café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第31話 月曜日は情報交換

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「コーヒー隣に置くぞ」

 これが三井の朝の挨拶。
 連藤のデスクに、コーヒーを注いだカップをおくのが日課だ。

「三井、ありがとう」

 湯気のたつカップに口をつけた連藤に、三井はデスクによりかかりながら尋ねる。

「莉子とのディナーどうだったよ?」

 連藤はいるであろう方向を見上げ、満足そうに笑顔をうかべた。

「大変良かった。大通りから一本外れるんだが、イタリア料理の店に行ったんだ。
 カジュアルなんだが、チーズの種類が多いのと、セレクトされたワインがまた美味くて──」

 週明けの月曜日。
 憂鬱になりやすい月曜だが、連藤と三井はいつも楽しげだ。
 なぜなら、どこかへ出かければ、その情報を共有しているからだ。
 特に三井は現在彼女が7人いるため、遠方から近場まで幅広く情報がある。
 今までは一方的な報告だったが、最近はちゃんと行き来するほどのやりとりとなっている。

「そうだ、三井」

「なんだ?」

「その…昨日のミサキって彼女なんだが、その……」

 声をかけた割には言葉をにごす連藤に、三井は肩をつつく。

「なんだよ、気持ち悪い」

「その……顔が、そんなに…悪いのか……?」

「お前、たまに直球ですごいこと言うよな」

 呆れた三井の声が返されるが、連藤なりに気遣って言ったのはわかっている。
 仕事ではしっかり包み込むことができる人間なのだが、プライベートだとうまくつつみこめなくなるらしい。
 これは目が見えなくなる前からのことなので、性格なのだと思う。


『財産狙い?』
『見た目だけはモデル並み』
『言葉遣いが下賤』
『仕草がゴリラ』などなどなど……


 連藤語録をつくれば相当な言葉が拾えるのは間違いない。
 ただ、これらすべて、『三井の彼女に対してのみ』なのが、また素晴らしい。

 しかしながら、三井は首をひねっていた。
 今回はそれには当てはまらない。
 なぜなら、見た目はかわいらしく、悪い部類ではない。
 なにより……

「まず、顔はヤバくない。つかなんで、顔の話になるんだよ。お前、見えてねぇだろ」

「まあそうなんだが……その、いや、莉子さんが……」

「んあ? 莉子が?」

 声を荒げた三井をなだめるように連藤が手をかざす。

「莉子さんが、近づかないでほしいと言ってきたんだ。俺にお願いなどしない人だから、本当に驚いて……。理由を聞けば、『ちょっと気になるから』しか言ってくれなくてな……」

「それでなんで、顔がヤバくなるんだよ」

「近づかないでほしいというのだから、よっぽど側にいて欲しくない人だろ? それは見た目から醜さが漂っているからじゃないのか?」

「連藤、女が言う近づかないでほしいは、イコール、美人な人! になるだろ!」

「いや、あの言い方は、をしていた」

「それを先に言えよ」

 三井はぬるくなったコーヒーを飲み込み、腕を組んだ。

「しっかし、何がヤバイのかわかんねーな……だってさ、今までにない清楚感とお嬢様な感じ? そういうところが、もう、今までにない感じで良い子なんだけどなぁ……」

 目が見えなくとも鼻の下が伸びているのがよくわかる。
 それほどまでに声のトーンが明るく高くなっている。
 のめり込み方は結構なもの。

 しかしながら、莉子が連藤を近づけさせたくない理由が見えてこない。

「そういうわけだから、あの女性はカフェには連れてくるなよ、三井」

「なんでお前に指図されなきゃいけねぇんだよ」

「三井がカフェに来るより、俺の方がカフェにいることが多いんだから当たり前だろ」

「だからってなぁ……」

 そんなふたりのやりとりを遮るように、三井のスマホが震えた。
 顔がにやついている。

「ウワサしてた、美咲ちゃんだわ~」

 三井の浮ついた声が響く。

「あ~……昨日のカフェ、お気に入りになったってよ。なわけで、行かないって選択肢はねーな」

「……まったく」

 連藤はため息をつくが、三井が惚れると長い。惚気も長い。
 それは今までの付き合いで、わかっている。

 連藤はすべてをあきらめることに決め、自分のペースは崩さないことにも決めた。

 ただ今日は昼を挟んでミーティングがある。
 そのため、退社後にカフェにいくことになる。

 連藤は今日のワインと料理はなんだろうと考えつつ、仕事に取りかかり始めた。
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