café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第34話 偉大なる父、来店!

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 夏に向けて、日に日に気温が高くなっている。
 イチョウの葉も黄緑色から、濃い緑へと深みを増し始めた。
 そんな折、巧から予約が入った。
 人数は4人。いつものメンバーだ。
 ワインはそこそこいいのを入れてくれ、とのことなので、そこそこいいのを入れておいたところで、つい3日前になる。


『1人追加 よろー』


 莉子は「りょ」だけ返し、当日を迎える。


 当日は初めて夏日となった日だ───


 夕方から食事会となっていたが、今日は夏の温度を引きずったまま夜へとなるよう。
 湿った気温が肌に張り付いてくる。
 晴れたらテラスでとは言っていたが、寒いよりはマシだとしても、暑い日にまだ体が馴染んでいない。
 皿をだしただけで莉子の額にじんわりと汗がにじんでくる。

「この暑さ、大丈夫かな……」

 心配するものの、巧であれば、『これぐらい、余裕っしょ』そんな声が聞こえてくる。

「ま、なんかあれば連絡きてるだろうし。予定通りにいきますか……」

 莉子は手際よく準備を進めていく。
 皿に、カトラリーに、ナフやおしぼり……
 もちろん料理の準備も万端だ。
 前菜からメイン料理までしっかり準備済み。ワインの温度も完璧!

 莉子はひと通りの準備を終え、5人の来店を待つことにした。
 いつもの4人に、プラス1人足される人物は誰だろうと、ずっと考えていたが思いつかない。
 あえて聞くこともしなかったのは、これは莉子の落ち度だったかもしれない。



 なぜなら────



「莉子さぁーん! 今日はありがと! いやさ、オヤジが一緒に飲みたいって言いだしちゃって……」

「あなたが莉子さんですね? 巧がいつもお世話になってます」

 ハットをとって顔を出したおじさまは、ロマンスグレー漂う、素敵なおじさまだ。
 柔和な雰囲気だが、目つきが違う。
 ひと目で相手を見定めることができる眼力がある。

 さらに……

「莉子さん、なんで固まってるの? うちの会長だけど、今日は巧のお父さんだからっ」

 瑞樹がそういうが、莉子は知っていた。
 今、目の前の人物が業界屈指の敏腕技術者だということを。
 その界隈では、『偉大なる父』と呼ばれていることを……
 なぜなら、かの有名なテレビ番組で特集が組まれていたのをチラリと見たばかりだ。
 ちなみにその内容は知らない。
 「へぇ……かっこいいおっさんだな」そんなことを言いつつ、別のチャンネルに変えてしまっていた……

「……ヤバい」

「何がヤバいんだ、莉子さん……?」

「え、いや、連藤さん…その、なんで言ってくれなかったんですか……?」

「会長のことか? いや、今日はただ夕食を食べに来た人だろ? 何をいう必要があるんだ……?」

 連藤の言うことはごもっともだ。
 ごもっとも、なのだが、なにかひと言あれば莉子の心構えが変わったはずだ。


 だが、変わったからといって、今日の料理になんの影響があるだろう……


 莉子はそこまで思考を回すと、相手が「人である」という認識に変更し、作業を再開した。


 5人をテラス席に案内しおえるが、すっかり夕陽は落ちてしまった。
 群青色の闇が満ちてきている。

 夕闇となったテラスは、数個のキャンドルと吊り下げられたライトで、手元がしっかりと見える。
 ランタン風のLEDライトはおしゃれで明るい。
 今の時期はまだ虫も少ないため、今日の食事は、気温以外は快適だ。

「お食事がとにかく美味しいと聞いてきました。楽しみにしてますね、莉子さん」

 巧パパからにこやかに告げられ、莉子は一瞬固まるが、

「いつもいってますが、私の料理は家庭料理の延長の延長なので、少しでも親しんでいただけたら……」

 とはいうものの、若干の手の震えが見える。

「莉子、お前、緊張しすぎだろ……」

 三井にバカにされるが、莉子はふにゃりとした笑顔を浮かべている。

「私、ようやくみなさんに緊張しなくなってきたんですから、勘弁してください……」

「えー? 僕たちにも?」

 きょとんとする瑞稀に莉子は笑いながら、手元はグラスをさばいている。

「もちろんです。初めて瑞稀くんと巧くんがきた日も緊張してましたよ」

 莉子が注ぎ始めたのはシャンパンだ。
 小さな泡がグラスにはりつき、グラスに汗がつきはじめる。
 5人にグラスを配っていく。

「乾杯はどなたが……」

「じゃ、連藤、お願い」

 巧が端的に指名すると、連藤は慣れたふうにグラスを掲げた。



「話が長いと嫌われるので、乾杯」


「「「「乾杯っ!」」」」



 始まった食事会だが、あまりの乾杯の早さに驚く莉子だった。
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