのかもしれない。
「莉子、もう一本くれよ」
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