café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第30話 三井の彼女遍歴

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 本日は日曜日。
 だがこのカフェは15時をすぎると、一旦お客がゆるやかになる。
 そのため、莉子はカウンターへと拠点をうつす。
 というのも、15時以降は軽食の対応としているため、厨房にこもる必要がないのだ。

 それを見計らって、連藤が来店。


 だが、連藤よりも気になる存在が、今日はいる────


「莉子さん、手が止まったようだが、何かあったか?」

 連藤の声に、莉子は慌てて手を動かし始めた。

「いえ、その、大したことじゃないんです。すみません、今、コーヒーいれますので」
「いや、せかしたつもりではなかったんだが……いつも莉子さんはきれいなリズムで動くので、少し気になっただけなんだ」
「連藤さんは、よく困ります」

 莉子は笑いながらいつもの手順で動き出した。
 カップにお湯を注いだあと、電動ミルで豆を挽き、ステンレスフィルターに粉を入れる。
 そのときに、2回ステンレスフィルターを叩くのが莉子のくせだ。
 そして、湯を注ぎ、豆のふくらみを確認して、また湯を注ぐ。
 全てにタイミングがあり、リズムがある。
 連藤はその音で莉子の動きを見ているのだ。

 そうして出来上がったコーヒーが、連藤の前へとすべりでてきた。

「いつもの香りだ」

 ふと顔を上げた連藤だが、優しい笑顔を浮かべている。
 莉子はそれを見るだけで幸せになる。
 これほどコーヒーをいれることが幸せなこととは、全く気づいていなかった。
 実は、コーヒーを入れることに、深い意味が今までなかった。
 「コーヒー」といわれたら反射的に動いていた、そんな作業だった。
 連藤が来てくれてから、仲が深くなってから、このコーヒーをいれることにも意味が生まれ、改めてこのカフェの運営が楽しくなっているところだ。

「おい、莉子、勘定」

 この物言いは、三井だ。
 莉子は伝票を受け取りながら、三井のとなりの彼女を見る。


 ───しかし、このとなりの彼女は、今月で9人目だ。長続きするかなぁ……。


 三井は最大7人の女性と交際している。この数字は変わらないのだが、今月に入って9人目。何番目かが入れ替わっていることになる。
 ちなみに今日連れている彼女は最新の彼女。
 この今回のナンバー7は強い!
 指名をもらうための必死さがひしひしと読み取れる。
 だが、三井には『健気な女の子』に見えているようだ。
 三井に一生懸命に気をつかい、必死に三井の気を引こうとする、健気な女子。


 こういうタイプに弱いとは、意外と三井さんもちょろい男だな……───


 そんな風に思われてるとも知らず、三井の鼻の下は伸びっぱなしだ。
 彼の腕にからみつく腕が心地いいようだ。

「はい、カードのお返しと、控え出ますので少しお待ちください」
「なあ、莉子、今日のコーヒー、なんだっけ?」
「……ん? えっと、コロンビアの単品、でしたね、今日お出ししたのは」
「彼女がうまかったってさ」

 紹介されたということは、正式にナンバー入りしたよう。
 莉子は、黒髪のボブ、白のシャツワンピースの彼女の足元と手元に注目した。
 白いサンダルがよれがみえるのに、手前に掲げるカバンはシャネルのロゴがデカデカと光り、とても新しい。
 
 莉子はすぐに笑顔を作る。

「お口にあってよかったです」

 コーヒーの話をしたつもりだったのだが、彼女は違うようだ。

「三井さんとどんな関係なんですかぁ?」

 莉子は反論したくなる言葉を必死に抑え、笑顔を崩さないように気をつけながら、

「私は店主です」

 言い切ってみるが、不審な視線は止まない。
 それに三井は笑い、彼女の頭をぽんぽんと叩いた。

「美咲、俺はここの常連。色々世話になってんだよ。そう、こいつが、あの連藤」

 カウンターに座る連藤を指差し、三井が言った。すると、美咲はすかさず前に出て、見えない連藤に会釈をする。

「連藤さんですね。三井さんから、よく聞いてますぅ」

 私、美咲といいます。などと言いながら、握手をしている。
 連藤は戸惑いながらも握手を返すが、連藤の作り笑いを莉子は初めて目の当たりにした。


 これは、これで、イケメン───!!!


 しかしながら、美咲という彼女は、しゃべりながら肩をすぼませたり上目遣いをしたりと忙しく、ボディタッチも甚だしい。
 その様子を眺めながら、莉子は一つの確信を得ていた。


 三井よりも連藤のほうが好みなのでは……?


 確かに三井は少し派手めな男だ。
 連藤と同じ服を着ても、きっと三井の方が色気があると思う。
 だが、この色気よりも勝る要素、それは、連藤が『盲目である』ということ。

「連藤さんって、お一人で帰れるんですかぁ? だいじょうぶなんですかぁ?」

 三井に上目遣いで心配を装っているけれど、これは介護したいオーラとみて間違いない。

「心配は無用だ。彼女もいるから問題ない」

 連藤が答え、指をさした先は、莉子。
 ふたりは付き合っているのだから、指をさすのは間違いではない。
 店主である莉子と恋仲なのは、いけないことではない。
 三井と比べれば、莉子と連藤は健全中の健全だ。
 なのに、美咲の視線は莉子へと注がれる。

 その熱い思いは憎悪だ。

 莉子はその視線に怯えながら、「いや、あの」などと言葉をにごすも、黒い激情は濁流のように押し寄せる。
 そんな美咲の視線には全く気づかない2人の男は、楽しげに会話を続けている。

「連藤、これからデートか」
「5時に店を閉じて、ディナーでも行こうと思ってな」
「お前、オーナー並みの権限あるな」
「たまには他の店でも食事がしたいと思って調整してもらったんだ。あ、莉子さんの料理が不味いとかそんなんじゃないんだが……」

 焦る連藤に、莉子は「私もどこかで食べるの好きなので」話を合わせてみるものの、気持ちとしては上の空だ。


 ひたすらに睨むこの女を、どこか遠くへ一刻も早く連れ出してほしい──!!!!


 三井に視線で訴えてみるものの、全く通じない!!!

 ただ莉子はこの感情に流されまいと、カウンターにしがみつくので精一杯だった。
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