café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第1章 café R 〜ふたりの出会い、みんなの出会い〜

第16話:翌日のランチタイム

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「オーナー、こんにちはぁ」

 ドアを開けながら現れたのは、瑞樹と巧だ。
 スーツを腕にかけての来店である。

「今日はちょっと暑いかも」

 奥のテーブル席に2人で腰を下ろすと、水を運んできた莉子へ言う。
 それに莉子も頷き、

「確かに日差しは強めですね」

 2人はコップを手に取りながらネクタイを緩めた。
 その仕草も手馴れたものだ。
 2人は水を一気の飲み干すと、お代わりをもらい、オーダーを告げた。

「オレ、ビーフシチューのセット。食後アイスコーヒー」
「僕はパスタのセットで、食後に紅茶で」
「はい、承りました」

 莉子がオーダー票に書き込み下がっていくのを見つめながら、巧と瑞樹は監視カメラのチェックを始める。

「つか、なんでオレたちがこんなこと……」

 言いつつも、連藤からのおつかいだ。
 見てこなかったなどと言えば、どうなることか……。


 あの冷たい視線だけは浴びたくない───


 サラダを運んできた莉子に、瑞樹が尋ねた。

「カメラ、予定の位置と違うところが1箇所ありますけど、どうしたんですか?」

 莉子は驚きながらも、チェック担当に選ばれたのが彼らなのだと理解した。


『私は目が見えないので、チェックは別の人に頼もうと思います。それに明日明後日は出先で会議のため、ランチに来られないので……そうですね、明後日の夜、ですね、予約を入れさせてください』


 昨日は「わかりました」と言ったものの、あまり考えていなかった。
 それよりも連藤とまた夜ご飯だと思うと、ちょっぴり緊張が走る。
 ただ嬉しい緊張なのが自分でわかり、莉子は首を振ってその気持ちをかき消した。

「えっと、仮に置いて見たとき、ちょっと見えづらいところがあって。それでずらしたんです。にしても、よくわかりましたね」

「連藤さん仕込みです!」

 瑞樹はにこやかに答え、サラダを頬張りだす。

「オーナー、あのカメラ、予定よりちょっと良いよ。暗視に強いタイプ。よかったね!」

 同じくサラダを頬張り始めた巧が付け足した。

 莉子は2人の話を聞きながら、あの小さな機械を見るだけで、なぜそこまで言えるのか不思議になる。
 だが、彼らの仕事はそう言う仕事なのだろう。
 ただ仕事が何なのかは、全く知らない。

 莉子はいつも通りに彼らに料理を運び、そして食後のアイスコーヒーと紅茶を運んでいく。
 汗をかき始めたグラスをテーブルに滑らせると、巧がにやりと微笑んだ。

「ね、オーナー、連藤さ、最近すっげぇ機嫌いいんだけど、なんかあった?」

 莉子はトレイを抱きしめて、一度考え込んだ。
 視線は莉子にとって左側をぐるぐるとしている───


「ないないっ!!! ないですっ」


 そそくさとカウンターへ戻る背中を見やり、瑞樹はふぅーんと唸った。

「あれ、なんかあったね、絶対。左側に視線あったから、間違いなく思い出してる、なんか」
「だよな」
「なにあったんだろね。すごく気になる」
「連藤に聞いたら、あいつはツラツラ話して面白くねぇから、オーナーに聞いてみようぜ」
「でも絶対喋んないと思う」

 そんなわけで、客がはけた隙に彼らの質問攻めが始まるが、思惑通りの答えに行き着かない。
 莉子は「ない」を繰り返すのみだ。

「「つまんなーい」」

 ダダをこねる2人に莉子がため息をついたとき、ドアベルがガランと鳴った。
 入ろうとしてきたのは、男4人組だ。
 皆、手にタバコが挟まっている───

「お客様、すみませんっ!」

 莉子が走ってドアまで行くと、頭を下げて、彼らを押し戻した。

「申し訳ありません。喫煙できるスペースがないもので、入店をご遠慮いただきたく……」

「いいじゃん、中で吸わないし」

「今、お手元のタバコには火がついておりますので、ダメです」

「かてぇな。店ん中、ガラガラじゃん。いいじゃん、ちょっとぐらい。昔は喫茶店だったんだろ?」

「ええ、大昔は。でも今はカフェです。恐れ入りますが、私はお客様を選ぶ権利もあります。私はあなたをお客としてもてなしたくないので、お帰りください」

「お前さ、この前もそうだけど、オレ、誰だかわかって言ってるの?」

 男4人のニヤニヤ顔が見える。その中のひとりを莉子はまじまじと見つめるが、テレビをあまりみないのが祟ったのか、全然わからない。本当にわからない。全くわからない。

 莉子は精一杯、申し訳ない顔を作った。

「……大変申し訳ありません。大変有名な方なのかもしれませんが、当店のルールがありますので、それはそれ、これはこれです」

「ったく、最近だってテレビに出てたのに……」

 ドアを殴ろうとした手を、巧が止めた。

「オレは知ってる、お前のこと。、だよな?」

「なんだテメェっ」

 さらに振り上げた手が掴まれた。

 ───三井だ。

「悪りぃな兄ちゃん、俺、ここでランチ食うんだわ。ここの店さ、タバコの人は入れないんだよ、知らない?」

 190㎝を超える浅黒色男の視線は真上から突き刺さったようだ。
 逃げるように飛び出していく彼らを見送り、莉子は今日2回目のため息を落とす。

「オーナー、変なのにつかまったな……」

 この三井の言葉が身に沁みる。
 本当に、変なのに標的になってしまった。


 そう気付くのは、明日の夜になる───
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