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第2章 カフェから巡る四季
第44話 花の香りに酔って
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楽しいお酒はすすみやすい。
ボトル半分を飲み干したふたり。
まだ半分が残っているとはいえ、仕事あけに飲むにはペースが早いかもしれない。
ふたりの目はすこしとろりと赤みを帯びている。
「……ね、莉子さん、莉子さんは瑞樹くんのことどう思う?」
優からの質問に莉子は驚くが、これが酔いの力かとも思う。
まだふたりは付き合ってはいない。
ここでうまく優の気持ちを探れられれば、瑞樹のアプローチも変わってくる……!
莉子はすっと気持ちをいれかえ、逆に質問を返すことにした。
「優さんはどう思ってるんですか?」
「んー…優しいし、気遣いできるし、明るいし、」
「それからそれから?」
「でもなんか、頼りないっていうか……」
なるほど。
ここに瑞樹の弱さが滲んでいたか───
莉子は納得しながらも、友人の奈々美へと回答者を変更する。
「奈々美さんはどう思います?」
振られた奈々美は戸惑いながらも口を開いた。
「……瑞樹くんは、すごくいい人。だけど、自信がないのかなぁ。伏せ目がちになることがあるから」
さすがですね。目の付け所が違います。
莉子は心のなかで意見を返したとき、再び優から声が飛んできた。
「で、莉子さんはどう思ってるの?」
急かされるが、なんて言おうか迷ってしまう。
だがここで瑞樹のことを取り繕っても、嘘で隠しただけになる。
莉子は一度深呼吸をし、ふたりに笑顔を向けた。
「瑞樹くんは瑞樹くんです」
「なにそれー」
優はふてくされたように言うが、一度考え込むしぐさをした。
「……んー……そっか……瑞樹くんは、瑞樹くんか……」
何か納得したようだ。
ワインを流し込み、
「そーいう手伝いならいいかな」
小さく呟いた。
「そういうってなに?」奈々美が聞くと、
「自信つけてもらうこととか、そーいうの。支え合いやすいでしょ? 私も自信ない方だし」
でも誰もが虚勢を張って、見栄を張って、自分を象っていると思う。
莉子自身も見栄と勢いで生きてきたのは間違いない。
手元で揺れるグラスのワインは花束のようだ。
目を瞑って香りを嗅ぐと、数多の花の中に沈められた気分になる。
鼻腔の奥から、喉の奥から、華やかで、あまったるい濃い香りがまとわりついてくる。
優しくも存在感のあるその香りは、まるで少女である。
純粋無垢な気持ちを思い出す。
好きなものは好きと言っていたあの頃を───
ドアのベルが大きく鳴った。
飛び込んできて早々に、
「奈々美、遅れてごめん!」
手を合わせて頭を下げる巧がいる。
合わせて瑞樹も一緒に頭を下げた。
「ごめんね、優ちゃん、待ったでしょ?」
「全然だよ、瑞樹くん。楽しく飲んでたから」
笑顔が咲いた優だが、瑞樹はふと目をそらしてしまう。
恥ずかしいようだ。
巧は自分のペースで淡々としている。
「莉子さん、ここオレがもつから、カードで」
手続きをしている間に女性ふたりは帰る身支度だ。
巧と瑞樹はよく気が効くと思う。
ふたりのカバンがさりげなく彼らの手の中にある。だからと言ってずっと持って歩くわけではない。
彼女たちもそんな男は嫌だろう。
準備が整うと、カバンが彼女たちに手渡された。
「これからどこに?」
莉子がたずねると、
「フレンチ!」瑞樹が明るく返してきた。
「駅3つ離れたとこなんだけど、カジュアルフレンチの2つ星の店あるでしょ? ようやく予約取れたんだよねー」
それだけで瑞樹の奮闘が垣間見れる。
奈々美は満面に笑顔を浮かべて話す瑞樹の腕をすくいとると、莉子へと向き直った。
奈々美も巧の腕を掴んでこちらを向く。
「ね、やっぱオシャレな人の方がいいよね、奈々美」
「優もそう思う?」
3人で見つめ合うと、軽く吹き出してしまう。
ぺこりと優は頭を下げて歩き出した。
4人は手を振り出発していく。
が、後ろ姿の瑞樹はまだたどたどしい動きだ。
さすがハーフの子は積極的ですね!
頑張れ、瑞樹くん!
弱気の君には、ちょうどいいかもしれないぞ!!!
半分のボトルのワインを自身のグラスへ注ぎ足しながら応援する莉子が、そこにいた。
ボトル半分を飲み干したふたり。
まだ半分が残っているとはいえ、仕事あけに飲むにはペースが早いかもしれない。
ふたりの目はすこしとろりと赤みを帯びている。
「……ね、莉子さん、莉子さんは瑞樹くんのことどう思う?」
優からの質問に莉子は驚くが、これが酔いの力かとも思う。
まだふたりは付き合ってはいない。
ここでうまく優の気持ちを探れられれば、瑞樹のアプローチも変わってくる……!
莉子はすっと気持ちをいれかえ、逆に質問を返すことにした。
「優さんはどう思ってるんですか?」
「んー…優しいし、気遣いできるし、明るいし、」
「それからそれから?」
「でもなんか、頼りないっていうか……」
なるほど。
ここに瑞樹の弱さが滲んでいたか───
莉子は納得しながらも、友人の奈々美へと回答者を変更する。
「奈々美さんはどう思います?」
振られた奈々美は戸惑いながらも口を開いた。
「……瑞樹くんは、すごくいい人。だけど、自信がないのかなぁ。伏せ目がちになることがあるから」
さすがですね。目の付け所が違います。
莉子は心のなかで意見を返したとき、再び優から声が飛んできた。
「で、莉子さんはどう思ってるの?」
急かされるが、なんて言おうか迷ってしまう。
だがここで瑞樹のことを取り繕っても、嘘で隠しただけになる。
莉子は一度深呼吸をし、ふたりに笑顔を向けた。
「瑞樹くんは瑞樹くんです」
「なにそれー」
優はふてくされたように言うが、一度考え込むしぐさをした。
「……んー……そっか……瑞樹くんは、瑞樹くんか……」
何か納得したようだ。
ワインを流し込み、
「そーいう手伝いならいいかな」
小さく呟いた。
「そういうってなに?」奈々美が聞くと、
「自信つけてもらうこととか、そーいうの。支え合いやすいでしょ? 私も自信ない方だし」
でも誰もが虚勢を張って、見栄を張って、自分を象っていると思う。
莉子自身も見栄と勢いで生きてきたのは間違いない。
手元で揺れるグラスのワインは花束のようだ。
目を瞑って香りを嗅ぐと、数多の花の中に沈められた気分になる。
鼻腔の奥から、喉の奥から、華やかで、あまったるい濃い香りがまとわりついてくる。
優しくも存在感のあるその香りは、まるで少女である。
純粋無垢な気持ちを思い出す。
好きなものは好きと言っていたあの頃を───
ドアのベルが大きく鳴った。
飛び込んできて早々に、
「奈々美、遅れてごめん!」
手を合わせて頭を下げる巧がいる。
合わせて瑞樹も一緒に頭を下げた。
「ごめんね、優ちゃん、待ったでしょ?」
「全然だよ、瑞樹くん。楽しく飲んでたから」
笑顔が咲いた優だが、瑞樹はふと目をそらしてしまう。
恥ずかしいようだ。
巧は自分のペースで淡々としている。
「莉子さん、ここオレがもつから、カードで」
手続きをしている間に女性ふたりは帰る身支度だ。
巧と瑞樹はよく気が効くと思う。
ふたりのカバンがさりげなく彼らの手の中にある。だからと言ってずっと持って歩くわけではない。
彼女たちもそんな男は嫌だろう。
準備が整うと、カバンが彼女たちに手渡された。
「これからどこに?」
莉子がたずねると、
「フレンチ!」瑞樹が明るく返してきた。
「駅3つ離れたとこなんだけど、カジュアルフレンチの2つ星の店あるでしょ? ようやく予約取れたんだよねー」
それだけで瑞樹の奮闘が垣間見れる。
奈々美は満面に笑顔を浮かべて話す瑞樹の腕をすくいとると、莉子へと向き直った。
奈々美も巧の腕を掴んでこちらを向く。
「ね、やっぱオシャレな人の方がいいよね、奈々美」
「優もそう思う?」
3人で見つめ合うと、軽く吹き出してしまう。
ぺこりと優は頭を下げて歩き出した。
4人は手を振り出発していく。
が、後ろ姿の瑞樹はまだたどたどしい動きだ。
さすがハーフの子は積極的ですね!
頑張れ、瑞樹くん!
弱気の君には、ちょうどいいかもしれないぞ!!!
半分のボトルのワインを自身のグラスへ注ぎ足しながら応援する莉子が、そこにいた。
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