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第1章 café R 〜ふたりの出会い、みんなの出会い〜
第19話:白い天井
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莉子は目を開けた────
だが、ここがどこかを理解するまでに時間がかかる。
なぜなら知らない天井に、薬品臭い空気、真っ白なベッド。
どれも見慣れないものばかり。
さらに体を動かそうとすると、全身がきしみ、寝返りすらできない。
「……なん…」
右腕を見ると大きなギプスがはめられている。
その事実が、あの夜の出来事が現実だったのだと思い知らされる。
「…れ…どうさ……」
つぶやいたつもりだったが、声がうまくださなかった。
ただ連藤の存在がまぶたの裏に浮かびあがる。
崩れた髪、切れた口、怒りの目、流れる涙────
「……だいじょ……かな」
声のかれ方が異常だ。
これは相当寝ていたのだと理解する。
そう思うと口の中がカラカラで、喉が乾いてくる。
左手には何本もの点滴がぶら下がり、莉子の体調を管理しているのはわかるが、実際に口に入れないといくら水分が足りていても、足りないと感じてしまうのは仕方がない。
「……はぁ……」
一度息をつき、莉子は首だけで部屋を見回してみた。
痛む体に舌打ちするが、どう見ても個室だ。
ありがたいやら、よくわからないやら……。
ナースコールをしようと、左手側に置かれたボタンに指をかけたとき、ドアがノックされた。
はい、と言いたかったが声はでない。
誰が来るかと、じっとドアを見つめていると、こそこそしゃべる声が聞こえる。
「オーナー大丈夫かな……」
「まだ寝てるかも」
その声に莉子は聞き覚えがあった。
瑞樹と巧だ──
莉子は入ってきたふたりに、ベッドから少し体を起こして、左手をあげて見せた。
見る間にふたりの顔が明るくなるが、莉子が痛みに顔を歪めてベッドに体を戻すと、すかさず瑞樹が駆け寄ってくる。
「オーナー、無理しちゃダメだよ」
瑞樹はボタンでベッドを動かし、上半身を起き上がらせてくれた。
これで少しは少し楽になると、莉子はほっと一息つく。
巧はとなりで花瓶に花をさし、満足そうにうなずいている。上手に花瓶にさせたようだ。
「……ありがと、瑞樹くん、巧くん」
巧と瑞樹は莉子の言葉ににっこり微笑み、そして首を横に振った。
「結構寝てたよ、オーナー。オレ、マジ心配したんだから」
「怪我も深くて、僕もすごく心配で……」
その会話の後ろから、のっそり現れたのは三井だ。
手際よく差し出してきたのはペットボトルの水である。
ペットボトルにはストローがさしこまれ、すぐに飲めるように準備済み。
三井は恥ずかしがることもなく、莉子にストローの先をくわえろと腕を伸ばす。
莉子は体の痛みもあり、その丁寧さを甘んじて受けることに決め、恥ずかしがりながらも、首を前につき出した。
三井は莉子の動きに合わせ、ストローを口へと運んでくれる。
その吸い上げた水の美味しさといったら…………!
ただの水だが、これほど美味しく感じたことはない!
莉子は何度も息を吸い、水を飲み込んでいく。
「……はぁ…生き返りました」
ペットボトルの中身はすでに半分を下回っている。
まだ飲めるかも、と思うものの、少し休もうと莉子はベッドに体を預けた。
「オーナー、熱も出してたからな。いくら点滴してても、喉乾くよな」
三井は言いながら、ニカッと笑う。
「ま、今んとこ、元気そうだな」
その声に莉子は首をかしげる。
「今、まだ鎮痛剤効いてるからな。あとから来るぞ」
三井の笑顔に莉子は引きつりながらも、後からくる痛みを今から想像しないように目を細めた。
「にしても、オーナー、寝すぎ」
その巧の言葉に莉子は尋ねた。
「どれくらい寝てました?」
「オーナー、今日で入院、2日目だよ?」
瑞樹の笑顔が憎らしい。
だがここで嘘をつくわけもなく、莉子はその現実を受け止めようと頑張ってみる。
頑張ってみるが、いろいろなことがありすぎて、整理できない。
実際、2日も店を開けている事実に、莉子は言葉を失った。
「……2日目ってことは、お店、…え、あ、2日目……え……」
あまりの動揺具合に三井は笑うが、瑞樹と巧は「大丈夫」を必死に繰り返す。
だが当人の莉子が大丈夫ではない。
何をもって大丈夫なのか、まず何から質問すればいいのかすらまとまらない。
「でも、いや……え、あの、……あ」
「焦んなよ、オーナー。いろんなことは、連藤から聞いたらいいぞ」
三井は莉子に言うと、巧と瑞樹の襟首をつかんだ。
まだ喋りたそうなふたりを引っ張りながら部屋を出て行くと、入れ違いに連藤が来た。
連藤の顔は痛々しく、それでも微笑む連藤に、莉子の喉が一気に詰まる。
「オーナー、大丈夫ですか……?」
連藤は白杖で椅子を探ると、ゆっくりと腰を下ろした。
微笑んだままの連藤に、莉子はどの言葉をかければいいのかわからない。
沈黙が部屋に広がっていく────
だが、ここがどこかを理解するまでに時間がかかる。
なぜなら知らない天井に、薬品臭い空気、真っ白なベッド。
どれも見慣れないものばかり。
さらに体を動かそうとすると、全身がきしみ、寝返りすらできない。
「……なん…」
右腕を見ると大きなギプスがはめられている。
その事実が、あの夜の出来事が現実だったのだと思い知らされる。
「…れ…どうさ……」
つぶやいたつもりだったが、声がうまくださなかった。
ただ連藤の存在がまぶたの裏に浮かびあがる。
崩れた髪、切れた口、怒りの目、流れる涙────
「……だいじょ……かな」
声のかれ方が異常だ。
これは相当寝ていたのだと理解する。
そう思うと口の中がカラカラで、喉が乾いてくる。
左手には何本もの点滴がぶら下がり、莉子の体調を管理しているのはわかるが、実際に口に入れないといくら水分が足りていても、足りないと感じてしまうのは仕方がない。
「……はぁ……」
一度息をつき、莉子は首だけで部屋を見回してみた。
痛む体に舌打ちするが、どう見ても個室だ。
ありがたいやら、よくわからないやら……。
ナースコールをしようと、左手側に置かれたボタンに指をかけたとき、ドアがノックされた。
はい、と言いたかったが声はでない。
誰が来るかと、じっとドアを見つめていると、こそこそしゃべる声が聞こえる。
「オーナー大丈夫かな……」
「まだ寝てるかも」
その声に莉子は聞き覚えがあった。
瑞樹と巧だ──
莉子は入ってきたふたりに、ベッドから少し体を起こして、左手をあげて見せた。
見る間にふたりの顔が明るくなるが、莉子が痛みに顔を歪めてベッドに体を戻すと、すかさず瑞樹が駆け寄ってくる。
「オーナー、無理しちゃダメだよ」
瑞樹はボタンでベッドを動かし、上半身を起き上がらせてくれた。
これで少しは少し楽になると、莉子はほっと一息つく。
巧はとなりで花瓶に花をさし、満足そうにうなずいている。上手に花瓶にさせたようだ。
「……ありがと、瑞樹くん、巧くん」
巧と瑞樹は莉子の言葉ににっこり微笑み、そして首を横に振った。
「結構寝てたよ、オーナー。オレ、マジ心配したんだから」
「怪我も深くて、僕もすごく心配で……」
その会話の後ろから、のっそり現れたのは三井だ。
手際よく差し出してきたのはペットボトルの水である。
ペットボトルにはストローがさしこまれ、すぐに飲めるように準備済み。
三井は恥ずかしがることもなく、莉子にストローの先をくわえろと腕を伸ばす。
莉子は体の痛みもあり、その丁寧さを甘んじて受けることに決め、恥ずかしがりながらも、首を前につき出した。
三井は莉子の動きに合わせ、ストローを口へと運んでくれる。
その吸い上げた水の美味しさといったら…………!
ただの水だが、これほど美味しく感じたことはない!
莉子は何度も息を吸い、水を飲み込んでいく。
「……はぁ…生き返りました」
ペットボトルの中身はすでに半分を下回っている。
まだ飲めるかも、と思うものの、少し休もうと莉子はベッドに体を預けた。
「オーナー、熱も出してたからな。いくら点滴してても、喉乾くよな」
三井は言いながら、ニカッと笑う。
「ま、今んとこ、元気そうだな」
その声に莉子は首をかしげる。
「今、まだ鎮痛剤効いてるからな。あとから来るぞ」
三井の笑顔に莉子は引きつりながらも、後からくる痛みを今から想像しないように目を細めた。
「にしても、オーナー、寝すぎ」
その巧の言葉に莉子は尋ねた。
「どれくらい寝てました?」
「オーナー、今日で入院、2日目だよ?」
瑞樹の笑顔が憎らしい。
だがここで嘘をつくわけもなく、莉子はその現実を受け止めようと頑張ってみる。
頑張ってみるが、いろいろなことがありすぎて、整理できない。
実際、2日も店を開けている事実に、莉子は言葉を失った。
「……2日目ってことは、お店、…え、あ、2日目……え……」
あまりの動揺具合に三井は笑うが、瑞樹と巧は「大丈夫」を必死に繰り返す。
だが当人の莉子が大丈夫ではない。
何をもって大丈夫なのか、まず何から質問すればいいのかすらまとまらない。
「でも、いや……え、あの、……あ」
「焦んなよ、オーナー。いろんなことは、連藤から聞いたらいいぞ」
三井は莉子に言うと、巧と瑞樹の襟首をつかんだ。
まだ喋りたそうなふたりを引っ張りながら部屋を出て行くと、入れ違いに連藤が来た。
連藤の顔は痛々しく、それでも微笑む連藤に、莉子の喉が一気に詰まる。
「オーナー、大丈夫ですか……?」
連藤は白杖で椅子を探ると、ゆっくりと腰を下ろした。
微笑んだままの連藤に、莉子はどの言葉をかければいいのかわからない。
沈黙が部屋に広がっていく────
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