café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第42話 ランチタイム

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 潮風を浴び始めてからそれほど経たないうちに、車はゆっくりと停車した。
 人の声が聞こえ、子供の声や犬の声もする。

「展望台に着きましたー!」

 莉子が背伸びをしながら声がかかる。

「となりに公園もあるんです。にぎやかですね」

 莉子の声に連藤があたりの音に耳をすましていると、電子音が響いてくる。
 日差しが消えたことで、車のホロを戻したのがわかった。

「さ、お昼にしましょうか」

 莉子がいうと、連藤は素早く車をおりてしまった。

「ちょっと、連藤さん、早い!」

 莉子が慌てつつ、トランクから敷物一式バッグ、お弁当一式を取り出すと、連藤に敷物一式バッグを手渡した。

「お弁当の方を持つが」
「連藤さん転けたら大変なことになるので」
「俺はそんな失敗はしない」
「いやいや。これから砂利道を歩くんですよ? 油断禁物です」

 莉子は手早く連藤に白杖を渡し、先導していく。
 砂利道の幅は50センチ程度の細い通路だ。
 くねくねと川のように道があり、それをたどってあるいていく。

「芝生に入ります。ちょうどいい木の下が空いているので、そこまで行きます」

 ふわりと足の裏がくすぐられる。
 それを莉子は慎重に歩いている。
 体がちらちらと連藤を見ているのがわかる。

「莉子さん、それほど振り返らなくても、俺は大丈夫」
「そうですか? いや、でも、心配になります。だって、初めてですからね、こんなところ一緒に歩くの」

 莉子にいわれ、連藤ははっとする。
 いつもはアスファルトだ。
 つい、自分基準で考えがちだが、莉子にとっては、連藤とすることはなんでも初めてなのだ。

「すまない、莉子さん。初めてだった」
「はい。私は初めてです。連藤さんとすることはなんでも初めてなので、初めてすることを大事にさせてください」

 莉子の手が少し強く握られる。
 気持ちを込めた手の力かと連藤は思ったが違った。
 短い坂のようだが、かなりの急角度だ。

「もっとゆるやかかと思ったんですけど……」

 一瞬しかなかった坂だが、莉子の息は上がっている。
 だが、すぐに莉子の足は止まった。

「着きましたー!」

 連藤を安全な場所に立たせると、見事な早さでシートを取りだし、そこに連藤の腰をおろさせる。
 莉子はというと、

「ちょっと、休みますー」

 いいながら寝転がっていた。
 
「あー、きもちいーですねー。連日の疲れが飛ばされていきますー」

 少し強めの風を浴びながら、連藤はそれに笑うが、「お疲れ様」とても優しい声もする。

「そうだ、連藤さん、初めての遠出に乾杯しましょう」

 莉子はがばりと起き上がると、意気揚々とスパークリングワインを取りだし、注いでいく。

「これはノンアルコールのスパークリングワインになります。色味も味も似ていて、すごく美味しいんですよ?」

 連藤に手渡すと、すぐにグラスが鼻先へと運ばれる。

「お……意外と本格的な香りがするな……」
「そうなんですよ。では、乾杯! かちーん」

 プラスチックなので音が出ないので、声で演出である。

「葡萄のフレッシュな感じがするし、味もすっきりとしててよく似てる」

 連藤がそう言うと、

「気に入っていただけたら嬉しいです。今、おつまみあげますね」

 生ハムやチーズを適当に乗せると、クーラーバックをテーブルにする。
 連藤の手を一度とって、場所を知らせると、連藤は好物のオリーブを口へと放り込んだ。

「パンもありますし、エビフライも用意しました。食べたくなったらいってください」

 連藤はうなずくと、なぜかあぐらをかきなおした。

「莉子さん、お昼寝したいっていつも言ってただろ?」
「はい、言ってましたが」
「どうぞ?」

 そういって叩く場所は、連藤の太ももだ。

「いやいやいやいやいや………」
「俺がしたいんだ」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!!」

 抵抗する莉子だったが、手首をつかまれ、引っ張られる。
 ストンと転がされた場所は、連藤の太ももの上だ。
 覗き込んでくる連藤の顔に、莉子は思わず赤くなる。

「莉子さん、日に焼けたかな? 頬が熱いな……」
「そ、そうですね!!! オープンにしてましたし!!!!」

 連藤の手は、優しく莉子の頭をなでる。
 それが魔法の手のようだ。
 どんどんと疲れが抜けていく。
 どんどんと瞼も落ちていく。

「寝ちゃったか……」

 寝息をたてる莉子の頬をもう一度なでた連藤は、再びオリーブをつまみ、見えない空を見上げる。

「……いい日だね、莉子さん」

 海鳥の声と、潮風を浴びながら、連藤は幸せそうに頬をゆるめた。
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